832Aシングル・2Wx2ハイブリッドステレオアンプ

更 新:Feb. 5,2014、832A動作点の解説を追加しました
更 新:Aug.23,2008、アンプの回路図を追加しました
初版 Dec.28,2007

 昔アマチュア無線(ハム)をやっていた名残で、ジャンク箱で送信管が遊んでます。その中で832Aや829Bなどの双ビーム管はガラス玉に角が2本生えたよく目立つ球で、これを何とかしてあげようと思って作った832A(前ページのイラスト参照)を使用したステレオミニアンプです。
 832Aはプッシュプル(PP)で出力5W程度の144Mhzバンド用ブースターを作った時に使用した球で、オーディオで使用する場合のデータはありませんが、プレート損失7WでAB2PP動作なら10W程度出せるようです。
 この球の兄貴分の829BはPPで44W出せるオーディオのデータがあるのでアンプに使った例を見かけますが832Aの例は殆ど見かけたことがありません、しかも、シングルのステレオは見たことがないので挑戦してみました。
 このアンプでは、形の良い832Aがよく見える外観とすること、テニスボール大の球のサイズに合わせて出来るだけ小さく作ることを目標としました。終段のパラメータはVHFのB級リニアアンプの経験を基に、プレート電圧250Vでプレート損失7W以下のA級シングル動作を目標にバイアスを24V、負荷を7KΩとしました。特性表を見るとこのバイアス電圧ではもっと電流が流れる筈ですのでこの球は疲れているようです。また、負荷インピーダンスは10KΩ以上が良いのですが値段と音質とサイズを満足する適当なものがなかなか見つかりませんでした。
 終段はこれで決まったのですが、前段と電源を小さくしないと小さなアンプにまとまらないので思案していました、また、出力トランスも小型のものが必要なため、これらを探したところ「市川」のITS-2.5WSが見つかりました、さらに、このサイトで250V80mAのスイッチング電源と電圧増幅部が1枚の基板にまとまったものを発見し、渡りに船とばかり試してみることとしました。
 基板は、12BH7Aパラ・ステレオ用のもので回路図はついてこなかったのですが、仕様から判断すると電圧増幅部は普通のOPアンプの出力らしく9V RMSとなっていて、本アンプのバイアス24Vに対しては不十分ですが、あまり出力を要求せず、球の特性の真ん中のおいしい部分だけ使うこととして、半導体と球の組み合わせのハイブリッド構成としました。
 ハイブリッドとしたことについて、私は昔、計測回路やコンピュータのインタフェースに手を染めていた関係でOPアンプには大変お世話になっていたことから、OPアンプやスイッチング電源等への拒否反応は全くありませんので、この電源基板は大歓迎でした。
 以上で小振りなトランス2個と、基板一枚の電源と電圧増幅部と球の部分の構成となったので小さく作れる見通しがついたのですが、球から生えている2本の角は高圧がかかるプレートで危ないし、送信管であるため発熱が大きいので十分なクリアランス欲しいし、832Aのルックスも生かしたいのでスケルトンボディにしたいとの願望でDIYストアの商品を物色し、一夜漬けのプレスがついた道具を見つけ、その透明なプラスチック容器部分だけをケースに利用しました。
 アンプの回路は、ゲインが20db程度のOPアンプ電圧増幅部でビーム管接続の832AをドライブするNFB無しの構成です。832Aは第1グリッドとプレート以外は二つのユニット間で内部接続されているため三結は無理で、スクリーンの電源供給とカソードの自己バイアス回路は左右のチャネルで共有することとなります。
 片チャネルの出力はノンクリップ2W、オシロスコープによる正弦波、三角波、方形波の応答観測ではNFB無しのアンプですがまずまずの結果となりました。音質は明るく軽やかなビーム管サウンドで、外観もユニークでなかなか良く出来たと思っていますが、さすが送信管、とても熱くなるのでケースの下部と天井に通風用の穴をドリルで開けました。
 一番下の写真は、私の仕事場でこのアンプと「長谷弘工業」のMM-141SバックロードホーンにDIYの8cmスピーカを入れたものとの組み合わせでパソコン用オーディオとしてBGMを流している状況を示してます。このアンプとこのスピーカとはちょうど良い組み合わせのようで、NFBが無いので低音部にしまりがない感じはしますがそれなりの音を出しています。






