手の皺(個人別全句 全994句)
(順不動)
不律
生まれ来て初冬の紅を頬に挿す
受験生石焼芋を待つ夜更け
期限切れにも旨味ありちやんちやんこ
冬麗や値上げタクシーエコ談義
おおきにと云ふて死ぬんやふきの花
腫れたまま年を越すらし妻の膝
熱燗やお歯黒どぶに軍歌充つ
壁に耳君との一夜炬燵ねこ
すす払いやつがれの頭(づ)も頼み置く
その前にまづ小謡を祝箸
あるがまま自在の二字ぞ去年今年
辛うじて越年輪切りの脳並ぶ
ながながと海鼠の生ひ立ち聞く夜かな
カメラ出番庇の氷柱新記録
まだら雪若草山の鹿ファミリー
太郎冠者そろり参らう日脚伸ぶ
孤影なほ幾日耐へむ冬菫
小正月自家製ギョーザ感無量
白梅は江戸の匂か武家屋敷
雪もよひ餌をねだる鳩逃げる美女
紛れ春ひと月早い沈丁花
春泥に加え黄砂の仕上げかな
恋猫の美声の片方うちのタマ
無為の時悔なし雪見障子かな
君知るや生きてゐる意味初桜
残花とて人生双六運不運
カピタンの泪出島の春時雨
亀鳴きて昔のスター返り咲き
酒(ささ)機嫌草も萌えるか楽隠居
宴果て花のトンネル通る風
夏近し木漏れ日の席ティールーム
大逆転ジェット風船ドーム沸く
園芸店あるじと話が合ふ五月
パンダ逝くお手々を合はせ謝々薄暑
ドイツより亡友迎える日著莪の花
心太ぎゅっと詰まった曝首(しゃれこうべ)
郭公や心の結び目解けし朝
時計草おやもうおやつの時間かい
五月雨や倒壊校舎去らぬ母
怪談を快談にする立見席
江戸前を小皿に分けてくるくる寿司
日本と言う国に棲み武者飾る
青嵐ヒアルロン酸渇望期
椅子寄せてこの灼く想ひ届けたい
この背を見ろとはとてもオヤジの日
滴りて果つる氷河の末路かな
動画付き孫が這ひ出る夏見舞
ミニ菜園けさもにぎやか茄子トマト
アイスにしよ試合は延長サヨナラ待ち
姿見に粋な夏帯鹿の子柄
二人とも施設留守居の百日紅
八月生きて洞窟這い出し俺あの日
鵜匠すっく波立つ川面漁火猛る
天花粉曾孫ケータイ豆スター
先立ちし老犬の首輪もう秋か
すぐそこに銀河降り来る飛騨の宿
きじ鳩は唄ひ秋思の人憂ふ
名月や横書き俳句興に乗る
時流れ野菊の君も老いの坂
芋煮えて近頃なぜか妻寡黙
無精ひげ剃って台風来るなら来い
四書五経コメツキバッタ句読点
医者と吾二人とも老い秋は行く
誰が科ぞ世界株安そぞろ寒
知らなんだ秋の味覚や汚染米
庭の柿熟れる端から空の客
嬰(やや)の風邪爺がもらひて秋暮るる
身に入むや二足歩行の限界へ
柿熟れてひよ鳥一家朝餉かな
輝く眸日向(ひうが)南瓜と呼ばれる娘
絶唱も時に悲歌たり文化の日
秋桜わが青春の備忘録
菊丸
猫丸く置物の如冬初め
石畳歩む猫背や枯葉舞ふ
脚に知る歳の重さや隙間風
冬麗に浅き夢見し株投げて
残る日々うなだれ往けば石蕗咲きぬ
湯たんぽと母の香りや夜汽車鳴る
刺す風の外(と)より逃れて熱燗を
寡男して壁と雑炊囲みたる
妻なくて夜の闇増すもがり笛
ハレの日のひときわ白し祝箸
日々流れ無念の多き去年今年
大晦日主なき夜の三輪車
酢海鼠を舌で転がす震へかな
氷柱もてはしゃぎしころや天仰ぐ
中吉にやや安堵して初大師
いざ外へ散歩心や日脚伸ぶ
墓前の何語るらし寒菫
夜に読む死後の案内外は雪
白うめに小雪かさなる喪中かな
昭和史を語る春月鳩の街
小雪舞ふ街角に聞く恋ひ話
春泥に怖じ気づくかな歳重ね
恋猫を羨む厠独りごつ
味噌汁の熱き流れや春未だ
病得て常より淡し初桜
芹洗ふ夜の支度やさだめ知る
コロン取って想ひ出痛し春の部屋
宴去って何悟りしや亀鳴きぬ
さよならと君子蘭の香に落涙す
東風荒れの夜半の目覚めや鼠鳴く
先々の辛さ忘れし薄暑かな
こうべ垂れ山路歩めば著莪の花
鯉幟父たる顔の凛として
郭公の響く山路や時止まる
良く見るも時の判らぬ時計草
病み上がり粥啜る夜や牡丹落つ
わらし
テレビの陽たこ足リズム冬浅し
川波に冬鷺不動石並び
さくら葉や枯れる銀杏と混じり合ひ
注射針光る窓辺や冬うらら
石蕗やゆるーい関係息静か
冬天やキララキラキラ降るを待ち
夜の夜中注ぐ熱燗影ゆらら
ビル風や壁に沿い来て冬散らす
リビングの暦の末の明日を見る
太箸やローストビーフまずつまむ
去年今年祈りはためく大漁旗
若い衆数の子食いの熾烈さよ
海鼠腸(このわた)を抜かれ酢の物朱海鼠(あかなまこ)
