爽やかな果実の香り
 舌に滲むほろ苦く甘い蜜

 身も心も熱く酔わせる琥珀色の誘い


 クリスタルグラスに透ける誘惑
 巧みに手繰り寄せられる甘い罠

 笑顔の裏に潜む愛の駆け引き





 料理中、調味料が切れていることに気が付いた

 手が離せなかったメルキゼに代わって、
 急遽、カーマインが近所の店にお遣いに行って


 鍋をかき回しながら待つこと数十分

 やがて満面の笑みを浮かべて帰って来たカーマインの手には、
 当初の目的だった調味料の包みの他に、
 見覚えの無いボトルが握られていた




「……カーマイン、それ…何?」

「ああ、オマケで貰ったんだ
 店のおばちゃんが漬けた果実酒
 せっかくだからさ、食事しながら飲もう」

「そうだね
 じゃあ食器を並べていてくれるかな
 すぐに味付けを済ませてしまうから」


 メルキゼは調味料の包みを受け取ると、
 鍋の中の料理にそれを振りかけ始める

 程なくして完成した料理をテーブルに運ぶと、
 カーマインはそれを食器に盛り付けた



「へぇ…良い香りだな」

「そのシチュー、自信作なんだ」

「うん、具沢山で美味しそう
 お前って本当に料理上手だよな」


 今夜のメニューはシチューとパン、そしてサラダ

 薄暗い部屋の中で、
 ランプの淡い光に照らされながらの食事


 夜風が冷たく感じる季節になってきた

 暖かい食事をして、
 そして身を寄せ合って眠りに付く

 それが寒い夜を暖かく過ごす秘訣なのだ





「果実酒、飲んでみようか」

「うん…何の果実が入っているの?」

「マタタビ」

「……………。」


 カーマインの言葉に、
 途端にメルキゼは口を噤む

 そんな彼の様子に慌ててフォローするカーマイン


「い、いや、別に深い意味は無いんだ
 マタタビって万能薬で身体に良いって聞いてさ
 だったらお前と一緒に飲もうって思って、少し分けて貰って来たんだ」

「…そ、そう…それなら良いけれど」


 琥珀色の果実酒をグラスに注ぐ
 物珍しそうに、その香りを確かめるメルキゼ


 ……メルキゼとマタタビ酒

 この組み合わせに、
 思わず口元が緩むカーマイン


 本物の猫のようにマタタビで酔う事は無いだろうが、
 マタタビ酒でほろ酔いになったメルキゼというのも一興だろう





 酔ったメルキゼは、
 いつもの彼とはまた一味違った魅力がある


 ストイックな雰囲気を身にまとう彼だが、
 アルコールが入ると途端にガードが緩くなる

 少し大胆になった彼は、
 何とも言えぬ色気を漂わせるのだ


 恋人を酔わせたくなるのは男の本能

 そして酔った恋人を、
 ベッドにエスコートするのも大人の男の楽しみだ

 …とは言っても自分とメルキゼは
 相変わらず肉体関係までは到達していないのだが


 それでも酔った彼は口付けにも積極的に応じてくれる

 強く抱き合いながら深い口付けを交わして
 寒い夜を互いに暖め合いながら眠りにつく

 現状に不満を感じている事は確かだが、
 それでも日を追うごとに深まる関係は嬉しい





「…メルキゼ、味はどうだ?」

「うーん…ちょっと苦いというか…渋い…」

「蜂蜜入れるか?」

「うん…そうだね」


 マタタビ酒に黄金色の蜂蜜が注がれる
 蜜を注がれた琥珀色の酒はその色を深くさせた



 一口飲んで、好みの味になった事を確かめると、
 メルキゼは舐めるようにその酒を啜り始めた

 思ったより酒の減りが早い
 甘味のせいで酒の味が鈍っているらしい


「お、おい、結構アルコール度数高いから気をつけろよ」


 いくら飲んでも殆ど酔わないカーマインと違って、
