2A3インターステージトランス式プッシュプル・15Wモノラルアンプ

初版 Jun.11,2008


 このアンプは、名球2A3をトラディショナルなインターステージトランスドライブ方式の回路で動かすことを試みたものです。回路構成は、電圧増幅が高μ3極と2極の複合管の6ZDH3AでST管の5球スーパーには必ずと言って良いほど用いられていました。ドライバーは出力が0.28Wの直熱3極管のUX12Aで並三ラジオの出力管として用いられていました。終段は直熱3極出力管の2A3プッシュプルで一枚プレートの2A3Cを用いています。位相反転と終段の駆動はトランス方式としました。
 音の方ですが、インターステージトランスドライブ方式の特性はドライバーステージに依存する部分が大きく、既存のCR結合方式の2A3プッシュプルと比べると高域の減衰が早く始まることが測定結果でも確認できます。しかしながら、聴感上ではこのことはあまり気にならず、中域の充実したパワフルな感じとなりました。
 一般に2A3は音が柔らかいと言われますが、このアンプに関してはそのようなことはなく、特に、ビッグバンドジャズで音量を上げたときブラスの響きにいっそう輝きが出るようで、今までは音量を上げるとうるさい感じがするためあまり聞く気がしなかった日本のビッグバンド(原信夫とシャープスアンドフラッツなど)を集めたCDはかなり良い音であることを発見してしまいました。



2A3インターステージトランス式プッシュプル・15Wモノラルアンプの回路構成などについて

 回路構成は、電圧増幅はμが100の3極部と2極部同封複合管の6ZDH3A(6SQ7-GT相当の日本だけの球)で、ドライバーはμが8.5で出力が0.28Wの直熱3極管のUX12A、終段はμが4.2でPdが15Wの直熱3極出力管2A3Cのプッシュプルで、プレート電圧300V、固定バイアス-62VのAB2級で20Wの出力を目標としました。
 ドライバートランスはソフトン(ICL)のRC-20で、一次側直列の1:0.9+0.9としています。出力トランスは30年以上前のサンスイのSW-30-6でPP間6KΩ/30Wのものです。電源部のトランスはノグチトランスのPMC-170Mを用い、傍熱の6ZDH3Aに直結した12Aの保護のために傍熱型整流管5AR4を用いました(写真は実験中のもので整流管は5Z3となってます)。フィルターチョークにはノグチのPMC-1520Hを用いています。バイアス回路はFETのソースフォロワを用いてAB2領域のグリッド電流に負けない構成にしています。
 このアンプの設計時点では、出力AB2級20Wを目標としてドライバー管をUZ42の三結としました。試作段階ではPK間200V、IPを20mAとして20Wの出力が得られました。しかしながら、直熱三極管を愛する一人としてドライバーを傍熱の5極管の三結のままとするのは許し難く、手持ちのUX12Aをドライバーとすることを検討しました。
 結果、プレート電圧180V、プレート電流8mA、負荷を10KΩとすることにより2A3の動作点をそのままとしてグリッド電流が流れる瀬戸際のAB1.5級動作で16W超の出力を得ることが出来ました。目標20Wでしたが16Wでも十分なのでこれで良しとしました。ドライバ管42と12Aでは12Aの方が好ましい音となりました。現在2A3のバイアスは-58VでAB1/15Wの設定となっています。残留雑音は2A3が交流点火ではありますが0.8mV程度に収まっています。

 