ヘリスキーゴールで髭の氷柱取り
産直の白菜みしっと腕にきて
日脚伸ぶ着陸ジャンボ極北払ふ
寒菫極北の夜空赤気見る
アラスカの星座の吐息凍えおり
極北の天空帰着梅咲きぬ
帰宅してベランダ鳩の乱れ糞
春眠や天井彩るオーロラよ
春泥の跳ね跡ボディ乾涸らびて
猫の恋如何なる色に描くべき
窓の丘馬の背できる芽立ちかな
宴の輪初桜無き土手の下
運命かぁ黄沙の中の揺らぐ俺
あなたのにたりがいはおいしいですか
餓鬼飛礫亀ヒィーと鳴き沈み逝く
咲くだろう草の錨の羅臼道
独りでにボール転がる土の春
夏近しアラスカ極寒今も描き
風船を大きくプクプ中に入る
葉桜や死神呼びて揺れるやも
貧血の体もまとうか薄暑の気
隣窓の漏れる学び灯著莪の花
惰眠して目覚めぬままに新茶漬け
ガーデンに郭公鳴きて響きおり
時計草音訓不明気もつかず
草茂り葉緑素無き我悔やむ
ケバい娘(こ)ら幽霊話に頷いて
渦を巻く同窓会や鮨ころり
梅雨寒や認知の友の噂聞く
青嵐深夜の不気味撹拌し
疾雷に広場の孤独フェスの椅子
留守電の義兄の訃報薔薇香り
岩石の尿(いばり)滴る鍾乳洞
アラスカへ出すアホらしき夏見舞い
不甲斐なきプレーに溶けるカチ氷
アイス溶け光子飛び散るグラス跡
水害の遺跡のごとき河原見ゆ
いそぐ朝地付きの鴨の夏河原
フエ歩む八月湿度重く着て
海辺沿ひ並びて白装ギリシャ見ゆ
南下するロスの夏空黒く抜け
河の淵初秋の反射軽く揺れ
ユーコンの短き秋や響く銃
秋味や群れる崖下の細き川
遺跡壊ベトナム名月泥の池
墨西哥の旧教遺跡野菊咲き
雄ムース一瞬の秋に撃たれけり
台風や西表島呑みこめり
きちきちのばったばったと慌て飛び
九月なり湿気妖怪滅びゆき
肌寒や立てど座れど落ち着かず
マジですか偽物詰める月明かり
捨て猫を覆いて余る彼岸花
行く秋や茫々と過ぐオホーツク
紅楓や膝がくがくの下歩下歩で
秋味と名乗るビールの魚影濃し
いつもごと南瓜の煮物遠ざける
文化の日遠く遠くに霞すむ日よ
深秋に覆わる山路汗少し
おきろん
落款の乾きの反りや冬はじめ
日だまりの石になりたや石蕗は黄に
黒コートの腰まで白髪垂らしをり
冬うらら右に避ければ右に来る
石蕗の花傾きてなほ踏ん張りて
冬雲一面かたへに青い鳥の空
熱燗やひよつとこ口を猪口に寄せ
数へ日やぬり壁迫る鼻の先
木枯や吸ふ息いよよ細りたる
太箸の餅の粘りをねぶりけり
耳鳴りの貫いてをり去年今年
初買ののち初ワイン初パスタ
一句二句三句生すまで海鼠の黙
痩せ氷柱麻痺の指よりなほ細く
ごめんなされませ噺家の初便り
そびらまで伸びし日脚のまだ硬し
冬すみれ籠出たがらぬマルチーズ
泣いたときのやうな水洟春浅し
梅が枝に猿ゐて携帯こぞり立つ
てふてふよ花よ鳩居堂便箋
よく跳ねる菌のいろいろ春めく日
山師なら春泥に突込んでゆけ
髭ほどの疚しさもなき猫の恋
ものの芽や二が一に見え三に見え
初桜この木あの木と飛び火して
運不運ともにわが糧蜆汁
クロワッサン自慢のホテル雪解風
亀鳴くや折合ひ難きエコとエゴ
砂漠遥かにくぐもりおぼろ駱駝の瞳
初燕行列あればラーメン屋
まみどりを浴ぶるさみどり夏近き
たわわなる風船五色入場す
風光る分子キットの八面体
耳につくご当地ソング夕薄暑
ちがふ花の木札黒ずみ著莪の花
凝り過ぎの懐石御膳夕蛙
幽霊の掛軸の裾滴れり
取り寄せの鮓ネタは佳し飯不味し
燭ゆらり止り木ゆらりみどりの夜
青嵐俳活量はたつぷりと
椅子の背のスポンジあらは桜桃忌
黒南風や幟大きく刺青屋
光一条滴りのなき石舞台
暑中見舞絵文字のやうな二行きり
病院のロビー七夕寄席始まる
せかされて句座の余りのシューアイス
スメタナの一楽章を片蔭に
百日紅南の雨戸閉めつきり
狂騒の中の沈黙八月来
うつほ舟流されし闇行々子
天駈ける聖火ランナー真夏の夜
初秋のまだ浅すぎる眠りかな
六本木の鼠ぽっぽと啼いて秋
会社消えて変わるビルの名秋の空
俳諧を忘じてゐたる良夜かな
褒め言葉かしら野菊のやうな君
聴力半分つぐみをしじみと聞き違ふ
台風を嗤ふ爆弾低気圧
ばつた跳ぶこの世を少し斜交ひに
コスモスの囁きマリア道祖神
電光のマイナスばかりそぞろ寒
偽りの霧濃し島も大陸も
遺伝子に理系文系虚栗
もの落し易きこのごろ暮の秋