 メルキゼは一定以上の酒量を超えると酔い潰れてしまう

 酔い潰れた彼をベッドに運ぶだけの腕力は自分には無い
 この季節、椅子に座ったまま酔い潰れられたら確実に風邪を引くだろう




 ここは予防策を取っておいた方が賢明だ
 カーマインは二人の皿が空になっている事を確かめる

 そして徐にメルキゼに切り出した


「食事はもう終わったんだからさ
 残りはベッドに移動してから飲まないか?」

「…ん…そうだね」



 メルキゼ自身もこのままでは潰れる事を理解しているらしい
 素直に頷くと、そのまま寝室の方へと歩いて行く

 しかし服のままベッドに上がる気にはなれないらしく、
 律儀に寝間着にへと着替え始めた


 彼の着替えを見るわけにも行かず、
 その間仕方が無くカーマインはテーブルの片付けを始める

 着替えの間は席を外すのが暗黙の了解となっていた
 …というか、そうじゃないと何時まで経っても眠ることが出来ない






「…メルキゼ、もう着替えたか?」

「うん、もう良いよ」


 カーマインが寝室に戻ると、
 メルキゼは既にグラスを傾けていた

 もうかなり酔いが回っているらしい
 普段は白い顔に赤みが差している


「おいおい…二日酔いになるなよ?」

「大丈夫、その前に潰れるから…」

「それは大丈夫って言わないって」


 甘くほろ苦いマタタビ酒は、
 すっかりメルキゼのお気に入りになったらしい

 ちびちびと舐めるように味わいながら、
 上機嫌に満面の笑みを浮かべている

 酒好きというよりは甘い味のもの全般が好きなのだろう




「…カーマインも、こっち来て…」


 グラスを持っていない方の手で手招きされる

 特に断る理由は無い
 カーマインは頷くと彼と同じベッドの上に腰掛けた


 最近はこうして同じベッドで眠りにつく事も多くなってきた
 口付けの技術もそれなりに向上して来た気がする

 それに―――



「…カーマイン…」


 彼の手が頬に触れる

 この程度の軽いスキンシップは、
 出会った頃と比べると格段に多くなった


 流石に服の中に手を入れてくるような事はしないが、
 頬や肩になら普通に触れてくる

 彼の高めの体温が心地良い


 メルキゼに寄り掛かりながら、
 軽く唇を突き出して誘ってみる

 少し間を置いてから、躊躇いがちに重ねられる彼の唇は、
 酔いのせいかいつもより熱く感じられた



「…メルキゼ、今日のお前…体温高いな」

「うん…カーマイン…
 どうしよう、私…凄く身体が熱い…」


 トマトのように真っ赤な顔
 焦点の合わない力無い目
 熱に浮かされたような表情

 どうやら酒量を超えて泥酔一歩手前のようだ

 潰れる分には構わないが、
 二日酔いになられたら困る





「だからアルコール度数高いって言っただろ
 ちょっと待ってろ、水を汲んできてやるから」

「……だ、ダメ…っ 」


 ぎゅっ

 ベッドから降りようとした瞬間、
 メルキゼの両手がそれを阻止する

 見事に彼の両手が腹筋にめり込んだ


「…ぐえっ…」


 重量級男からのタックルは、
 想像以上のダメージをカーマインに与えた

 一瞬、呼吸が止まる




「……おい…何すんだよ…っ!!」

「だってカーマインが行こうとするから…
 ベッドに一人で取り残されたら寂しいよ」


「そんな大袈裟な…」

「大袈裟なんかじゃないよ
 今夜はずっと一緒にいてくれないと嫌だ」


 ぎゅっと今度は全身でしがみ付いて来る

 酔いで羞恥心が薄れているのか、
 甘えん坊な一面が出てきているらしい

 全身をカーマインに擦り付けて来るその姿は、まさに猫



「…カーマイン…」