832Aシングルステレオアンプの回路図



832Aの動作点について

 本ページをご覧頂いた方から832Aの動作点についてご質問がありましたので補足いたします。
 ご質問内容は「832Aのカソードに入っているセルフバイアス抵抗R9の値は700Ωで良いか」でした。ご回答といたしましては「新しい元気な832Aをお使いになる場合は600Ωとしてください」となります、さらに、抵抗に並列に入っているバイパスコンデンサCC2の耐圧を50WV以上のものに交換願います。また、出力トランスのインピーダンスも7KΩから10KΩとすることをお勧めいたします。以下に動作点の解説を行いますので参考にされて下さい。
 以下の図は、832Aの第2グリッドに250Vを与えた時のRCAの特性表に負荷線等を書き入れて動作点を示しています。先ず、250Vと30mAの赤い線は使用している電源の供給電圧と電流=80mAから832Aのプレートに流せる片側分の電流を示しています。赤い曲線は832Aの推定プレート損失=片側5W(A級動作での値は発表されていませんので昔の経験から推定)です。A級のプレート負荷線はこれを越えないように引きます(接線ですね)。プレート電圧はプレートとカソード間の電圧ですが、カソードに自己バイアス発生のための抵抗R9が入っていて、これに2ユニットの電流(2倍)が流れてバイアス電圧を発生しますので電源供給電圧からこれを引き、さらに、出力トランスの直流抵抗で生じる電圧(ここでは無視)も引いた値が実際のプレート電圧となることに留意して下さい。
 青色は負荷抵抗7KΩの動作点を表しています。プレート電流はプレート損失を超えない範囲で30mA以下とするのでバイアスは-24V以下となり、プレート電圧は226Vより低くなります。今回はプレート電流を25mAとしてバイアスを-30Vの「動作点1」に決めます。プレート損失は5.5Wとなり赤いラインを少し超えますが球の方に我慢してもらいます。結果、R9は30V/(25mA×2)=600Ωで損失1.5Wですが3倍程度の安全係数で熱容量5Wとします。
 この動作点にドライブ基板からの出力9VRMS(ピークで+12.6Vから-12.6V)を重ねるとバイアスは-17.4Vから-42.6Vに変化するのでプレート電圧と電流は概ね7KΩの負荷線とこのバイアスが交わる40V/45mAから290/10mAに変化しますので250V/35mAの最大電力=約3W RMSがプレートで得られます。が、しかし、動作点1を中心にプレート電流の低い方と高い方では得られる青線の波形がかなり歪むことが解ります。一方、同じ動作点1でプレート負荷を10KΩとすると緑の線で表すようにプレート電圧波形が改善されます。さらに、電源供給電圧を下げて8KΩ負荷で動作点2に設定できればもっと良くなります。
 ところで、このアンプを作った頃はインピーダンス10KΩで許容電流が30mA以上の安価な出力トランスが見あたらなかったのでやむなく7KΩとしていましたが、最近少し出回ってきているようなので250Vの電源電圧の場合は10KΩか12KΩの出力トランスを採用した方が良いと思います。




 832Aや829BなどSGどうしとカソードどうしが内部で繫がった仲間は主に高周波のC級の(プレートには高電圧をかけ、グリッドに大きな電流を流してグリッド抵抗で深いバイアスを発生させ大電力を得るほぼスイッチング動作の)高周波用ですが、オーディオで利用する時にC級に近い動作点で多量のNFBをかけた高出力のAB2プッシュプル動作が適していています。A級のシングルのオーディオ用としては歪みが多いので音質度外視で球の形を愛でるのが一番です。
 主に高周波用途のC級動作や高出力音声用B級動作の球には第1グリッドが正になりグリッド電流が流れる時の特性が示されています。グリッド電流を流さないと最大出力が得られないと言うことはドライバもグリッド電流を流すだけの出力が必要でドライバトランス結合が必要となることが解ります。が、このカテゴリーの球はプレート電圧を下げて浅いバイアスで低出力で動作させると意外にA級シングル動作で良い音を出す物もありますので興味がある方はお試し下さい。


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