太陽の色 simulation


 日出直後や日没直前の太陽は非常に赤い。一方、高く昇った太陽は―直接見たら目を傷めるが―あまり赤くない。まあ、“ギラギラの白”だろう。


夕日(石神井公園 21/3/23/17:44)

 この理由は、かなり初歩的な本でも解説されている。それによれば、
・光は空気の分子によって“散乱”される。
・散乱の強度は光の波長が短いほど強い。赤い光は波長が長く、青い光は短いので、青い光は強く散乱され、直進成分が少ない。
・太陽高度が低いと、太陽光が空気中を通る経路が長くなり、青い光はますます強く散乱される。赤い光は散乱が小さいのであまり弱まらないため、この場合太陽は赤くなる。
 定性的な理解はこれで充分だろう。しかし以下では初歩的な物理法則によってこのことを検証してみよう。

大気層と光路距離
まず、大気層を密度一定の層で近似する。
 R:地球半径
 D:大気層厚
 h:太陽高度角
 L:光路距離
とすると(図-2)、

 ここで
とすると、Lkmは図-1の折れ線のようになる。h>30°ではLはあまり変わらないが、hが小さい所ではLは急激に増大する。つまり太陽高度が低い所では光路距離が大きくなり、散乱が急に増大することがわかる。
h°km

太陽光の散乱
 次に散乱であるが、“散乱の全断面積σ”が重要となる。これは光が一度散乱されるときに失われるエネルギーの割合を表す。なお“断面積”というのはこれが面積の単位になるためである。
 例えば“Thomson 散乱”というのは、

というきわめて小さな量である。ただしこれは散乱一度あたりの断面積である。しかし空気中には
という膨大な量の分子が存在する。したがって光が距離Lだけ進むときの散乱総量は
 NσL
となる。そしてこのために光のエネルギーは
 exp(−NσL)   (2)
に減衰する。
 太陽高度角がhの時のLは(1)式によって求められるので、それを用いれば(2)式によって減衰が求められる。
 ただし、実際の散乱断面積はThomson 散乱のような一定のものではなく、光の波長λの4乗に反比例する“Rayleigh 散乱”である。
 したがって、Lが同じ(ということはhが同じ)でも、散乱強度は光の波長によって異なる。まさにこれが、朝日/夕日が赤いことの原因である。

太陽光の波長分布(spectrum)
 さてそこで、太陽光はどのような波長分布をしているかが問題になる。これは“黒体放射”の理論で理解される。それによれば、

 この黒体放射には“Wien の変位則”というのがある。
  λMaxT=0.00289
 ここでλMaxは、上記のEλが最大になる波長である。T=6000K の場合、
 これは緑〜青のあたりの可視光に相当する。 である。
 可視光は赤、緑、青の3原色に分解できる。可視光のうち波長の長い方が赤、短い方が青、中間が緑である。3原色の混合比によって様々な色が出現する。以下では次の3つの波長を考える。

 このうち最大のEλを基準とし、それに対するEλ,Eλの相対値を求めると、
 図-1にはEλ,Eλ,Eλをこの比率としたときの各高度角hごとの
 
を示した。明らかに、hが小さい所ではの減衰が大きいが、はそうでもない。
 さらに、を上記の比率で混合した各高度角における太陽の色を図-3に示す。hが大きい所では白っぽいが、h<20°あたりから明確に赤くなる。つまり、朝日/夕日の色をかなり再現できたと言えるだろう。


Apr. 2021
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