短編集「ナイトメアズ&ドリームスケープス」の2冊目。
「自宅出産」
マディーは自分では何も決断できないほどの奥ゆかしい女。しかし、良き伴侶を得、妊娠までした。だが、その夫も船で難破し、帰らぬ人となった。その頃、世界は突然一変した。ゾンビが現れたのだ。やがてゾンビは人々を襲い始めた。
ゾンビが現れるくだりにはびっくり。突然話が変わる。そして、お約束通り、マディーの死んだ夫も...。この話が自宅出産をすると「決断した」マディーとどう関わりがあるのか最後まで不明。
「雨期きたる」
ある若い夫婦がメイン州ウィローにたどり着いた。避暑が目的だったが、その町はものすごく暑かった。湿気が異常に高い。やがて二人はその町に住む老人と出会い、忠告を受ける。「今日は7年に一度の雨期の日だ。空からヒキガエルが降ってくる。それもどしゃ降りだ。悪いことは言わないから、今晩は別の町へ避難した方がいい」。
ナンセンスな話だ。空からヒキガエルが降ってくる? しかしキングはただの与太話では終わらせない。このヒキガエルどもの怖さといったら...。夜が明けてからのエピローグがホラーだ。
「かわいい子馬」
老人とその孫の会話。時間とは「かわいい子馬」だと。時間に対する概念?
さっぱり解らない。何を言いたいのか理解できなかった。これは物語か、哲学か?
「電話はどこから...?」
脚本形式。ある家に電話かかかってきた。助けて、という救助を乞う電話。受けたケティは、その電話の相手の声がどうも聞き覚えがあるような気がしたが、どうしても思い出せなかった。
脚本なので雰囲気がイマイチ伝わらない。これはキングのお遊びか?話はタイムパラドックスもの。面白くない。
「十時の人々」
嫌煙社会が進むアメリカ。喫煙愛好者はオフィスでの喫煙ができず、午前十時になるとどこからともなく公園に集まって煙草を吸うようになっていた。ピアズンは自分も含め、これらの人々を「十時の人々」と呼んでいた。ある日、いつものように煙草を吸っていると、信じられない光景を目にした。自分の上司がとんでもない化け物に変身していたのだ。
ホラー&ハードボイルドとでも言おうか。発想が面白い。喫煙愛好家にしか見えない化け物は、顔が蝙蝠のようなグロテスクな容貌で、日常生活に侵略して来ているのだが、嫌煙者には見えないというもの。映画で似たようなプロット(サングラスを掛けると怪物が見える?)を扱ったものがあったが、タイトルを失念。最後は蝙蝠人狩り。
「クラウチ・エンド」
イギリスはロンドン。「クラウチ・エンド」という街に入り込んだあるアメリカ人夫婦のうち、夫の方が行方不明になった。どうやら地下に消えたらしい...。
不気味な街、「クラウチ・エンド」。顔の半分がひしゃげた猫、指が鉤爪のように曲がった少年。クトゥルー神話に関係がありそう。NYARLAHOTEPとは、あの怪物のことではないか?
「メイプル・ストリートの家」
「ブラッドベリ」家では、ある何かが成長していた。それの正体に気づいた長男は、ある計画を実行する。
愉快。継父をこらしめようとする展開は、アメリカのアニメのよう。ただし、このいたずら(?)はとんでもないブラックユーモアだが。
「第五の男」
銀行の現金輸送車を襲撃し、大金を手にした四人組。そのうちの一人が仲間の裏切りで殺されたが、その友人だった男が銀行強盗の事を知り、残りの三人を殺して大金を横取りしようとする。
ストーリー通りの話。さして真新しくもないし、感情移入するわけでもない。強いて挙げれば、銃撃戦に若干の緊迫感があったくらいか。
「ワトスン博士の事件」
ホームズではなく、ワトスンが解決する密室殺人事件。
からくりも種明かしもさっぱり分からず。というよりも集中して読めず。
「アムニー最後の事件」
私立探偵アムニーの元にある男が訪ねてきた。仕事の依頼ではないらしい。やがてこの男は信じられないようなことを話し始める。
キング版SFといったところか。この男は未来から来たと言う。短編にしてはちょっと長め。つまらなかったので、読み終わるのに一苦労。そろそろ短編も飽きてきた証拠?
「ヘッド・ダウン」
あるリトル・リーグの地区予選の模様を書いたドキュメント(?)。特に、メイン州のチャンピオンシップをめぐる戦いは、ドラマティックだったようだ。
キングには珍しいノンフィクション物。しかも野球を題材にしたドキュメンタリーだ。しかし、特に優れたスポーツノンフィクションだとは思わない。文体が過去形ではなく現在形。
「ブルックリンの八月」
わずか2ページの物語。ある球場での日常的なひとコマ。「ヘッド・ダウン」と対をなす。
コメントのしようがない。
この巻では「雨期きたる」「十時の人々」「クラウチ・エンド」が面白かった。
二巻を通し、さまざまなキングに出会える。モダンホラー・正統な(?)ホラー・ゴシックホラー・アクション物・ハードボイルド・ミステリ・スポーツノンフィクション等々。個人的には気に入らない作品もあったが。
また、二冊を読んで、短編ばかり続くと最後の方は短編に食傷ぎみになり、少し飽きてきたことは否めない。
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