序 |
誤りの内容 |
寺田の管長さ補正式 |
高次の補正式 |
検証と考察 |
エア・リードの発音原理と乱流 |
寺田はここで尺八の節の効果を実験的に解明している。実験は、内径4cmのガラス管を用い、これにピストンを付けて、特定の音叉を近付けたときに共鳴が最大になる管の長さを調べるというものである。そして、管内に図のようなダイヤフラム(diaphragm)を入れると、共鳴点が変わる。その管長さ変化を測定したものである。 寺田はダイヤフラムの中心孔の径を変え、またダイヤフラムの管内での位置を変え、ダイヤフラムの長さを変えて実験を繰り返している。また下の図のように孔の径が円錐状に変わる場合についても実験している。 そして TABLE V はダイヤフラムの孔の径(r)を変えたときの管長さの変化量Δl を示したものである。 寺田はこれを Rayleigh による管長さ補正の理論式と比較した。その理論式によれば、Δl は管の断面積の変化量ΔSに比例する。ここでΔSは、管の断面積の平均値S0と、ダイヤフラムの孔の断面積との差である。 そして寺田はこの関係を Δl ∝ΔS or Δl ∝(R−r)2 と表現している。明らかにこれは誤りで、正しくは Δl ∝R2−r2 である。 | ![]() |
ξ−a≦x≦ξ+a その他 | において において | ΔS=const. ΔS=0 |
(1) |
これが実験結果とよく一致していることは寺田も述べている。 でも Δl>0 となるが、これは実験結果には見られない。 |
n2=( | §265(6) |
§265(6)は |
という条件の下で導かれたもので、したがってこれもSの急激な変化を想定していない。しかしながら、これの物理的な適用限界は§265(7) のような数学的な線形近似による限界と一致するかどうかはわからないだろう。 |
Diameter of the passage | 実験結果Δl for c1 | 実験結果Δl for c2 |
---|
S0=πR2, R=4cm ΔS=π(R2−r2) ●はc1 ●はc2 |
フルートの発音原理に関しては、大きく分けて二つの説が存在する[2][14][15]。一つ目の説は、唇から出る空気の束(エアビーム)を楽器の吹き込み口の縁(エッジ)に当てることでカルマン渦が発生し、これがエッジトーン(強風のときに電線が鳴るのと同じ現象)を生じて振動源になるというもの。二つ目の説は、エアビームの吹き込みによって管の内圧が上昇し、これによってエアビームが押し返されると空気が抜けて内圧が低下し、再びエアビームが引き込まれるという反復現象が発生して、これが振動源になるとするものである。 2. 安藤由典 『新版 楽器の音響学』 音楽之友社、1996年、ISBN 4-276-12311-9 14. N.H.Fletcher、T.D.Rossing(著)、岸 憲史 他(訳) 『楽器の物理学』 シュプリンガー・ジャパン、2002年、ISBN 978-4-431-70939-8;2012年に丸善出版より再刊 ISBN 978-4621063149 15. H.F.オルソン(著)、平岡正徳(訳) 『音楽工学』 誠文堂新光社、1969年'); |
日野幹雄著『乱流の科学―構造と制御―』(2020年4月、朝倉書店)に「日本の乱流研究の先達者達」の小見出しがあり、寺田寅彦が挙っている。 流れの研究で知られる谷一郎によれば、「寺田先生は流体層の熱の伝熱が、温度差が大きくなると伝導から対流に変わるという意味に関心を持たれていた」そうで、日野によれば「これが寺田の平行平板間の流れの熱対流の研究(1928、1929)で、調べた範囲ではこの研究は世界で最初の実験で今日でも引用される」とのことである。 |