6BL7 差動プッシュプル・2.5Wx2 ステレオアンプ

初版 Jun.14,2008


 このアンプは、一度は試してみようと考えていた作動プッシュプル方式の小型ステレオアンプです。回路構成は、電圧増幅がポピュラーな高μ3極管の12AX7で、出力段はテレビの垂直出力用双3極管の6BL7(6BX7はその改良型)プッシュプルで全段差動方式としています。
 団塊の世代の電子回路屋にとって真空管式差動アンプは、オシロスコープの偏向増幅器や計測用アンプであり直流から数MHzまでの直結DCアンプで、真空管回路の最高峰として素人が真似できない物の一つでした。
 当時の差動アンプはゲインを高くすると長時間の安定度を維持するのが難しく、スピーカーを鳴らすような大電力を得ることも困難でした。さらに、電源は6AS7等を用いた安定化回路が複数必要でこれも自作のネックとなっておりました。
 このような真空管式差動アンプも、最近では定電流ダイオードや電源用IC等の半導体と組み合わせることによりオーディオ用の交流結合の差動アンプであれば単電源で実現可能となり、製作事例も見受けられるようになりました。
 本アンプは、「きむらてつ氏のホームページ」「情熱の真空管」中の「全段差動プッシュプル・アンプの庭」に詳述されているベーシックアンプとほぼ同じものです。
 製作したアンプの回路構成は、上記のベーシックアンプの出力管6AH4を6BL7とし、定電流源をLM317としたことが大きな変更点です。プレート入力はPPで12Wと6AH4の60%で出力は2.5Wとなりましたが6BL7の最大定格一杯なのでかなり熱くなります。-5VのC電源は+B電源の負荷の帰路から5Vの定電圧ダイオードで作り出しています。ダイオードに並列に入っているケミコンを省略すると動作が不安定になります。
 アンプの回路図は右の縮小画像をクリックすることにより表示できます。回路の解説等は上記ページで詳述されているのでそちらを参照してください。
 性能的には、低域は十分ですが12AX7と6BL7のpg容量と出力トランスの帯域が効いているようで高域の減衰が20KHzあたりから始まります。10KHz方形波応答にはリンギングは少なく素直に減衰していて好感が持てる出力波形となっていましたのでNFB回路にコンデンサは入れていません。三角波応答はとても良く直線性は良いようです、CMRRもこの程度のループゲインとバランス調整の下では良好でシステムの残留ノイズは0.5mV以下となっているようです(私の計測システムが限界らしい)。
 音の方は、残留ノイズが少ないため静かで、高域が素直な落ち方をしているためか聴感上は高域減衰があまり気になりません。手元にあるCR結合方式のアンプと比べると物足りないぐらい癖が無く、また、片チャンネル2.5Wと非力ですが通常の聴き方では不満はなく、多くのコンテンツに対応できるキャラクターであると思います。音質に関しては前述のホームページに記載されている内容を支持できます。結果として、交流結合ではありますが夢への一歩というより三歩は進んだようです。

 
 

 

 6BL7差動プッシュプル・ステレオアンプの回路図


その他のこと

 前項と重複しますが、団塊世代の電子回路屋にとっての真空管式差動アンプは、オシロスコープの偏向増幅器や計測用アンプ、アナログコンピュータ(多分実物を見たことのある人は少ないででしょう)の演算増幅器であり直流から数MHzまでの直結アンプで、真空管回路の最高峰として素人が真似できない物の一つでした。そのためか、この方式のオーディオアンプの製作事例は少なかったと記憶しています。
 差動アンプはトランジスタでも難しい回路であったため素人の自作オーディオアンプの製作事例は少なかったと記憶しています。しかしながら近年では設計法が改良され、差動用ペアトランジスタも出回り、OPアンプICは一般化し、オーディオアンプの直結差動回路は当たり前となってしまいました。
 昔から低雑音で低歪みで広帯域の差動アンプで音楽を聴きたいと言う要求は強く、高価な計測用アンプをプリアンプとして使い悦に入っているマニアは少なからず存在しました。かく言う私もOPアンプICが出現した頃は計装アンプ接続としてコンプリメンタリートランジスタと組み合わせて直結差動アンプを作って広帯域で低雑音の癖のない音を楽しんでおりました。
 一方、真空管式の全段差動アンプは、6AS7等の電圧調整管や25E5等のTVの水平偏向管が大量に放出されて出回っていた頃、OTLの全段直結DCアンプとして発表されることはありましたが高度な内容のため素人が簡単に挑戦できない代物でした。しかしながら、最近では定電流ダイオードや電源用IC等の半導体と組み合わせることによりオーディオ用の交流結合の差動アンプであれば単電源で実現可能となり、製作事例も見受けられるようになりました。
 私の場合も、真空管式差動アンプはテクトロや岩通のシンクロスコープの偏向回路とか計測用アンプのイメージが強く、一度はオーディオ用として全段直結DCアンプを設計して鳴らしてみたいと言う「はかない夢」を持っていましたが、前述のホームページの記事を目にした時その夢が現実となることが判りました。まさに目から鱗です。
 とりあえず全段直結DCアンプは夢として残し、手始めとして交流結合差動アンプを実現することで夢をかなえる方向に向かうこととし、手持ちの7189PPのモノアンプを三結差動3Wに改造して動作を確かめ、次に7189を6BL7に置き換えステレオ化しました。
 今回このアンプを製作して感じたことは、かなり前に手がけた実験用のファンクションジェネレータのブースター用途でオーディオにも流用(Bは囮でAが本命)可能なOPアンプを使用した差動DCアンプと同系統の音であることを思い出しました。このアンプは10W出力でDCから2MHz程度までほぼフラットな特性であったと記憶してます。現在の私のオーディオ環境には半導体のアンプと言えそうなアンプが無くなっているので何とも言えませんが、全段差動方式のアンプは球でも石でも良い性格を持っていると言えます。
 現在、このアンプの結果に気を良くして差動アンプ信奉者になりつつあり、30年選手の標準的なCR結合AB1級2A3プッシュプル10Wモノアンプの差動化改造を行っています。また、「キット屋」のVP2000(2A3PP10Wステレオ)の差動化を計画しています。



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