「―――…で?
 詳しく説明してもらおうか」


 言わずと知れたディサ国のカイザルの城

 そこに割り当てられたジュンとゴールドの部屋には、
 ピリピリと張り詰めた空気が漂っていた


「…そんなに怖い顔して睨まないで下さい…
 ボクは臆病者ですから、心臓が止まってしまいそうです

「心臓に毛が生えた男が今更何を言うか
 どっちかって言うと、俺の方が心停止しそうだぞ
 ったく…一体何なんだこれは―――…説明しろよ!?」

 バシッ、とジュンは手の物を床に叩きつける
 そして噛み付くような勢いでゴールドを睨み上げた



「いや、ですから――…
 ジュンは鞭もロウソクも縄も玩具も嫌だって言うじゃないですか」

「俺はノーマル趣向だからな
 縛られたり痛めつけられたりして喜ぶ趣味は無い」

「だから、痛くない類のプレイをしようとしているんじゃないですか」

「お前なぁ…それ、本気で言ってるのか?」


「ええ、だって痛くないでしょう」

「―――…これがか!?」




 ジュンは先程投げつけた『これ』を拾い上げると、
 ゴールドの鼻先に突きつけた

 濃紺の布地に金色のボタンが輝く
 それは何処から見ても『学ラン』だった


「怪我もしないですし、全然痛くないでしょう?」

「視覚的に痛いっての!!
 俺、もう二十歳だぞ!?
 学ランは高校と一緒に卒業したんだ!!」

 もう学生服がコスプレになる年齢だ


 実年齢に比べて若く見える容姿ならまだ救いがあるかも知れない
 しかしジュンは特に童顔というわけでもなかった


 自分が学ランを着るのは、あまりにも痛過ぎる





「コスチュームプレイ、一度試してみたかったのですよ
 セーラー服と迷ったのですが、学ランの方が抵抗無いかと思って
 まぁ、せっかく買ってきたのですから一度くらい着て楽しみましょう」

「まぁ、確かにセーラー服よりは――…って、ちょっと待て!!
 まさか…まさか、お前も学ラン着たりするんじゃないだろうな!?」

 四十路間近の親父の学ラン姿
 いくら見た目が若いからと言って、痛過ぎるにも程がある


「大丈夫ですよ、いくら何でもそこまで無謀じゃないです…ボク用の衣装はこれです」

 ゴールドが何処からか取り出したのは純白の衣類だった

 あぁ、これ見た事ある
 誰だって一度は目にした事があるだろう

「…白衣、か…」

 ナース服じゃなくて良かった、と安心するべきだろうか
 それとも『お前が着たらシャレにならない』と突っ込むべきだろうか



「…というかお前さ…学ランと白衣で一体何がしたいんだ?」

「具合の悪い生徒と、それを看病する保険医――…という設定で良いですか?」

「………は?」


「やっぱり設定が必要でしょう?
 そうですね…ボクはジュンの事、『ジュン君』って呼びます
 だからジュンはボクの事を『先生』って呼んで下さいね?」


 ………。

 ………おい、エロオヤジ……




 冗談は性格だけにしておいてほしいんだけど
 でもこれ、やっぱり本気で言ってるんだよな――…

 というか、もうこのプレイで行く事が決定稿なんだな?
 俺には拒否権も逃亡権も無いんだな!?


 下手に抵抗しようものなら更に目も当てられないようなオチになるんだよな!?





「はい、着替えて下さいね」

「……仕方ないな……一回だけだぞ?」

「ふふふ…ジュンは優しいですね」

 優しいんじゃなくて、単に諦め早いだけじゃないかと思う
 現に『仕方が無い』が俺の中の口癖になりつつある今日この頃


「じゃあ、ボクも着替えますね」

「――…って、その背広とネクタイも買ったのか?」

「ええ、白衣の下は背広でしょう?
 保険医も学校勤めですし――…重要アイテムのメガネも用意しました」

 …メガネって…重要アイテムなのか…?

 たった一晩の為に、わざわざここまで買い揃えるのが凄いな
 って言うか背広は日常的に着てくれても一向に構わないんだけど



「ジュン用に、もうひとつメガネ用意しましたけど…使いますか?
 優等生――…真面目な生徒会長に手を出す保険医という設定もいいですね」

「いや、絶対良くないって
 怪我や病気を治す保険医自ら生徒襲ってどうすんだ
 逆に怪我人増やしてんじゃないかよ」


 そんな保険医、嫌だ




「小さな事は気にしないで下さい」

 いや、小さくないから
 俺の身の安全にかかわってるから!!

「なぁ、具体的に俺って何されるわけ?」

「具体的に聞きたいのですか?
 そうですね…まず、ズボンを脱がせます
 上は学ラン、下は白ソックス――…完璧です」


 何が!?