 2A3トランスドライブ・プッシュプルアンプの回路図


その他のこと

 インターステージトランス方式のアンプを試してみたくて、終段を2A3に決め、ドライバートランスには、設計の自由度が大きそうなソフトンのRC-20を購入し、あり合わせの部品でモノラルアンプを試作してみました。シャーシーがジャンクなので余分な穴が多いため、穴隠しのためD.I.Y.ストアの木製小物入れを外枠に使ってみましたがチョコレート色塗装のシャーシーと良く合っています。四個のトランス類が並んだ量感(本当に重い)に負けないST管の五本並びも良い感じですが現在は5Z3が5AR4に替わり一寸貧弱になったのが残念です。
 試作1号の回路構成はソフトンのWebページに掲載されている2A3 プッシュプル 20Wモノアンプとほぼ同じになってしまいました。これは、電源回路の電源トランスと真空管式の整流回路が同じになったため2A3の動作点がほぼ同じになったこと、ドライバの6ZDH3A + UZ42と6BM8T + Pは殆ど同じ、良く出来た2A3のバイアス回路をコピーさせていただいたためでした。異なる点はNFBがオーバーオール1系統(8db程度)のみであることです。音に関しては、スピーカーが異なり出力トランスが異なるので確かなことは言えませんが同ページの音色の記述を支持できます。
 試作2号ではドライバーを12Aに替えたため自己バイアス抵抗が変わり、ハム対策のため12Aのフィラメントを直流点火することが必要になったこと、傍熱管の6ZDH3Aと直結する直熱管の12Aの立ち上がり時間差の間12Aのグリッドが正になり過大なプレート電流が流れるのを防ぐため電源の整流回路を傍熱型の整流管(5AR4)としたことが変更点です。試作1号の整流管は外観重視で直熱ST管の5Z3でしたので、5AR4に替えるまでの間は6ZDH3Aのヒーターが暖まってから5Z3を刺していました(笑)。
 本アンプは、オール直熱三極管で仕上げることをもくろんでいましたが、12A+12Aではこの間がCRかトランス結合となり安定なNFBが困難になることと、ここもトランス結合とすると高価になるし、周波数特性も悪化すること、ゲインが足りないことなどのため6ZDH3Aと12Aを直結することとしました。ドライバに使えるST管で高μの三極管と12Aより一回り大きい三極管が少ない(71や45は私の2A3より高価だ!)のでGTやMTにするしかないのですが2A3と並べるとバランスがいまいちなんですよね。
 現在、2A3に20Wのフルパワーを発揮させることが可能で直線性の良いドライバーを目標に種々検討中ですが、6BX7や6EM7の仲間か、思いっきりクラシックな89が良いかもしれないと思っているところです。ドライバー部分は1W以下の2段のシングルアンプなので簡単ですし、OPTを付けて音を出しながら実験するのは楽しい作業です。
 ところで、本アンプで取り上げたUZ42や6ZDH3A、12Aはラジオマニアとバッティングしていて品薄で高価になっているようです。そう言えば、どこかのページにはラジオ球をオーディオで使うのはもってのほかだと書いてありましたね。5AR4も値上がりしているし困ったものです。6BX7や6EM7などのテレビ球も品薄で値上がりしているので三極管フアンは選択肢が少なくなってきて困ってます。どこかで6BX7の仲間を作ってくれないかな〜
 しかし、最近の真空管市場はブランドで価格差が激しく異常に思います。特に、A社とB社の6SN7で中音のふくらみが云々とかのコメントには困ったもので、この間はX社がOEMしたY社の球で同じものだとは知らずに比較して音が違うとおっしゃっていた方がおりました。このようなラベル崇拝がJAN番号の書き入れとかラベルの偽造で荒稼ぎする輩をはびこらせているのです。
 良い球とは設計通りの値に落ち着き、交換しても値が殆ど変わらない物なのです。このような状況で音色が変わることはないはずです。変わったと感じた場合は動作範囲の端の方で違いが出ている可能性を疑って見ましょう。もしかすると、その球の方が本来の規格に添った物なのかもしれません。また、製造会社により最大定格などに解釈の違いがあり、それが電極の材質や構造に反映している場合もあります。また、TV球などの民生用では利用想定領域から外れた部分に差異がある場合があります。賢明な諸兄は自分の技術を信じ、計り、測って、確認し風評や眉唾コメントに惑わされないようにしましょう。
 末尾ですが、インターステージトランス方式のアンプについてアドバイスいただいたソフトンの善本さんに感謝申し上げます。



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