一厘の仕組(天上編・地上編)

現代の神話

 

森本 優(2004/7/23)


創作紙芝居「みみずのミミちゃん」

森本 優 作

 

 

 

天上編

 

 

宇宙の彼方から青い地球を眺めている。アルビノーニのアダージョの曲が静かに流れる。

男の子の声がする。

「人間は何処から来て、何処に行こうとしているのでしょう。」

 

古代の繁栄した街のイメージが浮かび上がる。

バベルの塔を連想させる塔が街の中央に聳えている。

すると、天から光が放たれ塔を粉々に打ち崩す。

更に、洪水が街全体を呑み尽くす。

一艘の箱舟が波に翻弄されている。 

 

しばらくすると、ローマ帝国の繁栄と滅亡のイメージが浮かぶ。

更に時間を置かず、第一次世界大戦のイメージ、第二次世界大戦のイメージが次々と浮かび上がる。

ナチス帝国の台頭と、強制収用所の悲惨なイメージ。

そして戦後のウォールストリート証券取引所での活況、紙幣の乱舞のイメージ。

一方、飢餓と砂漠化、化学物質汚染、遺伝子操作、地球温暖化等のイメージ、

更にイラク戦争とパレスチナ紛争等々のイメージが、矢継ぎ早に浮かび上がる。

 

やがて現代の繁栄した街のイメージが浮かび上がる。

摩天楼が何本も街の中心に聳えている。

その内の一本が、何の前触れもなく崩れ落ちる。

と同時に、北極の氷山の一角も、静かに海の中に崩れ落ちていく・・。

 

青い地球を臨みながら、

しばらくして、母親の声がする。

「人間は昔も今も変わっていないらしい。」

「人間として生まれて来ても、支配欲・金銭欲等の物欲のために、自らの身を滅ぼしてしまっている。」

「人間にとって世界とは、単なる収奪の対象としてしか映らないらしい。当然しっぺ返しがくるのが道理というもの。」

 

男の子の声がする。

「僕たちは一体どうしたらいいのでしょうか、お母さん。」

 

母親の声がする。

「大丈夫、この宇宙の根底には、そしてあなた達自身の中にも、この全宇宙を生み出し支え続けている私がいつもいるわ。地上の誘惑に惑わされることなく、私が呼びかけている声を耳を澄ましてお聞きなさい。私が導きます。」

更に続けて、

「この地球上でも、一人でも多くの人間たちが自らの耳で私の声を聞き取ってくれるようになれば、やがて人間は、自らが作り出してきた悪夢から解き放たれるようになるはずです。そのような悪夢は、生命宇宙という大河の表面上に結ばれた、一つの泡ぶくでしかないもの。」

「さあ、勇気と希望を持って行きなさい。あなた達には尊い役割が与えられているのだから。」

 

しばらくすると、幾つもの星が尾を引いて地球に流れ込んでいく。

 

明け方の沖縄の海と波の音。

イザイホーの歌がかすかに流れている。

天空を臨むと、星が一つ大きく輝く。

 

 

 

 

地上編

 

 

人形劇

登場人物  エコビジネスを立ち上げた女の子

      みみずのミミちゃん

      天使マヤ

 

女の子が弁当売りの格好で登場する。

「弁当・弁当、じゃなかった、みみず・みみず、いらんかえー。とっても働き者のミミちゃんだよー。大地を耕し豊かにするミミちゃんだよー。みみず・みみず、いらんかえー。」

 

その後で独り言をいう。

「エコビジネス起こして早三年。現実って厳しいよね、まだ一匹も売れていないんだものね・・。」

 

天使マヤ現れる。

「ミミちゃんちょうだいな。」

 

女の子の表情がパッと明るくなる。

「やったー、はい、百円頂きます。」

「ところでお姉さん、どこの人。あんまり見かけないけど・・。ミミちゃん働き者といっても、手も足もないもんで、あまりこき使わないで下さいましよ、お姉さん。」

 

女の子、ミミちゃんを渡して、退場する。

 

天使マヤ、ミミちゃんを大地に戻す。

「さあミミちゃん、私と一緒に働いてちょうだいな。お母様の言いつけで、この地上を再生させなければならないの。」

 

ミミちゃん、天使マヤの正体を知り、丁寧に頭を下げる。

「はい,わかりましたマヤさま。」

 

ミミちゃん、大地に入り込み、その中で一所懸命に大地を耕し土を豊かにしていく。

 

ミミちゃん、労働歌、ヨイトマケの歌を歌う。

「お母ちゃんのためならエーンヤコーラ、マヤちゃんのためならエーンヤコーラ、もう一つおまけにエーンヤコーラ。」

 

ボロディンの曲が流れる中、天使マヤ、ミミちゃんを指揮するように、腕を振っている。

 

やがて、大地から双葉の芽が出、成長して大きな樹となり、鳥や獣の番が集まり、遂には男女一組の人間が裸で現れ、高く聳えている樹の真下に佇む。

樹には美味しそうな果実がたわわに実っている。

 

天使マヤが声を上げる。

「さあ、これで私の役割は終わったわ。人間たちの子孫が、この地上の果実を地上の生き物たちすべてと分かち合ってくれるとうれしいんだけど・・。」

 

ミミちゃんが言葉を挟む。

「でも人間という生き物は、どうも不完全で欲深いようです。どうかすると、果実しか目に入らないようですよ。しばらくしたらまた、その果実を奪い合うようになってしまうんじゃないんですか。」

 

天使マヤが答える。

「地上の世界が堕落して混沌とした状態になり、お母さまの声が地上の人間たちに届かなくなるような時こそ、お母さまの声を伝える役割を担った星たちが、既に数多くこの地上に下ろされています。お母さまはそれらの星たちを通して、人間たちを本来の道に導くはずなんだけど・・。」

「いけない、もう時間だわ。」

「ではミミちゃん、さようなら。本当にご苦労さまでした。」

 

ミミちゃん心配そうに、「マヤさまこそ、お疲れさまでした。さようなら・・。」


ナレーター

「さてさて、人間たちはこのまま愚行を繰り返して,終には滅んでしまうのでしょうか。次回からは、地上に下ろされている聖なる星たちの活躍の物語です。お楽しみに。」

 


目次

ホームページに戻る