百メートル七分の歩や草紅葉
豊の秋ガネーシャの鼻長くなる
千笹
冬初め仔犬抱かれて外歩き
石投げの子供等の声寒さかな
木枯らしを待ちて落ち葉は失せにけり
何さがす鳩群れており冬うらら
ツワブキの黄色い花の仕組かな
鳩の声駐輪場は冬の朝
春泥を踏むことまれに朝散歩
猫恋に和して歌わん老いの恋
桜花咲き初めにけり能楽堂
亀の鳴く泡一つ浮く川の跡
さらばにや水母の如き乱雲が
老いぬれば花桜木のよそおいて
犬と共薄暑の朝を楽しみぬ
薔薇延びて著莪の花を隠したり
引っ越ししエゾ赤松の芽吹きたり
幽霊や聊斎の如あらまほし
久しぶりこはだの寿司は江戸のもの
入院の妻に土産とピース切る
そぞろ寒狆の布団を換えてやる
偽物のローレックスに稲穂かな
秋が来て三十三所けち願し
山童
餌をねだる初冬の空に象の鼻
石の上三つ星冴える修業かな
短日や行こか戻ろか歯科医院
冬うらら絵馬の炎と巫女と猫
チャペル鳴る外人墓地に石蕗の花
壱年がもう来たのかと年用意
熱燗やただの親父の顔となり
土壁に馬頭観音年用意
寒稽古泣く子も混じり太鼓鳴る
太箸やこんな男の世話女房
去年今年夢まぼろしの下天かな
鼠より始まる干支の初日の出
海鼠腸や聞かなきゃよかったこの話
敗戦の銃後の涙軒つらら
冬枯れの川面に沈む捨て小舟
噺家の寿限無寿限無と冬の百舌
梅ひらく犬に挨拶下校の子
節分の人波見下ろす夫婦鳩
ゆく雁や引導漏れ聞く鬼瓦
春泥の酔いたる友ともう一軒
風神に雷神に化す猫の恋
大仏と初音聞きたる微笑かな
本気なら帰って来るなと花便り
石鹸玉美人薄命男運
だれそれと戒名偲ぶ義士まつり
株価見るさめたコーヒー亀の鳴く
去る人の口約束に落花舞う
行く春や結婚式の招待状
ふくよかな胸の谷間よ夏近し
こわごわと風船大きくなりにけり
神主の春風うけて新車かな
職人の意地競い合う薄暑かな
ケーブルカー横目で登る著莪の花
わだかまりとけゆく友と夏料理
郭公や裸弁天大慌て
時計草もろ肌脱ぎの裁判官
坊ちゃんの句碑に遊ぶや蝸牛
露天風呂女形が一人夏芝居
建て前と本音は違う寿司つまむ
輪がはじけ鼠花火を逃げ回る
青嵐メールで遊ぶ女の子
音のない椅子の静けき夏休み
母が娘に腹帯まいて夏蜜柑
滴るや猿と眼の合う峠越え
淡き恋同窓会の暑中見舞
夏痩と女将の言葉訃報知る
食べかけた妻のアイスや長電話
素手で採る居た居た痛と甲虫
大吉にうなぎ喰いけり浅草寺
八月やカレーライスに走塁す
盂蘭盆会懐かしきかな義兄妹
原爆忌語る写真に立ち尽くす
客のない初秋の店の縄のれん
長瀞の船頭巧みに鰯雲
追いこされ追いこし歩く山の秋
寝乱れを覗いていたる十六夜
肺癌の墓にタバコも野紺菊
芋虫や守屋浩は泣いちっち
じたばたと台風の目に狙われる
撫子隊知覧の宿のおんぶばった
犯人を追い詰めて往く夜長かな
町会の世話役消えて冬隣
ウオーキング薄の穂波に浮き沈み
秋刀魚焼く母の形見の指輪売る
おふくろの喜怒哀楽や栗南瓜
明治節日本一の面極まる
臨月の命は二つの夜寒かな
瞳子
翳りゆく五百羅漢や冬初め
街灯下石焼芋屋開店す
初雪やをさな児の掌に足もとに
冬麗やヒマラヤ杉は空を刺す
茅葺の旧家のいはれ石蕗の花
顔見世のロビー華やぐ初日かな
熱燗や海鳴り強き島暮らし
歳晩や壁に暦の指定席
踏み入るやサクと音して霜柱
太箸や畏まっての咳払ひ
北窓に鐘渡りけり去年今年
14℃地球火照るや寒の入り
口中の音の楽しさ海鼠食む
七彩の陽光(ひかり)放てる氷柱かな
雪被る伊豆大島と出会いけり
をさな児に歩調あはせむ日脚伸ぶ
街路樹の根元に冬のすみれかな
凍て返る露地に置かれしオートバイ
古木一本白梅の香りけり
うららかや境内に鳩またふえて
春満月赤く昇ればおののきぬ
侮りて跳びそこねたり春の泥
縁先へ汚れて帰る恋の猫
むらさきに染まるる夕べ鐘霞む
初ざくら墓参のわれに枝垂れけり
舟運の栄し岸辺草萌ゆる
翻る菜飯の文字や旧街道
呑み込んで無口一刻亀鳴けり
囀や靴と帽子とランドセル
境界の杭打たれをり諸葛菜
夏近し四肢伸びやかにアスリート
風船の運びし便り浪漫かな
古民家の奥深き土間花の冷
眠る児の頬にたゆたふ薄暑かな
木洩れ日の東御苑に著莪咲けり
新緑や父に教はる三輪車
郭公鳴く受話器の奥のしじまより
