季夏、熒惑と心

『淮南子時則訓』によると季夏とは六月のことである。

孟春:正月仲春:二月季春:三月
孟夏:四月仲夏:五月季夏:六月
孟秋:七月仲秋:八月季秋:九月
孟冬:十月仲冬:十一月季冬:十二月

 中国暦(いわゆる「旧暦」)では、六月は大暑(グレゴリオ暦7月23日頃)を《中気》とする。だいたいのところ立秋(8月7日頃)より前である。1700年〜2016年の79年間隔の「熒惑心接近」はすべて8月下旬で、『呂氏春秋』とは1箇月ほどの違いがある。
 ところで、1700年の79×24=1896年前の この接近が起こっているが、その2年後のB.C.195年には8月初旬にも起こっている。まさに季夏(立秋前)である。たしかに呂氏春秋の時代にはこれがあったことがわかる。
 火星は公転周期
で軌道上の同じ位置に来るわけだが、地球との位置関係により心宿(アンタレス)の方向に見えるのは2年−1箇月(700日)後くらいになるようである。
 しかしながら近年では、たとえば2016年8月の後に両星が接近するのは2018年2月中旬で、その後火星はさそり座、いて座を通過して8月初旬(季夏)にはやぎ座付近に達する。
 B.C.197年以後79年毎の両星接近は、次第に時期が早くなり、991年には6月頃が最接近となる。この頃から季夏ではなくなる。


 A.D.120年には8月末頃にアンタレスと火星の接近があり、その2年後のA.D.122年には7月末にあった。この時代のアンタレスの黄経は『アルマゲスト』で知ることができる。それは《天蝎宮12°40′》で、白羊宮初度からは222°40′(≒223°)である。8月末( G暦)ということで、地球は太陽黄経150°(二十四節気の《処暑》、8月23日頃)にあるとする。そこから火星がアンタレスと同じ方向(223°)に見えるということで、火星軌道上(軌道半径1.52368AU)のその位置を算定できる。それは日心黄経262°ほどである。700日後には火星は日心黄経269°ほどであるが、地球から見た位置はやはりアンタレスと近い。
 2016年には歳差のためアンタレスの黄経は250°ほどになっている。同じく処暑に火星がこの方向に見えるとすると日心黄経290°ほど、700日後は297°ほどであるが、この時地球から見た位置はアンタレスからは大きく外れる。
 つまり、120年と2016年では歳差のためにアンタレスの位置が異なり、このため同じく処暑の頃にアンタレスと火星の接近があっても、2016年には700日後の季夏の接近がないのである。

火星日心黄経 ただし λM:火星日心黄経
    λSco:アンタレス黄経
    λE:太陽黄経
    rE:地球軌道半径
    rM:火星軌道半径
(実際の火星軌道は真円ではないのでこの計算はやや不正確である。)