「おいおい、今日は随分人懐っこいな
 まさか本当にマタタビで狂ったんじゃないだろうな」


 押し付けられてくる彼の身体は異様なほど熱い
 ドクドクと脈打つ鼓動も伝わってくる

 そして熱を含んだ荒い吐息


「…お、おい…」


 明らかな違和感
 メルキゼの体調が見るからにおかしい

 何度も酔った彼は見た事はあるが、
 こんな状態になったのは初めてだ

 手を伸ばすと、彼の身体はじっとりと汗で濡れていた




「だ、大丈夫か!?」


 メルキゼの身体を引き剥がすと、
 彼をベッドに横たえさせる

 熱に浮かされた彼は、ぼんやりと天井を眺めていた

 酔っただけではここまで酷い状態にはならない
 額に触れるとじんわりと熱が伝わってくる


「ごめんな、気付かなくて…
 でもお前だって体調悪いなら言えよな」


 口を付いて出る言葉が小言気味になりながらも、
 カーマインはメルキゼの看病を始める

 風邪だろうか

 氷で額を冷やしてやれば良いのだろうが、
 今までの流れから察するに氷を買いに行く事を許しては貰えないだろう


 仕方がない

 近くにあったタオルを手に取ると、
 水差しの水でそれを、ぐっしょりと湿らせる




「…ほら、身体拭くから」

「えっ…そ、それはちょっと…」

「恥ずかしがってる場合じゃないだろ
 全身汗だらけなんだから拭かないと」


 寝間着の上から触れても彼が汗ばんでるのがわかる

 彼の緊張を解す為に、
 まずは服の上から優しくその身体に触れた



「痛い所とかは?
 熱が出ると関節が痛む事があるけど…」


 まずは頬に触れて
 それからゆっくりと下へと手を下ろして行く

 首筋、肩、胸…

 脇腹の辺りに手を滑らせると、
 微かな声を上げてメルキゼが身を捩らせる



「くすぐったかったか?」

「…うん」

「よしよし、感じやすくて実に結構」


 敏感な恋人の身体を前に、
 悪戯心がふつふつと湧き上がって来るカーマイン

 看病に託けて少しくらいなら触っても良いだろうという気になってくる



「…大丈夫か…?」


 汗の浮いた彼の額に優しく触れて、
 頬に張り付いた髪の毛を払ってやる

 …が、もう片方の空いた手は、
 こっそりと彼の股間へと伸ばす


 恥ずかしがり屋な恋人の、
 オーバーリアクションを期待しての行為だ

 軽くそこに触れるだけで、
 きっと彼は飛び上がって大騒ぎをしてくれるだろう

 真っ赤になって取り乱す彼を想像しながら、
 笑いを噛み殺しつつ、そっとメルキゼ自身に手を重ねた―――…





「うをっ!?」


 次の瞬間、薄暗い寝室に響いた声は、
 他ならぬカーマインのものだった

 手に触れたメルキゼ自身は、
 カーマインが驚くほどの反応を示してた

 思わずメルキゼの方に視線を向けるカーマイン


「……えーっと…メルキゼ?」

「だ、だ、だから、身体が熱いって、さっきから…」


「そっちの意味かよ!!
 熱出すのか欲情するのか、どっちかにしろよ!!」

「そ、そう言われても…っ…!!
 何だか急に胸がドキドキして、
 気が付いたら身体がこんな事に――…」


「マタタビ酒飲んで興奮って、
 お前それじゃ本物の猫じゃないか!!」

「ふええええ…」



 真っ赤に茹で上がった顔を両手で覆いながら、
 恥ずかしそうに身を捩るメルキゼ

 …が、その股間は見事なまでに天を仰いでいる

 顔よりもこっちを隠した方が良いのでは…と、
 思わなくもないが、これはこれで面白いので放っておく



「あぁぁ…は、恥ずかしい…っ!!
 もう熱で眩暈がしてきたぁ…っ!!」

「……と、とりあえず…冷やすか?」