白日の夢とも覚え時計草
大皿に乗って登場初鰹
幽霊の美(は)しき面差し夏芝居
鮨握る指小気味よきリズムかな
青梅雨や背嫋やかに菩薩像
スタンドに学らんの列青嵐
籐椅子の斜めに置かれ軒深し
長靴のドレミファソラシド五月晴
滴りを受けし掌射ぬかるる
初めての夏見舞てふ鏡文字
長靴の出番なき日や暴れ梅雨
アイスペールライム添えたる涼しさよ
墨衣一列に行く片かげり
炎昼を赤子はタフに眠りけり
甲子園に八月やつて来りけり
打水や馴染みののれん銀座裏
炎天やヒロシマ・ナガサキ語り継げ
山門を入るや秋めくけふの風
星飛んで秩父は昏く鎮まれり
赤子には赤子のことば鳳仙花
満月に首差し伸べていななけり
野菊握りハの字に駆けてくる児かな
せせらぎの音聞くばかり葛の花
台風の一夜の湖(うみ)や遊水池
ジーパンにきちきち遊ぶ土手の昼
友の名の墓碑に刻まれ秋の冷
裏木戸のけさの軋みやそぞろ寒
ハロウィーン張子の南瓜灯しけり
夕闇に金木犀の自己主張
時の鐘窓近く聴く秋深し
早朝のウオーキングコース銀杏散る
「あっカラス!」鳴く声追ふ子秋澄めり
栗南瓜添書き付きで届きけり
文化の日重要文化財公開す
焼きたての鯛焼似合ふ小春かな
ざくろ
初冬を前に無言で薪を割り
木枯らしや朽ちた石碑を吹きつけり
雪雲や吾妻の山を踏みつけし
冬うららトビ碧空を旋回す
廃屋や崩れしままに石蕗の花
白霜や牧場の朝を覆いけり
太箸や手酌の酒の側にあり
去年今年酒で心を棒にせり
正月や稚児かしこまって辞儀をせり
養殖の海鼠にメタボ囃したて
氷柱に逆立つ我を見つけたり
大寒や赤い実喰らう猿の群れ
ちらほらと空きリフトあり日脚伸ぶ
冬すみれゆらゆら猫と戯れたり
真っ白な平原に雪降りしきる
本当に花いちりんの梅祭り
胸熱し鳩大空へ放ちたり
風下へ流されて飛ぶ鳶かな
春泥を歩く法事の帰り道
干からびて路傍に迷う猫の恋
春霞見慣れし花はセピア色
赴任地へ荷物に添えて花便り
野に下る運命(さだめ)となりぬ梅香る
茫々と月明かりの中梅香る
暗闇に臭うが如く亀の鳴く
さようなら来る卒業の時ランドセル
タラの芽の揚げる匂いや縄のれん
大盛に緑の食卓夏近し
頼りない風船一つ春の海
菜の花の向こうに弾む野球帽
群草を掘る鍬重し薄暑かな
群がりて咲く著莪の花山深し
メーデーや後期医療を糾弾す
渓流の奥行きを知る郭公の声
コチコチと秒刻むよな時計草
郭公よ寝たきりの母を和ませよ
幽霊の掛け軸ゆらり猫じゃらし
巻きずしとすだれ懐かし峠茶屋
藤の枝かかる看板UFOの里
コマ撮りの如き風船青嵐
藤椅子と孤独の老犬揺れており
大仏も酸性の梅雨にうなだれり
滴りをのど越しに飲む山の道
雲南の省都から来し夏見舞い
俗化する少数民族夏祭り
妻と飲むアイスコーヒーセピア色
隙間から一陣のひかり蚊帳の中
チリリンとアイスキャンデー紙芝居
八月は遠い記憶を呼び起こし
美しき夏の夜を黙す銀河かな
入道雲露天の湯気に見え隠れ
赤子抱く二の腕すずし秋の口
山寺や厳かに聞く蝉時雨
立秋や吾妻おろしが涼々し
仲秋の月照らす無言の三畳間
還暦や野菊に涙す時を経て
秋雨も異常気候で狂うなり
近頃の台風やけにのろまなり
手のひらのバッタ足蹴る愛おしき
月を背に花瓶の中の薄の穂
そぞろ寒やけに目につく赤提灯
秋寒しメラミンミルク汚染米
うたた寝の妻の寝顔や秋深し
晩秋の歌よ刈り乾し切り歌よ
晩秋の大和路を行く人人人
柿食って法隆寺の鐘を待つ
瓢箪のようにぼうぶらぶら下がり
本を読む連休末の文化の日
秋祭りにわか造りの山車走る
波愚
島一つすつぽり覆ふ初冬かな
石を踏む音して神の有りし月
遠山は既に冠雪鳶回る
冬うららほんの少しのお洒落して
足運び皆穏やかに石蕗の道
熱燗や人の心に裏表
熱燗を正座して呑む詐欺師かな
どうしても越えれぬ壁や年暮るる
数へ日や兎角あれこれ気になりぬ
仏前の椀に添へたる雑煮箸
去年今年時の流れを垣間見て
元朝や親父形見の和服着て
固まりて気骨示せし海鼠かな
氷柱落つ真逆さまにぶちささる
大寒の風に両頬張られたる
折り込みのチラシの旅情日脚伸ぶ
殉教の島にひつそり冬菫
肩少し軽き気がする寒の明け
雪国に住みて活けたる梅一枝
えさ箱に同じ鳩くる二月かな
