地球の自転速度は厳密には一定ではないため、平均太陽時は原子時計の時刻と差を生ずることがある。このため閏秒を設定してこの差を調整している。1972年以来2009年までに閏秒は24回設定された。
 地球自転速度が変化する要因としては潮汐摩擦が知られている。潮汐が地球の自転にブレーキをかけて、自転速度をきわめて僅かではあるが徐々に遅くしているのである。
 ところで、この他にも影響を及ぼすものは考え得る。そのひとつに地球温暖化がある。そのシナリオは以下のとおりである。
 地球温暖化により、南極やグリーンランドなどの陸地の氷が溶ける。このため全地球の海面水位が上昇する。これは地球の慣性モーメントIを増大させる。角運動量保存則によれば、自転角速度ωは
  Iω=const.
でなければならない、したがってIが増大すればωは減少する。このようにして自転速度が遅くなる。
 重要なのは、南極やグリーンランドの氷という点である。これらは緯度が高いため、慣性モーメントにはほとんど寄与していない。慣性モーメントは自転軸からの距離の2乗に比例するからである。それが溶けて全地球、赤道のほうにまで広がるために慣性モーメントが増大するのである。
 以下ではこの影響を評価してみる。

海面上昇
 地球は半径Rの剛体球と考える(あまりに粗いか?)。その慣性モーメントは、密度をρとして
 全質量Mは
だから、
 海面上昇量をΔRとすると、R〜R+ΔRの球殻の慣性モーメントは
 ΔR≪R とすると
したがって、
 もっとも海洋の面積は地表の70%程度だから

 地球の半径は  地球の質量は  水の密度は  これらより  つまり、自転角速度はこれだけ遅くなる。
 一方、
 したがって、海面上昇1mにつき1年あたりの遅れは である。つまり毎年3秒ほどの閏秒が必要となる。
 もっとも、海面上昇が1mというのは大変な量である。南太平洋の島々は沈んでしまうだろうし、東京などの沿岸部の都市の多くはかなりの部分が浸水する。そちらの効果のほうがはるかに大きい。しかし海面上昇が30cmとしても、毎年1秒程度は地球自転が遅れるのである。これは従来の閏秒のペース(37年で24回)より大きい。

大気の熱膨張
 温暖化による大気の熱膨張の影響はどうか?
 大気層の厚さをDとすれば、慣性モーメントは
であるが、大気質量MA  これを用いれば
 熱膨張によるDの変化をΔDとすれば、慣性モーメントの増大は
 すなわち、ΔIAは地球の慣性モーメントより11桁ほども小さいので、ほとんど影響はない。
Oct. 2008
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