 せっかく濡らしたのだから、
 このタオルを使わなければ勿体無い

 冷やしてやろうとタオルを広げるが、ここで一瞬悩む
 顔と股間、どっちを冷やしてやるべきだろうか――…


 ………。
 やっぱりここは、目の前のテントを鎮めてやるべきだろう

 カーマインはそう結論付けると、
 その股間に濡れたタオルを被せた

 寝間着の布地にタオルの水分が染み込んで行く




「ひぃええええええっ!?
 か、カーマイン…な、何するのっ!?」

「いや、冷やしてやろうかと…」

「股間がぐっしょりじゃないかぁ…
 お漏らしみたいで、余計に恥ずかしいよ…」


「ははは…悪い悪い
 じゃあ額の方を冷やしてやろうか――…」

「うわあああああっ!!
 股間に乗せていたタオルを顔に乗せないでぇっ!!」

「…お前…本当に焦ると面白いよな…」


 顔と股間を交互に押さえながら、
 わたわたと取り乱すメルキゼ

 そして、それを面白そうに眺めるカーマイン



「…元気だな」

 一向に衰えない股間を眺めながら、
 カーマインはしみじみと呟く


「これってやっぱり、マタタビの影響?
 精力増強の効果もあるって聞いたけど…」

「し、知らないよ…」


「まあ…とりあえず元気になるって事は確かみたいだな」

「み…見ないで…
 今、鎮めてくるから…」


 股間を両手で押さえたまま、
 前屈み状態で起き上がるメルキゼ

 そのままトイレに向かおうとする彼をカーマインは引き止める






「まぁまぁ、待てって」

「うわっ…な、何するのっ!?」


「いや、やっぱりここは俺の出番だろ?
 こういう時こそ恋人としての本領発揮じゃないか」

「……気持ちだけ受け取っておくよ」



「いやいや遠慮しないで
 俺とお前の仲じゃないか」

「遠慮じゃないから!!
 一人でするから良いの!!」


「んー…まぁ、それも面白いかもな」

「……へっ?」


「じゃあ俺、見物してるから
 頑張って励んでくれ」

「えええええええええええっ!?」


 両手で頬を押さえたまま、
 引き攣った表情で硬直するメルキゼ

 そんな彼をベッドに座らせると、
 その傍らに自らも腰を掛けて傍観モードに入るカーマイン




「…か、か、カーマイン…
 流石にそれはちょっと…」

「うん?
 何か問題あるか?」


「問題だらけだよ!!
 そんな恥ずかしい事出来ないし!!
 そもそも、私の方だって色々と準備が…」

「ああ…準備ね
 ほら、ティッシュ」

「うん、ありがとう――…じゃなくて!!
 心の準備が必要なんだよ!!」


「いやぁ…でかいなぁ…
 お前の股間のジャンボフランク…」

「私の話、聞いてぇぇぇぇ…っ!!」


 ティッシュの箱を抱えたまま、
 がっくりと項垂れるメルキゼ

 それでも相変わらず元気な己の股間が恨めしい




「ふふふっ…じゃあ、どうしようか?」

「……寝るよ……」


「その股間のまま?」

「………うん」


「………。」

「……………。」


 じ――――…


 カーマインの視線を感じる
 目が合うと、満面の笑みが返ってきた

 これは明らかに楽しんでいる
 ついでに監視もしている


 …メルキゼの我慢が限界に達するのを待っているらしい

 この視線の中で眠るのも難しいし、
 何よりも居心地が悪過ぎる




「………わかったよ……
 カーマインにお願いするから、そんなに見ないでくれ…」

「おっ…妙に早く折れたな」

「このままじゃ落ち着いて眠ることも出来ないから」


「よしよし、良い心がけだ
 じゃあ大サービスで、俺の口で――…」

「い、いや、それはダメ!!
 手で充分だからっ!!」


