大阪湾の縦式単節静振に就いて、日高孝次
 大阪湾を長軸の一端から他端に向かって次第に深くなっている楕円形の海として取り扱う。大阪湾の長径を 61.0km、平均の深さを27m、g=9.779m/s2とすれば縦式静振の周期として単節静振では 118.3min., 双節静振では 69.6min. を得た。尚縦式単節静振では大阪湾北東部の振幅は、その南西部の振幅の約3倍になるという結論を得た。これらは実測値と良く一致している。
基本方程式
  ∂2ζ/∂t2=(g/w)∂(wh∂ζ/∂x)/∂x  (1)
 ここでζ:水位、h:水深、w:水路幅、x:楕円の長径方向の座標。
 水路を長軸a、短軸bの楕円と考え、
  w=2b(1−(x/a)21/2     (2)
 水深は直線的に変化すると考える。
  h=h0(1−x/a)     (3)
 h0は平均水深。
 振動を周期Tの単弦運動とする。
  ζ=η(x)cos(2πt/T)     (4)
 ここで
  ξ=x/a        (5)
と置けば方程式(1)は
  (1−ξ2)(d2η/dξ2)−(1+2ξ)(dη/dξ)+(ka)2(1+ξ)η=0     (6)
 ただし
  k2=4π2/(gh02)   (7)
 方程式(6)は(ka)2のある特定な値に対してのみ収斂する解を与える。(固有値問題)
 境界条件
  (dη/dξ)ξ=+1≠∞        (8)
  (dη/dξ)ξ=-1=0        (9)
 方程式(6)を解くため、次のような冪級数展開を用いる。
  dη/dξ=A0+A1ξ+A2ξ2+・・・   (10)
と置く。これを(6)に代入すれば
  (ka)2-1−A0+A1=0   (11)
  (ka)2-1−((ka)2−2)A0−A1+2A2=0   (12)
およびn≧1に対し
(ka)2n-1/n−(n+2−(ka)2/(n+1))An−An+1+(n+2)An+2=0  (13)
 これを解くのに日高は以下のようにしている
  An+1/An=Nn+1    (14)
と置き、(11)と(12)からA1を消去したものから
  (1−(ka)2)/(2N1)+1+N2=0   (15)
および(13)から
  (ka)2)/(nNn)−(n+2−(ka)2)/(n+1))−Nn+1+(n+2)Nn+1n+2=0  for n≧1  (16)
 また(11)から
  A-1=(1−N1)A0/(ka)2)  (17)
及び(14)によって
  A1=N10
  A2=N120
  ・・・・
  An=N12・・Nn0
であるから、
  dη/dξ=A0(1+N1ξ+N12ξ2+・・・)    (19)
等が得られる。
 今、条件(8)によって(19)はξ=1において収斂しなければならないから
  Limn→∞n+1
なる極限値は1より小さい一定値に収斂しなければならない。今(16)からこれは0か1であることは容易に判る【原文ママ】。したがって
  Limn→∞n=0    (21)
なる極限値を採用しなければならない。
 このようにしてNnを求める。そして条件(9)にしたがって
  1−N1+N12−N123+・・・=0    (24)
を満足するように(ka)2を選ぶ。
 ここで、kaの大体の値は次の様にして目安を付けた。
 深さが一様な矩形の海では
  ka=π/2,π,・・・
 本問題の様に(水深が)変わる矩形の海では
  J0'(21/2ka)=0
の解で
  ka=1.355, 2.480, ・・・
となるから、矩形の場合は深さ(が変わること)の影響は各 16%および 26%である。楕円形の場合も等深のときのkaは判っているからそれらより 16%および 26%小さい値を用いれば大体の値として考えることができる。


 以上が日高が用いた計算アルゴリズムであるが、この計算を実際に行ってみよう。これは、Nnが(式(16)と同じ事であるが)
  Nn=((ka)2/n)/(n+2−(ka)2/(n+1)+Nn+1−(n+2)Nn+1n+2)  (22)
および式(24)を満たすような(ka)2の固有値および対応する固有ヴェクトル{Nn,n=1,2,・・・}を求める問題である。現在ではこれはたとえば Microsoft Excelなどの「ゴールシーク」機能を用いれば比較的簡単に追算できる。
 Oosakawan.xls はこれを実行するためのワークシートである。
 [B1]には(ka)2が与えられ、"Lambda"という名前が付されている。[B2]にはkaが([B1]から)求められる。
 [D ]の列には順にN1,N2,N3,・・・が式(22)により求められる。ただし、最後の2つはNn+1,Nn+2を0としている。[E ]の列には積N12・・Nnが、[F ]列には式(24)の右辺が求められる。
 計算を行うためには、まず[B1]に適当な値(日高に従えば等深楕円の場合より16%および26%小さい値)を与える。次に、「ツール/ゴールシーク」を起動し、「数式入力セル」として[F ]列の最後のものを選び、「目標値」を0とし、「変化させるセル」として[B1]を選んで実行すれば正しい解が得られる。
 以下に結果を示す。「Excelの結果(1)」は、日高と同様、単節静振は5次まで、双節静振は9次までを求めた場合、「Excelの結果(2)」はいずれも20次までの場合である。
 単節静振のN1だけが日高の結果と少し差がある。それ以外はほとんど一致している。単節静振のN1は単なる計算間違いまたは誤植であろうか。
単節静振
日高の結果Excelの結果(1)Excelの結果(2)
(ka)22.7552.7542.754
ka1.6601.6591.659
11.50401.54351.5436
20.432460.432180.43204
30.209450.209330.20935
40.126400.126330.12510
50.084240.084190.08367

単節静振のη/H
ξ日高の結果Excelの結果(2)
1.01.0001.000
0.80.6680.668
0.60.3990.400
0.40.1860.186
0.20.0190.019
0.0-0.108-0.108
-0.2-0.203-0.201
-0.4-0.267-0.266
-0.6-0.308-0.307
-0.8-0.330-0.329
-1.0-0.337-0.336

双節静振
日高の結果Excelの結果(1)Excelの結果(2)
(ka)27.9667.9677.967
ka2.8222.8232.823
1-0.579309-0.57869-0.57867
27.0124107.019177.01945
30.9402490.940400.94040
40.4565070.456560.45656
50.2807980.280830.28083
60.1929790.193000.19299
70.1417500.141760.14176
80.1092440.109250.10895
90.0867470.086750.08654