煙草は体に悪い。定説である。煙を肺の中に送り込むのが体によい影響を与えるはずがない。煙草を嫌う人はそう思っている。煙草を吸う人もまたそう思っている。だから煙草の害について語る必要なんてまるでない。恐らく私はこのことに関して無知な部類に属するだろう。しかしながら、食事時にたまさか物議を醸し出すこの問題にも多少思うことがあるので、ちょいと触れておきたい。
煙草嫌いの人は、煙草を吸うという行為そのものが理解できないのだろう。体に悪いと分かっているし、自分にはとてもうまそうには思えないようなものをどうして吸うのかと疑問に思っている。だから時として「煙草なんておいしい?」とか質問する。うまいから吸うに決まっているではないか。煙草は中毒性があるけれど、麻薬ほどではない。初めて吸ったときに好きにならなければ、中毒になるほど吸い続けるはずはなかろう。専売公社ができるわけもない。好きな人には何物にも代え難いのだ。例えてみればブランドもののバッグのようなものだ。私にはそのよさなんて全く分からないが、好きな人には堪えられない魅力だろう。まぁ、ブランドものを身につけて喜ぶ女性の笑顔を見るのも楽しいものではあるが。結局はそんなものだから、本人の好みで吸っているものに関して美味いまずいを問題にするのはナンセンスだ。
「体に悪いから止めた方がいいよ」というセリフも時々耳にする。百害あって一利なし。だがちょっと待て、確かに百害はあろう。詳しくは知らないが、それは明らかである。だが本当に一利もないだろうか。煙草を吸うと気分が落ち着くし、人によっては集中力が増す。現在はストレス社会だ。世の中には癒しグッズなるものが至るところに溢れかえっている。煙草もそのひとつだと私は考えている。一服点けずにイライラしているよりは精神衛生上いいだろう。精神不安定で包丁振り回されても困る。仕事の後でさも美味そうに煙草を吸う老人を知っているが、その人などは「煙草を吸えないくらいなら死んだ方がまし」とまで言う。健康のためと称してその人にとっての必需品を奪うことは、果たして本当に健康のためと呼べるのだろうか?体が元気で心が重病なのと、心が元気で体が重病なのとでは、いったいどちらがいいのか。それは本人が決めることだと思う。
どんなに妙な趣味であろうとも、本人の好きでやっているんだったら放っておけ、という議論に普通はなるのだが、煙草の場合にはそうならない。それは周囲の人にも迷惑を及ぼすからである。むしろ周りの人の受ける害の方が大きいというのだから始末に負えない。愛煙家にもいろいろあるが、傍若無人な人が多いのは確かだ。とりあえずマナーが悪い。自分の周囲だけに煙が立つようになんてできないから、混み合った店内ではどうしたって隣の席に影響が及ぶ。分かり切ったことなんだから、大きく煙を吐いたりせず、控えめにするくらいの配慮がほしい。子供や妊婦が近くにいたなら、「吸ってもよろしいですか?」と尋ねるくらいの心配りをせにゃいかん。なんの気配りもせずに「この頃喫煙家が隅に追いやられてネ・・・」なんてボヤくは烏滸がましいというものだ。
しかしながら私が最近よく感じるのは、煙草を嫌う人のマナーもまるでナッテナイということだ。これ見よがしにゲホゲホしたり、雑誌でパタパタ扇いだり、正直言って見苦しいこと甚だしい。かつて少数派で虐げられた恨みでもあるのかもしれないが、多数派となって一般通念という味方を得てからというもの、これでもかと好き勝手し放題・・・とまで書くと大袈裟だが、相手の悪口をヒソヒソと、かつ聞こえよがしに話したり、なんだかハタから見ていて恥ずかしくなる。うんざりする。そりゃ自分たちは煙草の煙で気分を害されてるかもしれないよ。だからって、関係ない人までイヤな気分にさせることないじゃん。ハッキリ言えば、灰皿が置いてあるんだったら、その店では煙草を吸うという行為は容認されているのだ。嫌煙家が煙のない場所で食事をしたいのと同じくらい、愛煙家が煙草を吸いながら食事をする権利がある。互いに配慮しあって双方の権利を妥協しあえばそれでいいのだ。
