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「日本動物大百科2哺乳類U」(平凡社)P.140をデジカメで撮影、アライグマ

 アライグマは、北米が原産で、魚、小鳥のヒナや卵、小型哺乳類、果実、農作物、人家の残飯に至るまで幅広い雑食性。湿地や農耕地から市街地まで多様な環境に適応し、生息地を拡大している。また、優れた学習能力をもち、鋭敏な手先を器用に使ってオリの鍵をはずしたり、ドアを開けたりする脱走の名人でもある。

 繁殖は1回に3〜6頭も生み、妊娠に失敗したり子供が死ぬともう一度妊娠することもあるという。放っておけば恐ろしい勢いで増える。もちろん、日本には天敵もいない。

 アライグマは、幼獣の時は人間になついてかわいいものの、生獣になると気が荒く凶暴になる。もともと野生動物だから、大人になると手のつけられない乱暴者になることは自明、イヌやネコのようにペットとして飼うには無理があった。

 しかし、1970年代に放映された「あらいぐまラスカル」により、ペットブームが起こってしまった。一時はペットとして数万頭が輸入されたが、飼い主が持て余し、野山に次々と捨てられる結果を生み出した。今でもペットとしての人気が高く、放獣は後を絶たない。試しにインターネットで「アライグマ」で検索したら、その飼育日記の多さに驚いた。

 出産の時は、樹洞や岩穴のほか、納屋や畜舎の屋根裏、放棄された家屋などを積極的に利用し、人間を恐れずに人家に出没する。人気アニメ「あらいぐまラスカル」に登場する少年は、最後に、ラスカルは自然とともに暮らすのが一番だと森に放す。このラストシーンを真似て捨てる人も多かったらしい。

 恐らく、持て余したアライグマを、物語にかこつけて、少しでも捨てる罪悪感から逃れようとしたのではないだろうか。これは北米原産のブラックバスを「生き物に優しい」などと美化してリリース(再放流)する行為に似ている。しかし、原産国北米では、野生に帰せても、日本にはもともといない生き物なのだ。当然のことながら、大きな移入種問題を引き起こす結果となってしまった。

 北海道酪農地帯では、コーンやスイカ、メロンが食べられ放題。アライグマは夜行性だから手に負えない。被害にあったスイカを観察すると、手先の器用さをいかんなく発揮、皮に穴をあけて中身だけすっぽりくりぬいて食べている。さらにスイカをかじって踏み潰し、食い散らかす。畑荒らしだけでなく、ニワトリ小屋や池のコイまで襲うようになり、被害はエスカレート。

 酪農家の畜舎には、好物のコーン入り混合飼料が年中あり、冬には干草を巣に子供を出産。年々農業被害が深刻化した。さらに、アライグマ回虫の幼虫移行症という人畜共通感染症を媒介するのだ。

 1997年北海道恵庭市では、アライグマを狩猟の対象とし駆除することを決定。だが、「罪のないアライグマを殺すのはかわいそう。人間の身勝手だ。」という動物愛護者などからの電話や駆除作業を追いかける取材報道に悩まされたという。

 1997年、札幌市郊外の「鷺の森」で大きな事件が発生した。アライグマが、アオサギの集団営巣地を襲って卵を全て食べてしまったのだ。この襲撃事件以来、百羽近くいたサギたちは、二度とこの森には戻ってこなくなったという。外敵のいない安全な森に、いるはずのないアライグマの襲撃で大きなパニックに陥った結果だろう。

 四方を海に囲まれた島国では、大陸から侵入してくる野生動物が突如現れたら、まさにエイリアンのように見えるであろう。今まで見たこともない生き物から逃れる術をもたない在来生物たちは、一様にパニックに陥ることは容易に想像できる。鳥ならその場から一時的に逃れることができるかもしれないが、テリトリーが競合する生き物たちやブラックバスの脅威にさらされる湖沼の淡水魚たちは一方的に食われるしかない・・・同じ島国に生きる生き物として、在来の魚たちを愛する釣り人として、何とも悲しい。

 アライグマの影響は、農業被害にとどまらず、キツネやタヌキ、イタチ類などの在来種との競合や野鳥への被害など、生態系全体へと広がった。現在は、北海道、東京、千葉、神奈川、岐阜、愛知などで自然繁殖、年々生息域を拡大している。北海道では、在来の生物と自然環境の保護を目的として、アライグマを駆逐する方向で動き出している。

 ペットとして取引された動物を捨てることは、動物管理法で禁止されているが処罰に至るケースは少ない。これは、ブラックバスやブルーギルを許可なく放流することを禁止しているにもかかわらず、密放流は一向に止まず、処罰されるケースがほとんどないのと同じだ。アライグマやブラックバスが抱える移入種問題は、単に法律で規制するだけでは解決できない難しさを実感させる事例だ。

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