前をゆくご婦人三名春ショール
蟻のごと児等一列に春の泥
外(と)に出るや形相一変猫の恋
啓蟄や森羅万象揃い踏み
日帰りの東京出張初ざくら
杉咲いて運命論者の赤き鼻
芝萌へて肉球柔らかくなりぬ
亀鳴いて宵は滴り来たりけり
さよならと酌む盃の落花かな
風に衣(きぬ)纏ひし如に花吹雪
アルプスの峠の茶屋や夏近し
背負われて風船天へ近づきぬ
春の宵魂数多舞ひ降りぬ
降りだした雨のやさしき薄暑かな
迷ふことせずにいかうか著莪の花
北国にうすみどりなる夏来る
郭公やしどろもどろのおらが弁
時計草一度は行つてみたき所(とこ)
母の日を終へて寝につく花屋かな
幽霊も袖で控える夏芝居
鯖鮨や玄界灘は波荒く
真っ白な袋に夏の空入れて
青嵐背骨がボキと鳴りにけり
想いではすべてこの椅子夏の雨
梅雨寒や主戻らぬ部屋畳
滴りやしばしふけたる物想い
携えて飲み友達の夏見舞
向き合ふて夫婦静かに冷さうめん
アイス手に仁王立ちせるヤクザかな
素のままの田舎暮らしや蚊帳の夜
バーボンや想いぐるぐるジャズの夏
八月のあの一球の重さかな
鵜の篝流れ幽し岐阜の夜
炎天や入るも出づるも声だして
初秋の風のしっぽに撫でられる
流れ星知床の夜は深深と
秋風の肺を一巡して出でし
むら雲のそろりそろりと良夜かな
野菊原一本道でいく故郷
馬鳴いて玉蜀黍の焼く匂い
台風の目にむけ撃ちし指鉄砲
踏み込まば末広に散る飛蝗かな
連れ合ふて老ひもしみじみ秋彼岸
閉店の白き貼り紙そぞろ寒
天高しきらきら光るまがい物
赤い羽根老いも幼子(をさな)も声揃え
秋深し津軽の人と酌み交わす
ウォーカーの鼻うごめきぬ秋刀魚焼く
少しだけ嘘も織り込む愁思かな
縁側の日照り南瓜の二つ三つ
ささやかなことをさがして文化の日
日をためて障子に淡き紅葉影
のぶ女
冬浅し真白き富士の畏まる
朝凍みてダイヤモンドのキラリかな
木枯らしやシャンソンの夜は更けて
川べりのペタルも軽し冬うらら
うかうかと時過ごしきて石蕗の花
ひっそりとツリー飾りや戸の閉まる
熱い燗一日おわる行事かな
壁のもと山茶花のはな吹き溜まる
年の瀬やわたしの年金影うすく
ぎんなんの掴み損ねて祝い箸
去年今年朝な夕なの富士の山
初春や漣たてし隅田川
見た目より旨きものかな寒海鼠
屈折の彩なす色の氷柱かな
初雪やキラキラ光る江戸の街
黎明や山のシルエット日脚伸ぶ
ミニ化して塀に鎮座す冬すみれ
荷積船曳かれて行き交う隅田川
梅の香に人の賑おう百花園
車止め餌ついばむる夫婦鳩
冬うらら水面に漂う都鳥
どろどろの黒い土して富士ふもと
尾を立ててのそりのそりと猫の春
じっちゃんの独りの庭や白梅(うめ)の咲く
一片の咲いた報せや初桜
春風や不運の馬券飛ばし去り
菜種梅雨道端の草青々と
亀鳴くと耳澄ませども春の暮れ
桜吹き雲流れ往く洛北里
紅白の幔幕張りて桜散る
雛罌粟の左右にゆれて夏近し
薫風や紙風船の初飛行
晩春の木陰こいしや昼下がり
土湿り草柔らかく薄暑かな
細やかな色合いやさし著莪の花
隅堤の風くぐるや綿帽子
藻岩山郭公の声する北の初夏
精一杯誇らしげな時計草
ランドセル声張り上げて五月梅雨
幽霊も避けて通るらし猫屋敷
梅雨晴れやちらしと決めて帰路につく
誰もかもアロエ咲きても先に逝く
掃けども掃けども寄するや青嵐
ロッキングの揺られ誘われ夏の夢
甘酸っぱい梅の匂いて朝の風呂
朝日映えクロバーの露滴りて
孫の名の暑中見舞いや夕日映ゆ
ガス(霧)の中ホテルと文言サミットかな
アイスだよ子らの諍い治まりて
澄む空や瓦屋並みにカラス交う
時季外れ種実る夏アロエかな
未理
不器用に生きて手の皺冬初め
石蹴りの路地そのままに柿紅葉
石垣の崩るる城址銀杏散る
十年のパスポ−ト手に冬麗
言ひたきをぐっと堪へて石蕗日和
崖の上に海光集め石蕗の花
眼裏の父熱燗に目を細め
城壁を出づれば曠野冬茜
柚子湯してそっと興ずるお手玉に
恙なき日を願いつつ祝箸
晩学の歩みの遅遅と去年今年
常盤木の陽に照り映へし初景色
億年の沈黙の形海鼠かな
日の射して氷柱の雫ふくらめり
爪を研ぐ猫と目の合う日向ぼこ
友を待つ紅茶の香り日脚伸ぶ
入院の姉を慰む冬菫
ラマダンの楽の音遠く冬の暁
愛づる人逝くも紅梅咲き満つる
水浴びの鳩身震いて春寒し