煙草の煙は一方的に流れてくるんだから、自ずと煙草を吸う人の権利が優先されるじゃないかという気持ちもよく分かる。だったらね、言えばいいのよ。誰に?もちろん店の人に。だってさ、煙草を吸う人も吸わない人も両方お客さんだし、煙草を吸う権利を認めているのもお店でしょ。それなら、その店がどれくらいの煙たさに妥協点を置いているのかなんて、本人に聞いてみなくちゃ分からないもの。「煙草が苦手なので、席を移ってもいいですか?」なんてことを聞いてみればいい。なんらかの手段を講じなければ、そんな店ウソだよ。もっともバーなんかでは愛煙家の方が優先されることもある。そういう空間だから仕方ない。店の空気を読むことは大切だ。とは言えお店からしてみれば、お客さんに煙草を控えるようにも頼みにくい。でもまぁ店主がお願いするまでもなく、普通の人なら少し控えめに吸うようにしてくれる。店の人を介さなくても、本人にお願いすればそれで済むことも多い。それが双方の妥協というものだ。なのに、頭ごなしに「ヤメロ!」というような顔をするから聞き入れてもらえない。愛煙家の傍若無人も目に余るが、嫌煙家の子供じみた反抗も見苦しい。まったくもう、どうにかならないものかね。
私は煙草に寛容だ。吸い方にさえ留意してもらえれば、さしたる苦情を言うつもりはない。そりゃそうだ。私は煙草好きだもの。小学3年生の頃には(深く考えないよう願います)「将来は絶対ヘビースモーカーになるぞ」と心に決めたくらいだ。嫌いなワケがない。でも、吸わない。酒か煙草かどちらかだけにしようと考えて、酒を選んだ。だから、吸わない。煙草は吸わないけれど、バーでシガーをふかすことはよくある。香りが好きだし、雰囲気も好きだから。シガーを好む人間から見れば、煙草の煙なんて大した問題ではない。要するに、あまり気にならないのだ。
確かに鮨屋で煙草をプカプカされるのは好きじゃない。魚の繊細な香りが分からなくなるってのもあるけれど、それ以上に鮨屋独特の清潔感のある空気が澱む気がしてイヤだ。でもね、私から見れば、煙草の匂い以上にイヤなものがある。香水をはじめとする化粧品の匂いだ。煙草を吸う人が煙草の匂いを分からないのと同じように、自分が纏っている化粧品の匂いにはあまり頓着しないものだ。甘ったるいような香水の香りが食べ物にマッチすることなんてない。私の母は私と違ってオシャレに気を遣う人だが、お鮨を食べに行くとなれば、当たり前のように香りの強い化粧品は使わない。そういうものでしょ?でも世の中には無頓着な人が結構いる。そして煙草の煙に顔をしかめている。私に言わせてもらえれば、煙草なんて吸わなきゃいいんだから可愛いもんだ。しかし、隣に座った女性に向かって「匂いがキツイので化粧を落としてもらえますか?」なんてことお願いできるか?私の化粧嫌いはかなりのものだ。それでも、自分を綺麗に見せたいという女性の心理を尊重したいから、なにも言わない。多少の不快感は我慢する。煙草だって節度を弁えて吸っているのなら、もう少し大目に見てやってもいいんじゃないかと思うのだ。まぁしかし・・・節度を守らないスモーカーが多いから議論は堂々巡りするのだが・・・。
うぅむ、なんだか知らないうちに、また女性読者の反感を買ってしまったような気がする。世の中なべてライト傾向。わたしゃ言うなればメンソール。ハッカの香りで息も爽やか。どうぞ煙たがらないでね。 |