「じゃあ、せめて視覚的効果で、
 飛び切り大サービスのオカズを…」

「な、何をする気…?」

「とあるエロゲーで習得した、
 男を誘う悩殺ポーズを炸裂させようかと――…
 まぁ、見てからのお楽しみって事で」



 世間一般的な日本男児の好みと、
 この独創的な猫耳男の好みが一致するとは限らないが…

 とりあえず何種類かやれば、
 その内の一つくらいはツボる事もあるだろう


 幸い、エロゲーやエロ漫画のおかげでそういう知識は豊富だ

 この知識は自分で描く同人誌の資料として覚えていたものであって、
 まさか自分自身がこのポーズをする事になるとは夢にも思っていなかったが





「視覚的効果で軽く興奮しておいた方が楽しめるだろ?
 ええと…じゃあ、そういう事で、とりあえず脱ぐからな」


 シャツを捲り上げて、
 ズボンに手を掛ける

 すると目の前の大男は盛大な血飛沫を上げてひっくり返った


「……おい…メルキゼ……
 この程度で鼻血を噴射させてどうするんだ」

「だだだ、だだ、だって、だってぇ…っ!!
 無理だよ、私には刺激が強過ぎて…っ!!」


「…頼むから、興奮する前に
 出血多量で貧血起こすのは勘弁してくれよ…?」

「……じ、自信が…無い……」



 既にふらふらと目を回しているメルキゼを前に、
 かなりの不安が脳裏に過ぎる

 …が、ここまで来たら最後まで突っ走ってしまいたい


 自分の魅力で、そして技術で恋人をイかせるというのは、
 男にとってかなり重要なステイタスなのだ

 自分の自信にも繋がるし、
 何よりメルキゼとの関係が深まるのが嬉しい




「…えーっと…じゃあ、気を取り直して…」


 軽く身を捩って、髪を掻きあげる
 潤んだ上目遣いの視線を送って、セクシーポーズ

 メルキゼが自分の何処に魅力を感じているのか今一つわからないが、
 これで運良く自分に興奮してくれれば万々歳だ

 むしろ、そのまま押し倒して来てくれれば嬉しい悲鳴である


「…まだ刺激が足りないかな
 じゃあ今度は少し大胆にM字開脚――…」



 流石にちょっと恥ずかしい

 頬が熱くなるのを感じながら軽く足を開くと、
 カーマインはメルキゼの方に視線を送る


「…ど、どうだ?
 俺の事見てて、少しは――…」

「きゃーきゃー!!
 恥ずかしいっ!!
 こんなの見られないよっ…!!」

「…………。」


 両手で顔を覆って、
 悶絶しているメルキゼの姿が視界に飛び込んできた

 ……全然こっちを見ちゃいねぇ



「…おい…見ろよ…」

「だ、だって…恥ずかしいっ…!!」


「恋人の身体くらい見れなくてどうするんだ」

「うぅ…だ、だって…
 私には刺激が強い…」


「そんなの慣れだって
 それに良く見てみろよ、
 所詮俺の身体だし、大した事無いぞ?」

「……うぅ……」


 メルキゼが恐る恐る顔を上げる
 そして、ちらりとカーマインに視線を向けた




「……………。」

「……ほ、ほら、大丈夫だろ?」


「………………。」

「こ、こんなんじゃ刺激が足りないか?
 じゃあ大サービスで、必殺・女豹のポーズ――…」

「―――――…。」


 ぱた


 突然メルキゼが倒れる

 股間を押さえたまま顔面からベッドに突っ伏すその姿は間抜けだが、
 次の瞬間、白いシーツに赤い染みが広がり始める

 一気に光景はバイオレンスな物に豹変した
 まるでお昼の二時間サスペンスドラマの1コマだ




「お、おいっ!?
 大丈夫かっ!?」

 彼の肩に手を置いてみると、
 その身体がビクビクと痙攣している

 ショックでひき付けでも起こしたのだろうか


「…うぅ…っく…」