あるがまま身丈を旨と冬菫
春泥を小さき長靴踏み荒し
恋猫の猛りし声に夢覚むる
いつの間に肩こり軽く水温む
亀なくや日蓮上人空を背に
札幌の空気甘やかライラック
踏まるるも草の芽出づる底力
酢を効かせ寿し飯さばく夏隣
手を離れ風船空へまっしぐら
嫗の畑二畝ほどの豆の花
街薄暑音楽隊の金モ−ル
幸せの数をかぞへてしゃがの花
信州の友の絵手紙花りんご
郭公の輪唱こだま峪渡る
愛犬の逝きて夕凪時計草
憂きことの攫つて欲しや青嵐
何時なりと出でよ幽霊話たし
ふる里の風をまぜこむ母の寿し
川の面を三段ジャンプ夏燕
背押され浮力を貰う青嵐
歩み来て木椅子のありぬ夏木立
草取りや土の匂ひを存分に
水晶の数珠の滴り岩間より
大利根を渡りて母の夏見舞
ふるさとの潮風透る青簾
夏風邪にアイスの枕波の音
李の香いちめんに満つ甲斐の里
網の穴繕う漁夫の日焼濃し
八月の浜に絵を描く疾き風
海ほおずき波に運ばれ銀の砂
水郷の稲田いちめん風渡る
初秋の手足に力戻りそむ
豊穣の美瑛の起伏秋空へ
励ましの母の声とも虫の鳴く
屋根に網雨戸に横木台風圏
リハビリの杖の後先青飛蝗
野仏へ誰が手向けしか吾亦紅
そぞろ寒首を竦むる夜の道
床の間の贋作の壺秋うらら
幼子と遊ぶあやとり菊日和
ヨーグルト醗酵遅遅と暮の秋
一歩づつ登る城址(あと)露しぐれ
垂直の崖に根を張る谷紅葉
紅羽
手袋を戻って探す冬初め
初霜に光る石垣散歩道
胸元に光る石有り冬の朝
熱燗や1人手酌で手帳見る
様々の壁あらわれて年の暮
すこしづつ積み上げていま春ちかし
自然保護日本は日本祝箸
手放せぬ鋸に鎌去年今年
洗われし羊毛のやま暮早し
新しきかどでの宴初桜
今日の運星にまかせる春の朝
春蘭を囲む男の笑顔かな
郭公や深き庇の一軒家
公園に影を求めて時計草
総会の季節と言いて躑躅咲く
病室に吾を待つ人や青嵐
椅子の背にタオルを掛ける梅雨曇り
夏灯り海辺に暮らす老夫婦
十五夜に好みの花をお供えす
雨上がり峠の野菊濃紫
夏過ぎて人の便りの忙しく
台風は好きに暴れてビルの風呂
バッタ飛ぶ草刈り機ゆく草の道
あかあかといつもの秋の彼岸花
次々と埋まる予定や肌寒し
偽物になりたくはなし猫じゃらし
独り夜は本と膝掛け焼きリンゴ
古き城裸でそびえる秋の暮
ゴミひろい行き交う笑顔散歩道
ひとひらの赤き葉残し冬隣り
水龍
初冬の拍手の弱きコンサート
回収に出す古紙のかさ石蕗の花
風に襟あはす山茶花垣のまへ
熱燗や猪口持つさまの父ゆづり
冬茜名なき左官の塗りし壁
風強き夜をしがみつく冬の星
箸紙を置かれ父の座しかとあり
耳鳴りの中を流るる去年今年
守護神のごとき大の字山眠る
シナモンのにほふケーキ屋日脚伸ぶ
やまびこのこゑにふるへて冬菫
残雪の駅舎で女(ひと)に待たれけり
雲切るる吉報を待つ梅の庭
鳩笛に春の息吹を吹き込みぬ
たこつぼに立てこもりたる余寒かな
春泥や白き花弁のいづくより
女子高の裏門出づる恋の猫
恍惚とをとこ聖母の絵を踏みぬ
子蟹
浅間山近くに見えて冬浅し
石蕗の花色づきたりて枳殻邸
山茶花のこちらこちらと手招けり
連獅子が駆け抜けてゆく冬うらら
錆色に枯れてなお立ち石蕗の花
滝の如万有引力落ち葉かな
熱燗で諸行無常の鐘を聞く
洋館nお壁の裂け目や花やつで
雪なくてまん丸さまやイヴの月
初孫の名を書き入れて祝箸
去年今年九連環の輪のごとし
来ぬ賀状出しもせぬのに身を案じ
歯に沁みる酒の切れ味海鼠の目
姿なき凶器きらめく氷柱かな
坪庭に初雪置けるけさの冷え
日脚伸ぶ乳はまだぞと背の孫に
嵐山色なき里の冬菫
囀るや迦陵頻伽ぞこの鳥が
青によし万灯篭に白き梅
ビルの谷鳩の飛ぶ音や冴え返る
春一番その日のうちの寒さかな
春の泥庫裡の影濃し道明寺
恋猫の媚びたる声の疎ましく
弾きでし木蓮の花祈りの手
呆気なくライトアップの初桜
春雨や運を卜する烏かな
春だからヒイラギ南天花黄色
石蹴って行方は知らず亀の鳴く
酒ありて酌む友もあり落花見る
春嵐雷騰雲奔お猪口傘
日が暮れてやはりビールか夏近し
病棟のベッドにありし紙風船
藤ふさの影連なりぬ亀の池
クラス会初恋の顔薄暑かな
ホームの陰泣いていたよな著莪の花
初孫の這い出す先に鯉幟
戸隠に君はまれびと郭公鳴く
螺子巻いてけふも一日時計草
