金環食と節気

 2012年5月21日は全国の広い範囲で金環日食が見られるということで盛り上がっています。ところで、この日は日本の旧暦では四月一日なのですが、中国では閏四月一日です。何故このようなことが起こるのでしょうか?
 『旧暦』と呼ばれているものは、明治の初めまで使われていた中国暦を元にした暦法のことです。この暦法では朔つまり新月が必ず毎月の一日です。日食は新月の時にしか起こりませんから、それが一日なのはわかります。ではそれは何月の一日なのでしょうか?
 実はここで二十四節気というものが登場します。2012年5月21日は日本では二十四節気の小満です。しかし中国では前日の20日が小満なのです。そして中国暦(日本の旧暦を含む)では、小満のある月を四月とするのです。だから金環食の日(現行暦2012年5月21日)は、日本では朔であるとともに小満なので、この日から始まる月が旧暦四月なのですが、中国ではその前日が小満なので、前の月つまり現行暦2012年4月21日の朔からが四月となります。
 では、日本の四月つまり金環食の日から始まる月は中国では何月でしょうか?四月の次だから五月かと思うと、これがそうじゃない。中国暦では夏至のある月が五月なのです。2012年の夏至は現行暦6月21日です。ところがその前の6月20日が朔なので、この日からが五月となります。そうすると、現行暦5月21日から始まる月は中国では四月でもなく五月でもない、言ってみればその中間の月となります。これは『閏四月』と呼ばれます。
 ちなみに、現行暦4月21日からの中国の四月は日本では閏三月です。これは現行暦4月20日が二十四節気の穀雨で、この日がある月を三月とするためです。だから4月21日からの月は日本では三月でも四月でもないということになるのです。
2012年
現行暦日本中国
3月22日三月朔 23:37三月朔 22:37
4月20日穀雨 1:12穀雨 0:12
4月21日閏三月朔 16:18四月朔 15:18
5月20日 小満 23:16
5月21日四月朔 8:47
小満 0:16
閏四月朔 7:47
6月19日 五月朔 23:02
6月20日五月朔 0:02 
6月21日夏至 8:09夏至 7:09

 以上見てきたように、中国暦では月の決め方が二十四節気によっているのです。では二十四節気とは何でしょうか?
 二十四節気は『太陽黄経』によって決められる、と説明されます。しかし、地動説を知っている(教え込まれている)現代人には次の説明のほうが分かりやすいでしょう。
 地球は太陽の周りを回って(公転して)います。その一周する周期が1年です。だからたとえば1月1日に地球が居る場所は、この公転軌道の上で決まっています。その「決まった場所」を24箇所選んだものが二十四節気なのです。
 もっとも、「決まった場所」は現行暦の1月1日などではなくて、冬至、春分、夏至、秋分などを基準とします。冬至は昼が一番短い日、夏至は昼が一番長い日、春分、秋分は昼と夜の長さが同じ日ということは小学生でも知っているでしょう。そんな日を基準にするのです。また具体的には、その中で春分に地球が居る場所を起点とし、そこから公転軌道を15°動くごとに印を付けたものが二十四節気です。それらには「春分」から「清明」、「穀雨」、「立夏」、「小満」、「芒種」、「夏至」、・・・、という名前が付いています。だからたとえば先ほど出てきた小満は、春分から地球が60°の所に来た瞬間なのです。
 そんな瞬間が日本と中国で日付が違うのは何故でしょう?実はこれは日本と中国の時差でしかないのです。日本の時刻は東経135°(兵庫県明石市など)での太陽時を元とする『日本標準時』ですが、中国の時刻は東経120°を基準とします。このため日本とは1時間の時差があります。
 2012年の小満つまり春分から地球が60°進んだ瞬間は、日本時間では5月21日0時16分ですが、これは中国時間では20日23時16分です。この1時間の時差のために日付が1日違ってしまうのです。時差のために日付が違ってしまうことは時々起こります。朔の時刻でもこれは起こります。朔の日が毎月の1日ですから、この場合は日付が1日食い違うことになります。
 ちなみに朔や二十四節気の時刻は日本では国立天文台が現代天文学で計算したものを官報で発表しています。中国では紫金山天文台が同様のことを行っています。

 ここで整理してみます。中国暦(日本の旧暦もその一種です)は、月の満ち欠け(朔望)で1箇月を決める『太陰暦』です。だから朔(新月)が毎月の一日になります。しかし一方でそれが何月であるかは二十四節気のうちの穀雨、小満、芒種などで決めます(これらを『中気』と言います)。二十四節気は、冬至、春分、夏至、秋分などが元となっている。それは太陽の運行(日の長さ、太陽の高さ)によって決まるものですから、これは立派な『太陽暦』です。つまりこの暦は『太陰太陽暦』なのです。1箇月は月の朔望で決めながら、1年は太陽によって決めて、季節は太陽暦の二十四節気によるという、これは実に秀逸な暦法なのです。
 しかしながら、国の違いで起こる時差などというもので日付や今回などは月までもが食い違ってしまうという厄介な問題も抱えているのです。

 こんな暦とくに中国暦の面白い(厄介な)お話を
  『暦はエレガントな科学』石原幸男著 PHP研究所 ISBN978-4-569-80149-0
に他にもいろいろ書いております。是非御一読ください。

2012.5