「って言うか脱がせるなら着る意味無いんじゃ!?」

「ツウじゃないですね…
 脱がせる過程も重要な萌えポイントなのです
 少し怯えがちに『先生、止めて下さい…』って恥らう姿がね
 ちなみに白ソックスは最後まで脱がさないのがポイントなのですよ」


 そんなポイント教えられても困る

 それより何故、ソックスの色を『白』に固定するのだろう?
 別に赤でも紺でも良いじゃないか――…


「包帯も色々と応用性のあるアイテムですよね
 それに『消毒液』とか『軟膏』という響きにも何かイケナイものも感じません?」


 感じません



 それに包帯をお前は一体どう使うつもりなんだ
 まさか全身にぐるぐる巻きつけて『ミイラ男』とか捨て身のボケをやるつもりか?

「学生服に『縛り』とかも、マニアには堪りませんね
 両手を縛り上げて保健室のベッドに固定してみたいものです」

 …ぐるぐるにされるのは俺の方か…
 いや、そんな事される前に反撃するけどさ




「…そんなに警戒しなくていいですよ
 今日は痛い事、するつもり無いですから」

 なぁ、頼むから気付いてくれ
 今のこの現状そのものが既に痛いんだよ!!

 お前はまだ白衣とスーツだから良いよ?
 でもな…俺はこの歳で学ラン着なきゃならないんだぞ!?

 しかも、ただ着るだけじゃ済まされないんだぞ!?
 お前にこの惨めさがわかるか―――…!?


 …と、心の中で叫ぶ俺
 当然ながら口に出して言う勇気は無い

 小心な俺は、しぶしぶ学ランの袖に腕を通すのだった




 …さて、というわけで俺は律儀に着替えたわけなんだが――…
 着替えた直後で悪いが、速攻で逃げ出したい衝動に駆られている


 白衣に着替えたゴールドの膝の上
 そこに、ちょこんと置かれた木製の箱

 そこにはでっかく『お医者さんごっこセット』の文字


 色々と突っ込みたい所は山ほどあるけど、
 そんなヒマがあるんなら、さっさとこの場から逃げ出した方が賢明かも知れない

 でも、逃げたら逃げたで後が怖いし――…



「さあ…いらっしゃい、ジュン君」

 何か、満面の笑顔で手招きされてるし

 これってアレか?
 白衣の悪魔って奴

「ふふふ…さあジュン君、
 痛い所は何処ですか…?」

 お前の頭
 …とか言っちゃ駄目なんだろうな…やっぱり




「な、なぁゴールド…」

「ゴールド、じゃないでしょう?
 ちゃんと『先生』って呼んでくれないと」

 うわ…なりきってるよ
 このノリの良さって、ある意味尊敬に値するよな

 やっぱり俺も便乗するべき――…なんだろうな…


「…せ、先生…」

 うわっ
 実際口に出して言うと、凄く恥ずかしい…!!

