ある田舎の宿に大坂の客が泊まった。朝になって、その客が「手水をまわしてくれ」と言う。ところが、これがわからない。宿の主人をはじめ一同が思案している。ある者が言う。「長い頭と書いて『ちょうず』と読む。ところで、隣の村にえらい頭の長い男がおる。さてはその噂が大坂にまで及んで、見物に来たのに違いなかろう」。 早速その男を呼び寄せて、客の前で頭を回させる。しかし客はただ呆れて帰ってしまう。 これではあかんと、主人、番頭を伴って大坂へ情報収集に向かう。そこそこの宿に泊まる。朝、女中に「ちょうずをまわしてくれ」と頼む。ほどなく、水を張った手桶と歯磨き手拭が運ばれてくる。そうか、これが『ちょうず』というものか。さてどうするのか?件の主人、しばらく考えた後、歯磨き粉を手桶の水に解いて、ぐるぐる回した末に、飲み始めた。手桶一杯の水、とても飲めるものではない。半分は番頭に飲ませた。ところへ女中が来て、「もうお一方の手水です」。いや、もう飲めん。 |
殿中で殿様御手ずから菜をお作り遊ばし、これをお召し上がりになる。どうもあまり美味くない。 殿「三太夫、余の作った菜は何故こう美味くないかの」 三「おそれながら申し上げます。下々では下肥を使いまするが、殿中では水肥のみでござりまするゆえ、味が落ちるものかと存じまする」 殿「左様か。ならば苦しゅうない。その下肥を、これへかけて参れ」 |