その29 見習い初営業


 さて、私には少々もったいないくらいのお師匠を得ることができたこのポッポ屋さん・・・見習い乗務がはじまりました。

 私の期の運転士教習の時点では、見習いさんは、最初の3日はハンドル握っちゃダメよっ♪ って事になっておりました。

 お師匠も「連絡員」という、指導操縦者の中でも仕切る方の役をやってた関係で、「まぁ、気にする事ぁねぇよ」ってノリで、最初からハンドル握らせちゃう・・・ってワケにもいかないですし、私は、運転台の中央で、信号喚呼をひたすらやってました。

 交代時・・・

 特急8両、異常ありません

 なんて感じで前任者と引継して・・・

 乗務員室に乗ると・・・ドアスイッチよし、バイパス(戸閉連動)スイッチよし って確認すると、運転開始です。

 出発進行特急!!!

 出発進行特急・・・私が大きな声で喚呼すると、お師匠も復唱するように喚呼して、運転します。

 車掌の頃から連絡マイク越しに運転士の信号喚呼は聞いてるので、どの辺に信号機があるのかとか、どの辺に速度制限があるのか・・・なんてのは大体バッチリわかるつもりでしたが、変な信号喚呼なんかはわからないんですね(笑)

 第一場内信号機がYG(減速)で、70キロ以下に速度を落として進入して、そのあと、そのまま(ブレーキは弱くしますけどね)第二場内信号機のY(注意)のための40キロ制限、しかも「複本線」進入なんて時は・・・

 「第二場内注意制限40複本線」・・・って喚呼ってのは、このとき、お師匠に初めて教わったかと思っております。

 なにせ、普通に聞いてたのは、「第二場内注意複本線 制限40」って喚呼ばかりでしたし・・・

 なお、速度制限の喚呼は、通常、ブレーキ開始の時か、速度制限以下で運転してるときは「速度制限標」もしくは「信号機」のところで速度喚呼するんですが、ブレーキかけながらですから、どれを優先して言うのかは難しいトコだったんですよ・・・

 上の「第二場内注意制限40複本線」ってヤツ、ネタが、「第二場内信号機が注意である」「複本線(この場合、本線ってのと複本線(待避線)の信号機があるんですよ)が開通してる」「速度制限は40キロで、ブレーキ中or今からブレーキかけます」ってのが混在するんです。

 で、「複本線開通」は後回しでかまわないんだから、速度制限が先ね ってのがお師匠の話でした。

 この辺も、指導操縦者会なんかで決めた取り決め事項みたいで、そう言う面で、運転規則関係は、バッチリマスターできたと思っております。

 そんな感じで、3日間、ひたすら隣でお師匠の運転を見ながら信号喚呼してました。

 そして3日目・・・

 車庫から回送を持ってきて、入換後、某○ノ○駅・・・車両は、「810−1〜」「809−1〜」・・・今は、改造で6両貫通なんですが、当時は3+3両編成で、今はなき運転台だったりします(笑)

 出発進行普通! 出発進行普通っ♪

 初めてハンドル握った営業車・・・ビビりつつも、お客様は少ないし、この会社の中では比較的運転しやすい800形ってことで、比較的おちついて運転した様な記憶があります。

 1ノッチで起動・・・考えてみれば当たり前の運転なんですが・・・スカ〜っと45キロまで加速して分岐器を通過、加速の方は結構だれでもなんとかなりますしねぇ・・・

 そして、ブレーキ・・・

 お師匠の指示のまま、「はいB1」「B3」「全部っ(B5)」 「3」・・・「抜きは任せる♪」って感じでブレーキ操作をやってました。

 すごいなぁ・・・って思うのが、お師匠のブレーキの指示・・・

 10年以上ハンドルを握ってるってのは、こういうことなんだろうなって思うんですが、ヒトの運転で、口頭でブレーキのカーブのイメージが作れるんですよね・・・

 後述するようになると思いますが、運転してて、基本ブレーキ操作の「2段目」ってやつで見過ぎてたりすると、「全部っ!!」って声がかかるんですよ・・・

 そこで「全ブレーキ」(ワンハンドルだとB5(あの会社、ブレーキ5段なので)、電磁直通ブレーキ(HSC−D)だと「全ブレーキ位置」)を手配すると、大体ぴったり行くんですよ・・・

 あのときは、マジ神様の様に思えました・・・

 最初のウチは、ブレーキの位置を指示されたままやってたので、そこまでの事はなかったですけど・・・

 とにもかくにもそんな感じで、見習いの運転業務が始まったのでした。