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物語のあらすじ

あらすじといっても、稲生家の怪異譚にはさまざまなヴァリアントがある。むろん大筋は同じなのだが、ここでは稲生武太夫が書き残したとされる「三次実録物語」を参考にあらすじを作成した。なお、「三次実録物語」の原文は谷川健一編『稲生物怪録絵巻』(小学館)で読めるほか、京極夏彦による現代語訳が「怪」第伍号(角川書店)に掲載されている。



三次五日市近くの布野村の貧しい百姓夫婦の間に男の子が一人いた。この子は非常に力が強かったので、五日市の関取に預けられた。やがて三ッ井権八と改名して江戸のとある大名に仕えたが、段々とわがままになり追放されてしまった。権八は平田五左衛門の家来となって三次へ帰ってきた。そこで権八は近所の若者たちに相撲の稽古をつけてやるようになった。

平太郎は家来の権平や弟を連れて相撲の見物へ行っていたが、やがて権八の弟子となった。稽古の休みの間に権八は自分の手柄話を語っていたが、武士を蔑むような発言をしたので、平太郎は反論をし、肝試しをしようということになった。場所は比熊山。その山の上には城主墓所という大きな岩があり、触れば即死、指差してもむかついて吐血するという。

夕方より雨が降り始め、夜が更けるほど雷が強くなってきたような日、平太郎は比熊山へ登り、印を置いてきたが、帰りが遅いので村中が騒ぎになってしまった。そこで、後日今度は二人で登りそこで百物語をすることになった。五月三日に二人は山へ登り、三次殿の墓の前で百の怪談を語り合ったが、化物が出ることはなく、二人とも安堵して山を下りた。

七月一日夜、なかなか寝つかれずにいると、障子が明るくなったり暗くなったりした。平太郎は障子を開けようとしたが開かず、無理やり障子を壊してしまうと、突然平太郎の両肩と帯をつかまれ、身体が宙に浮かんだ。塀の上を見ると一尺二寸の眼があり、松明のように光っていた。そのけだものの手が平太郎を引っ張っていたが、柱に抱きついて堪えた。帯が切れた拍子に倒れてしまったが、すぐ起きあがり刀を抜いて向かい合うと、けだものは真っ平になり床下へ入り込んだようだった。床板から突き刺してやろうと部屋に戻ると畳が上げられていた。そこで部屋中突いて回ったが手応えがなく、どうしたものかと思っていると、権八がやってきて一つ目の小坊主が現れて体が動かなくなっていたという。それから権平を助けだし、少し眠った。権平は正気を取り戻したが、暇を願い出た。叔父たちは家から避難するようにといったが、弟だけを預け、平太郎は家に残った。

それから毎日、怪異が起こった。しかし平太郎は驚きも怖がりもせずにいたところ、三十日になって裃の男が現れた。「自分は三千世界の魔王で山本太郎左衛門である。あなた様はどんなに秘術を尽くしても驚くことがなく、このままでは自分の通力が失われてしまうので、今晩限りで帰ることにした」と、木槌を置いて去って行った。

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