 顔が熱くなって来る
 きっと今、耳まで赤くなってるんだろうな…


「ジュン君、顔が赤いですよ?
 熱があるみたいですね…ベッドに横になりなさい」

 有無を言わさぬ命令口調

 いつもなら『横になりますか?』とか『横になってくださいね』って言う筈なのに
 何だか珍しいもの聞いたな…この口調って、やっぱり先生だからだよな…


「さあ、どうぞ」

「…はい…」

 使い慣れたベッド
 その筈なのに、横になるだけで妙に緊張する

 この部屋そのものが保健室のような気がしてきて――…あぁ、俺もそろそろヤバいかな


「じゃあ熱を測りましょう
 下を脱いで、うつ伏せになって」

「…は?」

 普通、脱ぐのは上じゃないのか?
 そもそも別に脱がなくても測れるものだし――…

 しかも何で、うつ伏せ?
 座ってても測れるだろうに



「えっと…?」

「腰の下に枕を当てて…
 脚を開いて、力を抜いて下さいね」

「――――…!!」

 やっと理解

「おい…そう来るか!?
 そんな所に挿れなくても、脇とか口とか…他にあるだろ!?」

「いいから大人しく先生の言う事を聞きなさい
 反抗的な生徒には、もっと太くて大きなものでお仕置きしますよ」

「―――…☆」


 ゴールドの本業が戦士で本当に良かった
 こんな保険医が存在したら、速攻で転校するぞ俺は

 でもまぁ…本人も痛い事はしないって言ってるし
 機嫌損ねさせて『お仕置き』されるのも怖いし

 素直に言う事聞いておいた方が最終的には身の為になるんだよな…


「…わかった」

「良い子ですね」

 途端に上機嫌になった保険医のゴールド
 下手くそな鼻歌なんか歌いながら体温計に軟膏を塗っている

 …本っ当―――…に、楽しそうだな、お前…

 もう、俺も開き直って楽しんだ方が利口だな
 楽しめるのかどうかは別として――…





「ほら、これで良いか?」

「もう少し脚を開いて…はい、その位で良いですよ
 それでは挿れますから、力を抜いておいて下さいね?」

「ああ…わかってるって―――…っく…!!」


 ぬるりと滑り込んでくる感触
 その冷たさに身体が竦み上がる

 圧迫感は無いけど…
 身体の内側から冷やされて行くようで不快だ



「…ぅ…っ…」

「痛くないですか?」

「……別に…っ…あ、あまり動かすな…っ!!」


 細いし痛いということは無い

 どちらかと言うと、途中で折れたらという緊張感の方が強い
 だから、次第に動きを増してくるゴールドの手が気になった



「…かっ…かき回すな…っ……もう充分だろ…」

「ふふふ…そうですか?
 ああ、微熱があるようですね
 それに少し息も上がっているみたいです」

 体温計を引き抜くと、ゴールドはわざとらしく驚いてみせる

 こんな身体にしたのはお前だ
 そう言ってやりたくてゴールドを睨み付けると、意地悪そうな笑みが返ってきた


「…感じてしまいましたね?
 こんなもので身体を熱くさせてしまうなんて…悪い子です」

 ゴールドは猫のように舌を出すと体温計を舐め上げた

 赤い舌先がねっとりと絡み付く
 見せ付けるように、意図的にゆっくりと



「…ジュン君の味がしますね」

「ばっ…馬鹿…!!
 そんな事するな…」

「ふふふ…でも、一瞬ドキッとしたでしょう?
 身体が反応してしまったのではないですか?」

 ゴールドの手が腰に回される
 指先が下腹部を弄った



「…っ…ぁ……」

「ほら、こんなにさせて…恥ずかしい子ですね、ジュン君は
 あんな細いものでは貴方の体は物足りなかったのでしょう?
 もっと太いもので壊れるくらいに貫かれたい――…そう思いませんか?」

「…っく…で、でも…
 痛いのは…嫌だ…っ…」

「大丈夫ですよ
 痛い思いなんて、させませんから」


 それ、いつも言われてる気がする
 そして毎回、裏切られるんだよな…

 わかってる
 わかってるんだ――…そのくらい


 でも――…




「ジュン君…貴方が欲しいです」

 この声に弱いんだ
 少し気弱な、雨に濡れた捨て猫みたいな視線にも弱い

「…ん…俺も…先生の、欲しい…」

 そう言った途端、背後から抱き付かれた
 覆い被さって来た――…って言った方が正しいかも知れない


 でも…なぁ…
 保険医に襲われる生徒か…

 小説や漫画でしか知らない世界だけど、
 まさか自分が体験する事になるなんて思わなかった

 ゴールドも妙にノリが良いし、何だか別人みたいだな
 メガネ姿は何度か見たことがあるけど…スーツとか白衣とかは新鮮だ

 普段、ゆったりした服が多いからかも知れないけど、
 きっちりとネクタイを締めている姿は妙に凛々しくて格好良い



 …たまになら――…
 本当に、気が向いたときになら…こういうのも悪くないかな…

 出来れば今度は、俺も学ランじゃなくて背広を着て
 客観的に見たら新入社員と上司…みたいになるのかな

 そんな姿を想像して、思わず顔が綻ぶ
 それはそれで何となく楽しそうだ


 俺は笑みを浮かべながらゴールドの――…先生の肩に腕を回した





 以前から一度書いてみたかった禁断の保険医×生徒モノ
 学園モノは設定を一から考えるのが面倒なんで、安易にコスプレにござる

 毎度の事ながら、最終的にはゴールドに感化されておりまするな、ジュンよ…
 その諦め早いというか流されやすい性格で、いつか本当に身を滅ぼしそうにござりまする

 そしてゴールドよ…お主、変態を極めつつあるのぅ
 こんな事をして―――…恥ずかしい男じゃな…ふふふ

 …って、恥ずかしいのはこんなモノ書いておる拙者の方じゃあ!!


 いや、でも、不完全燃焼にござりまする
 本当はもっと書きたいネタがたくさんあったのじゃよ

 消毒液とか、脱脂綿とか、包帯とか!!
 ピンセットとか、綿棒とか、座薬(!?)とか!!

 色々使えそうな『お医者さんごっこセット』をフル活用したかったのじゃよ!!
 使用アイテムが体温計だけでは物足りぬのじゃあ!!

 じゃが、あまりにも書きたいネタが多すぎて、
 脳内の妄想を整理するのに時間が掛かりそうじゃったから…


 というわけで、続きまするよ