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 アフリカ最大のビクトリア湖は、面積6万8千平方キロ、ケニア、ウガンダ、タンザニアの三カ国に囲まれた世界第3位の広さをもつ国際湖沼だ。どれだけ巨大かというと、湖の広さは九州の2倍、琵琶湖の何と100倍もの広さをもつ湖なのだ。かつては、約400種類の固有種が生息、研究者たちに「ダーウィンの箱庭」と呼ばれるほどの「生物多様性の宝庫」と言われていた。

 英国植民地時代の1954年、湖に生息する淡水魚の乱獲によって日本に輸出されている「スズキ(ナルパーチ)漁獲量が激減したため、窮余の策としてナイルパーチという外来魚が放流された。この魚は、体長2m、重さ100キロ、捕獲された最大は何と400キロという巨大な肉食魚である。スズキに似ていることから日本には「スズキ(ナイルパーチ)」として輸入されている。この魚が、日本のファミリーレストランフライをにぎわし、学校給食や弁当の材料に使われていることは余り知られていない。

 ビクトリア湖では、ナイルパーチの移入によって、一時、漁獲量は飛躍的に伸び、海外へ輸出するなど、大成功したかに見えた。ところが地元の人は、高価なために、ほとんど口にすることができず、輸出に回されているのだ。また面白いことに、日本のバス釣りと同様、「アフリカンゲームフィッシング」として脚光を浴び、日本からも多くのアングラーたちが淡水魚最大のビッグゲームを楽しむためにやってくるという。ビクトリア湖の財産を食い潰して繁殖したナイルパーチは、確かに大きな経済効果をもたらしたが、その効果の裏に、様々な問題が表面化していった。

 もともとビクトリア湖に生息していた魚の殆どが草食性だった。そこに、肉食性のナイルパーチを移入したことによって、もともといた固有種400種は200種まで激減、湖の生態系は壊滅的な状態になってしまった。ビクトリア湖の魚たちは、沿岸の藻類を食べていたが、在来種が激減すると、湖には藻がはびこるようになった。藻類が湖に増えすぎると、湖が酸欠状態になる。さらに多くの在来種が絶滅の危機に瀕しているいう。

 世界的に最も価値ある湖の一つ・ビクトリア湖だったが、ナイルパーチの商業的開発は、地域の伝統的な漁業や水産物の加工を衰退させ、湖に依存している地域社会をも荒廃させてしまった。

 「ビクトリア湖の悲劇」と呼ばれるナイルパーチの事例は、微妙なバランスで維持されてきた生態系に、ナイルパーチのような生態系の頂点に君臨する肉食魚を持ち込んだ場合、琵琶湖の100倍もの面積をもつビクトリア湖でさえ、在来の生態系に壊滅的な打撃を与えることを示している。これと似たケースが、日本の淡水の頂点に君臨する肉食魚・ブラックバスやブルーギルの移入種問題と言えるだろう。

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