北朝鮮の標準時変更

 2018年5月5日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は標準時を30分早め、大韓民国(韓国)や日本との時差を無くした。これは、元々は時差がなかったものを2015年8月15日から30分遅らせたのを、3年足らずで元に戻したものである。
 本稿ではこれが5月5日に行われたことに注目したい。実はこの日は立夏だった。韓国および日本ではそれは22時25分だった。このように立夏(および二十四節気)は時刻まで決められている。その意味は今は措くが、北朝鮮に従来通り30分の時差があればそれは21時55分になるところであった。
 「それがどうした」と思う向きもあるかもしれない。たしかに、この立夏の30分の時差自体にはたいした意味はない。
 しかし、前年の大暑には時差が原因でちょっとした事件が起きた。すなわち、2017年の大暑は韓国・日本では7月23日0時15分だったが、北朝鮮では時差のため22日23時45分となった。日付が1日違ったのである。
 それでも、二十四節気の日付の違いくらいたいしたこととは思われないかもしれない。ただ、この時は 。  中国暦(いわゆる『旧暦』)では朔の日から月が始まる。その点は「太陰暦」である。一方、この暦では二十四節気という太陽暦要素も併用する。だから「太陰太陽暦」なのだが、大暑というのは「六月中気」なので、この日を含む月が となる。したがって、韓国・日本では7月23日からが六月であったが、北朝鮮ではその前日までが六月となった。
2017年
月日韓国・日本北朝鮮
6.24閏五月朔(11:31)六月朔(11:01)
7.22 大暑(23:45)
7.23大暑(0:15)、六月朔(18:46)閏六月朔(18:16)

 このような事態は 。しかし朝鮮半島内で起きたというのは前代未聞であろう。わずか3年弱の間にそれが起きたために、時差の功罪を北朝鮮当局は学んだのだろう。
 日本では旧暦の風習はカワウソとともにほぼ絶滅してしまったため誰も気に留めないが、周辺諸国はそうではない。だから金正恩氏が「民族の和解、団結の初の実行措置として、二つの時間を統一する」と述べたというのもあながち大袈裟ではなかろう。そしてその統一を象徴するのが立夏の時刻であったのだろう。

May 2018
石原 幸男