夏蝶のふわりと舞って海青し
夏祭りお化け屋敷の招き声
柿の葉の香り移して山の鮓
あわあわと白き散華や沙羅の花
羽黒山天狗の団扇青嵐
背を見せて椅子に座りて半夏生
薄闇に梔子の雨白い雨
手水舎に青き滴り蛇泳ぐ
笹舟に流せし恋よ夏見舞い
風呂上り赤子まとえる天花粉
黒姫の山に向かいてアイスクリン
隅田川憩うアベック蚊遣り焚く
向日葵の迷路に子どもの姿消ゆ
静けさや八月の街昼下がり
浮かれ猫なぜか風鈴銀の舌
五輪燃ゆ中継の声蝉時雨
新秋や背の母軽し誕生日
戸隠の峰に流るゝ乳の霧
朝一番蓮花咲くや善光寺
はよ出でよ十六夜の月きぬかつぎ
来し方と行く手を分かる野菊かな
放り出しゃ小池もありて放生会
八手の葉七手もありて野分逝く
きちきちを追ったあの頃お下げ髪
手を合わせ赤き血に咲く曼珠沙華
僧堂のしじまや深しそぞろ寒
天高し紛い物なるネックレス
立ち呑みの足元に鳴く秋の虫
枕辺に母を看守る冬隣
秋の山車連れ歩む笠異人さん
掃くほどに奥社持て来る落ち葉かな
フリーズと云える人ありパンプキン
この国のかたち思ほゆ明治節
火葬場の煙一条蔦もみじ
寒天
冬浅し帽子の似合ふ老大家
地下路地の化石売場もクリスマス
冬めくや大事も些事も未解決
冬うららカーブの向かふは知らぬ町
散歩路の水平線や石蕗の花
亡き友の話途切れて鍋つつく
熱燗や今年最後の法螺話
極月に安部公房の「壁」めくる
早々と芝生照らされ冬至かな
テーブルの陽射しまばゆし祝箸
去年今年行列伸ぶる暗き道
サッカー場大声援は歓声に
しみじみと海鼠一家に対峙せり
一宿の厠の窓の氷柱かな
電飾のブランド通りに氷雨降る
真新し煉瓦舗装や日脚伸ぶ
冬菫見つけし今日は無為の人
遥けきやすつぽん雑炊待つ時間
紅梅や千年先の風の色
降臨の予感や鳩の乱れ飛ぶ
立春や路地上空に飛行船
初桜死者語りだす昼日中
幾千の運命眼下に山笑ふ
初花や航空宇宙研究所
亀鳴くや壊れかかつた人の声
酒瓶に草芳しく乱反射
春眠や虚数の拓く地平線
完璧な瞬時の庭や夏近し
風船に還る場所あり天の穴
おおぶりのワイングラスや春惜しむ
鼻つまり空中歩む薄暑かな
洪水はむかしのはなし著莪の花
天頂に土星座しをり春の宵
郭公や田舎暮らしの宿酔
日輪の刻む下界や時計草
梅雨に入る体育館のジャズピアノ
舶来の幽霊も居て港町
海岸の薄暮の町で鮨つまむ
茄子漬や万年筆の書き心地
死神のうしろ姿や青あらし
紅花や椅子の足らない句会場
夏めくや一人カレーに生たまご
滴りをスプーンに溜めて舌の上
書き飛ばす暑中見舞の軽さかな
退官の岳父が選ぶ夏帽子
秋めくや老若男女旅支度
蜩の熊野古道に人の列
青北風や大さん橋の先は海
美濃留
ミシュランは知らん初冬の縄のれん
死に石の働く盤上冬日射す
錆び錦着て冬に入る嵐山
冬うらら池塘に眠る希望かな
つわぶきの花いざなへり離れまで
白山の一点見ゆる枯木立
超熱燗ふきげん野郎の手酌かな
折檻の壁は悲しやクリスマス
豆逃げる孫のゆび先福は内
太箸を置きて愛でたるお節かな
灯明の火影乱舞す去年今年
プラタナス冬枯れの街喪に集う
歯ごたえやそっと海鼠の意地を噛む
氷柱落つひゃっと目の先大笑い
凍雲や二匹の魔もの西の空
墨衣消え入る路地や日脚伸ぶ
腑に落ちぬ粧(けわい)のままに寒菫
春立てど三寒四温五稜郭
通い道今日は開くや角の梅
鳩の目の陶器じみたる余寒かな
荒れし野に貴人集うや猫柳
とびとびのタイヤの跡や春の泥
はばからぬ恋猫にくしうらやまし
あれこれを語り継ぎたり雛祭り
薪くべつ丸き背で聞く花便り
運根も尽き涅槃会の衆に伍す
たばかりし吾が悔恨や春炬燵
吾が今日は愚かに暮れて亀の鳴く
叫ぶ声暗やみ明けよラサの春
花の塵跡をも見せぬ石畳
つる草や空をつかんで夏近し
身に余る風船八巻子の祭り
再会や思い廻りて春の風邪
陰日向レンガ倉庫の薄暑かな
迷いきて著莪の群見し二度三度
これっきり色褪せたれど夏帽子
郭公の鳴けば大楡なほ高し
時計草音は出すまい半夏生
田を歩むくひなの影のろの字かな
とぶ蚊さえうらめしげなる夏芝居
人生の奥の深さや鮒の鮨
梅漬けて指色うれし二三日
些事言ふまい峰の欅の青嵐
緑陰や語り合ふよな椅子二つ
麦こがしセピア色した昔かな
滴りてなほとび散りぬ苔のうへ
