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「日本動物大百科2哺乳類U」(平凡社)P.130、野生化した300頭のヤギの群れ(ナコウド島)

 ヤギは、もともとイラン原産の家畜動物、日本には江戸時代に持ち込まれた。ヤギは、利用価値のない荒地でも飼うことができ、手間もかからないうえに、食料資源としての価値も高く、世界各地で家畜として飼養されている。家畜としてのイメージが強いヤギだが、食性が広く、しかも繁殖力が非常に強いことから、家畜の中でももっとも野生化しやすい動物だという。

 小笠原諸島には、1830年、ハワイから父島に移住したセボリーらがヤギをつれてきたのが始まりと言われている。小笠原の各島は、餌となる植物が豊かで水場もあり、おまけに捕食者もいないなどの好条件がそろっていた。

 小笠原諸島の野生ヤギの被害が目立ち始めたのは、戦後、とりわけ島が米軍の統治下から日本に返還された1968年以降だ。それまでは、島民がときどき島にやって来てヤギ狩りをし、ヤギの数が増えないよう間引きしていた。

 ところが、返還後、島の大部分が国立公園に指定され、狩猟禁止、父島と母島以外は移住も禁止となった。ヤギは完全に島に野放し状態となり、野生化が一気に進み、数がどんどん増えた。ヤギたちは、草木を手当たり次第に食べ、急速に島の荒廃が進んだ。

 ヤギの被害は、小笠原固有植物に大きな被害を与えただけでなく、植物の減少で、オガサワラシジミやシマアカネといったチョウやトンボの生息環境の悪化も危惧されている。さらに、草木が食い尽くされ、剥き出しになった赤土が流れ出して海を汚染、サンゴやカツオドリなどの営巣地にも悪影響を及ぼしている。

 無人島・ナコウド島は、かつて島の海岸線まで緑のジャングルにおおわれ、沿岸の海も青々と澄んでいたが、今や島の半分が草木も生えない「死の島」と化してしまったという。

 こうした移入種問題について、「動物には罪はない。放っておけば、やがて生態系は安定する」といった楽観論を唱える人がいる。しかし、こうした事例を見る限り、全く的外れであることがわかるだろう。一体、破壊し尽くされた後の「死の島」の生態系に何の意味があるのだろうか。逆説的に考えれば、人間が過ちを犯した壮大な歴史博物館ともみることもできる。二度と過ちを繰り返さないために「死の島」を残すことも、それなりに意味があるのかもしれないが・・・

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