2008年10月20日 Asahi.com より
シニア男性「ちょい太」お勧め 死亡率低下、茨城で調査
病気などで亡くなる人の率が低いBMI値
・調査したのは県や筑波大、独協医科大などのグループ。93年度に健診を受けた40〜79歳の男性3万2千人、女性6万2千人を03年まで追った。
・喫煙や飲酒の影響を除いたうえで、どの体形の人が病気などで亡くなる確率が最も低いかを、年代別に算出した。
・体形は、体重(キロ)の値を身長(メートル)で2回割った体格指数(BMI)でみた。
・男性は40〜50代ではBMI23.4、60〜70代では25.3の人が、死亡率が一番低かった。
・女性は40〜50代ではBMI21.6、60〜70代で23.4。の人が、死亡率が一番低かった。
・肥満学会はBMI22を理想とする。男女約4600人の調査で、この体形のとき病気の確率が最低だった。ただ、調べたのは30〜50代で、高齢世代はみていなかった。

 理数系の者にはBMIという指標はどうにも腑に落ちないのである(「肥満学会」は理数系なのかどうかはわからんが)。

体重は身長の3乗に比例するはず
 BMIは体重を身長の2乗で割って求める。つまり、体重は身長の2乗に比例すると考えていることになる。これがわからん。
 体重は
  密度×体積
である。しかし人体は80%かそこらが水だというから、密度(比重)はいくらも変わる道理が無い。一方、体積は体形によって変わるだろうが、体形が同じなら、その各部位の長さはプロポーショナルなはずで、それは身長で代表させることができるだろう。そして、体積は長さの3乗なのだから、それは身長の3乗に比例するはずである。結局、標準体重は身長の3乗に比例すると考えるべきであろう。

 一方、昔は「標準体重」は
  身長−110
とか、
  0.9×(身長−100)
とか言われて来た。いずれも身長の1次式(1乗)である。一見するとBMI以上に3乗からは遠いと思うかもしれない。しかし、身長の何乗だろうと、身長Lを平均身長_と平均からの偏差ΔLに分けて、
  L=_+ΔL
_の周りでTaylor展開というのを行って、ΔLの1次までを残すと、結局身長の1次式で近似できるのである。
 この近似は
の場合に有効であるが、
  _=160cm
とすると、
  L=144〜176cm
というかなり広い範囲で、上記の指標は0.1以下である。つまりその範囲までなら、この1次近似は充分有効なのである。
 ΔLが非常に大きいと、この近似は成り立たない。しかし、そのように身長が極端に高い人、低い人というのはかなり特殊なはずで、例えば特殊なスポーツをやっている人などが多いだろう。そのような特殊例まで「標準」に組み入れるというのがそもそも無理な話である。だから「標準体型」と言うときには、従来の1次式は充分有効なはずである。少なくともBMIの「身長の2乗」という不可解な設定よりはずっとマシなように思える。

カウプ指数、ローレル指数
 調べてみると、実はこのBMIのような<体重÷身長2>というのは、カウプ指数と言って、乳幼児から学齢前半の子供のための指数だということだ。なるほど、乳幼児は大人に比べてずんぐりしている。が、その体形のままで(身長3に比例して)成長したら、「千と千尋・・」の「坊」になってしまう。これはグロテスクである。だから身長2くらいで考えるのが良いのだろう。もっとも、2乗の理論的根拠はなお希薄ではあるが。因みに乳幼児の場合のこの値の適正値は15〜19という。

 そして、学齢期以降についてはローレル指数というのがある。これは実際に身長3を使う。そして、11〜14が標準という。
 このような指標があるのに、何故BMIは乳幼児向けの指標を使うのか、はなはだ理解に苦しむ。これを解明するために、冒頭の新聞記事を吟味してみる。

 身長をL(cm)、体重をW(kg)とすると、
 これが22のときが理想というのだから、「理想体重」をWBMI22とすると、

 古典的な「標準体重」をWClassicとすると、

 つまり、
・L=173cmではWBMI22とWClassicはほとんど同じ。
・L=160〜200cmという広範囲で両者の差はかなり小さい。
L<160cmの場合だけ差が大きくなり、WBMI22>WClassicである

年代別平均身長
 やや古い「理科年表」から現代の年代別平均身長を推定してみると、
年代
40〜50代
60〜70代

調査結果で最も死亡率の低いBMIと上記平均身長から求めた対応する体重(Wbest
年代
40〜50代
60〜70代

best/(L−100)
を求めてみる。これが0.9の場合が古典的標準体重WClassicである。
年代
40〜50代
60〜70代
 全ての場合に0.9よりは大きい。特に高齢者では1.05以上となり、新聞記事の「シニアは『ちょい太』お勧め」という結論は変わらない。しかし、男女の差はいくらもない

ローレル指数
を求めてみる。
年代
40〜50代
60〜70代

 ここでも高齢者の値はやや高いが、やはり男女の差はいくらもない


 40〜50代では男女とも0.95〜0.98×(身長−100)であり、ローレル指数も14程度でほぼ同じである。一方、60〜70代では男女とも1.05〜1.08×(身長−100)であり、ローレル指数も15.6〜15.8程度でほぼ同じである。BMIだけは60〜70代の男が25.3で他より高い。
 つまり、「死亡率の低い人」に男女差が現われる指標はBMIだけなのである。
 一方、男女間には平均身長に差があり、女性の方が背が低い。
 ところで、BMI=22という「理想体重」は、他の指標による「標準体重」に比べて、身長が低い(160cm以下)場合は大きくなる。逆に言えば、他の指標の「標準体重」の人のBMIは身長が低い場合には小さくなる。

 結局これが新聞記事に見られる「男女差」の正体であると結論できるだろう。つまり、女性は平均身長が160cmよりかなり低いので、実際の体形は男性と変わらないのに、BMIは小さめになっているのである

 海外のどこだったかの有名なファッションショーではBMIが18(?)以下のモデルは出られないと言う。あまりに細い体形は不健康ということなんだろう。
 ここで注意しなければならないのは、これは海外(欧米)のファッション・モデルだということである。彼女達は皆長身である。160cm以下などという人はまずいないだろう。その領域ではBMIもかなり良い指標である。というか、他の指標より劣っているという根拠はない。
 おそらくこれがBMIが使われる理由なんだろう。欧米では男も女も身長160cm以下というのはまだ成長途上とみなされる。成人はほぼ160cm以上である。だからBMIで体形を判定できる。3乗よりは2乗のほうが少しでも計算が楽ということもあるだろう。
 しかし日本では、特に女性は成人の平均身長が160cmよりかなり小さい。そんな小さい人が沢山いるのに、そんなところでBMIを使ったら妙なことになる。何事も欧米で流行っているものを輸入して、国情の違いも考えずにそのまま使うという明治以来の悪習がまだ残っているものと思われる。
 BMIなんて使ってはいけない。160cm以下でBMIが22だといって安心している人、あなたは、すでに肥満なのだ

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