濡れた手に最後と断る夏見舞
大声のあとの静けき端居かな
甘辛き思い出多し棒アイス
住み替えてい草の青さや薫りたつ
下鴨の参道梢に夏日あり
霊魂の満ちたる八月風重し
うだる夜仲間とくり出すギンザ街
膳かかえ奥へ逃げ込む川床(ゆか)の客
秋めきて人それぞれに驚けり
野分あと佐渡を沖やる阿賀野河
無花果の乳滴れる素足かな
老ひの眼に際をも見せる秋の月
ウリトマトナスの隙間の野菊かな
衰へし散歩の足やバッタ跳ぶ
迫る台風ダンマリ妻に聞くコース
大飛翔殿様飛蝗の茜空
ゴルフボール積んで月見る単身者
両の手の燗の温みやそぞろ寒
命かけて偽装する虫枯れ葉うら
風白し木の葉の国です北海道
秋暮れてもとの住まひの窓明かり
歩み止めカマキリ地を見て動かざる
ただ縦に降る秋雨や竹小路
煮かぼちゃの半身に残る入れ歯あと
田母神も大江も云へ云へ文化の日
阿寒嶽肩肘上げて冬に入る
如比雷
電飾の青色に冬はじまりぬ
埋火や石炭紀から三億年
天高し前世はギャル曽根だったかしらん
飛行船移動性なり冬うらら
石蕗の花不孝者とは果報者
来る年を山積む手帳売場かな
熱燗や奉行の下知も上の空
ぬり壁も一反もめんも霙なか
サンタから徘徊探知機降誕祭
めでたさも100円ショップの祝箸
去年今年マザー・テレサと歎異抄
あったかいもん食べて帰ろな寒月夜
干支の順海鼠海牛虎魚(おこぜ)かな
細りゆく氷柱荒びゆく地球
やぶ入りは知らず平成ニート哉
地下鉄のいつもの出口日脚伸ぶ
君がためわが衣手に冬すみれ
若き日の大夢こいて春立てり
をちこちに梅紅ければ気はんなり
温む水ドバトきじ鳩白子鳩
春宵一刻ええとこええとこ聚楽館
春泥や今朝履き初めのスニーカー
恋猫と激論してをる馬鹿が居て
つちふるやアテナの盾の何守る
花だより恋ふてアムール川下る
運まわし田楽三本まんきんたん
今さらに真西の方(かた)を知る彼岸
亀鳴くな兎起こしてどうすんねん
さあ行こう草萌えの道ランドセル
半仙戯下を地球が回つてゐる
茶畑をSL夏へまつしぐら
照準の測風気球も紅おぼろ
死は癒し外人墓地の土筆かな
紫外線齢ひにしみ入る薄暑かな
釈迦牟尼の生まれ出づる見ゆ著莪の花
憲法に守られをるや護れるや
朝靄の郭公のキーゆらぎをり
南蛮の漂着の浜時計草
田唸らせ「食用蛙とは失敬な」
焼酎の鬼火前座の逸品芸
とつ国のくるりと集ひ寿司屋かな
水着無用裸で競ひし古代見よ
青嵐蛮カラぶりたる奴の日々
しがみつく椅子でもあるまい不如帰
鵜は逃れ友釣られける鮎哀し
払暁の滴らむとする摩天楼
夏見舞律儀は墨を透きとほす
雨白しバスを待ってる修道女
涼しさは女王の指先アイスショー
すだれ越しいま香炉峰かき曇る
英雄の悔いは残りて土用入ル
8月をキャピタリズムが照りつける
瓜蔓に茄子のなればぎつちよんちよん
蝉しぐれ赤塚不二夫が死んだのだ
新秋を登檣礼(とうしょうれい)で出港す
新宿の追分シネコンみちをしへ
虎法被戻りてスタンド秋となる
名月の行幸在はすや狸御殿
野路菊やまだ大丈夫日本は
松茸を勝手の違ふレジに買ふ
打ちつけし戸板蝋燭台風来
きちきちと飛んではおのが分限知る
団栗のトタン屋根打ち空澄みぬ
急行に抜かるゝ駅のそゞろ寒
いが栗をナイスショットや似非紳士
未完成交響曲聞く後の月
ゆふづつや晩秋ほどの風の色
杣(そま)道を歩き歩けばななかまど
静脈の透く白き肌夜寒かな
ワインは白南瓜の素揚げひと塩で
古書街は誰もが薀蓄文化の日
こいさんの船場しぐれて泣いてはる
一白
タンカーが漂うごとき薄暑かな
シンクロナイズドのごとき著莪の花
母の日や在りし日の花器積み重ね
郭公やポプラ並木に歴史あり
時計草窓際辞令恢復す
白くつやベル鳴きやみて旅に出る
なんきんや好きとは言えず食べ残し
文化の日語学学校なくなりぬ
立冬や灯火ひとつ惜しまれて
里山
肌寒く 丹前に染む 香かな
まがい物 古稀にして知る 古女房
庭先の 柿をみつけし メジロかな
炎天子
そぞろ寒小さき傘の芯に立ち
もどきとは偽物のこと梅擬
国鉄という名は消えて花野原
素粒子と宇宙を想い秋の行く
秋園を唯歩く歩けるが故
一花や秋の七草復唱す
厨房に置物のごと南瓜かな
叙勲者と同姓同名文化の日
裸木の街ざわめきし地震来るか