「め、メルキゼ…?」

「…………。」


 不意にメルキゼの身体が静止する

 そして次の瞬間、
 ぐったりとその全身から力が抜けて行く



「……め、メル……?」

「……………ごめん……」


「…は?」

「…………で、出ちゃった……」

「………………。」


 むわ〜ん


 独特の香りが漂う

 恥ずかしそうに頬を赤く染めるメルキゼの顔は、
 流れる鼻血でトマトパスタのようになっていた





「……おい…メルキゼ……」

「な、な、何…?」


「早ぇよ!!
 まだ俺、お前に指一本触れてないじゃないかっ!!」

「だ、だ、だって…だって、
 カーマインが凄いポーズ取るから…っ…!!」


「だからって視覚的効果だけでイくなよ!!
 だああ――…もうっ!!
 上から赤いの下から白いの吹き出しやがって…」

「ちょっ…げ、下品だよカーマインっ!?」



「だって俺の意気込みはどうなるんだ!?
 お前のジャンボフランクを弄びながら、
 散々泣かせて苛め抜いてやろうという欲望が…っ!!」

「な、何て事を企んでるのっ…!?」


「……でも、待てよ…
 今回は作戦を誤ったけど、
 次はもっと慎重に計算高く事を運べば――…」

「さ、さ、更に何を企んで…!?」


「マタタビ酒の効果は確かなんだから、
 飲ませるタイミングとベッドに向かわせるタイミングを――…」

「あ、あの…カーマイン…?
 何だかさっきから不吉な単語が…」


「ああ…ごめん、何でもないんだ
 俺、ちょっとやる事が出来たから着替えてて良いぞ」

「………………。」



 妙に上機嫌なカーマイン
 しかしその笑顔には邪悪な何かが漂っていた

 着替えのパンツを握り締めながら、
 言葉に出来ない不安と悪寒をひしひしと感じるメルキゼデク

 野生の勘が『何かがヤバい』と訴えていた




「…ふふふ…メルキゼ、
 待ってろよ…次こそは――…ふふふ…」

「…………怖いよ、カーマイン…」


 思わず数歩下がるメルキゼ

 マタタビ酒のビンを邪悪な笑みで見つめながら、
 何かをブツブツと呟きつつ謎の計算を始めるカーマイン


「…な、何をしているの…?」

「ふっ…大人の恋には駆け引きが必要なんだ」


 それは愛の駆け引きというよりは、
 既に策略の域に入っているのではないかと

 そう突っ込みたくても、怖くてそれが言えない





 爽やかな果実の香り
 舌に滲むほろ苦く甘い蜜

 身も心も熱く酔わせる琥珀色の誘い


 クリスタルグラスに透ける誘惑
 巧みに手繰り寄せられる甘い罠

 笑顔の裏に潜む愛の駆け引き



「…カーマイン…私、禁酒しても良いかな…?」

「駄目、却下
 飲めよ、マタタビ酒」


「……………。」

「明日から夜が楽しくなりそうだな、メルキゼ」


 楽しくない
 決して楽しくない

 というかもう既に誘惑とか罠とか関係ない…


 明日から始まるであろう、
 『俺の酒が飲めないのか』的な夜を想像して
 早くも酔いが回るのを感じるメルキゼだった






自家製のマタタビ酒が良い色に浸かって参りました
というわけで、マタタビ酒を片手に書いたSSにござります

まぁ、マタタビからメルキゼを連想して書いたという、
捻りも何も無い駄文にござりまするが…

もう酔いが回っているせいか、いつも以上に文章がグダグダじゃなぁ…


ちなみにマタタビ酒は精力増強の他に、
冷え性や通風、更年期障害にも効くのじゃよ

別名、万能薬とも呼ばれておりまする

特に女性におススメにござります
かなり苦味があるので蜂蜜やレモンを入れると飲み易くなりまする


大人の読者様は、もし宜しければお試し下さりませ…