「―――…っ…!!」



 突然眩しい光に襲われ、
 火波は両手で顔を覆う

 気持ちよく寝ていた所に、予想だにしない不意打ち攻撃
 苦手な日差しの直撃を受けて微かな悲鳴が漏れた


 少し間を置いて、少年の声



「む…すまぬ」

「……シェル……」


 恨みがましく睨み上げると、
 少年は両手を合わせてもう一度謝罪に言葉を口にした


 今日は風が強いらしい

 シェルが微かに窓を開いた瞬間、
 盛大に吹き抜けた風が部屋のカーテンを大きくはためかせた

 その時の日差しが火波の顔にかかったようだ




「……窓、閉めるぞ……」


 フラフラと起き上がると、
 窓に手を伸ばそうとする

 その瞬間、再び強い風が室内を駆け巡った


「――――…っ…!!!」

 ふわりと捲れ上がったカーテンが火波の頭に掛かる

 降り注ぐ朝の日差しに、火波は眩しそうに目を細めた
 寝間着として愛用しているガウンから覗く肌は日差しに透けそうなほど白い




  




「…やはり、苦手なのじゃなぁ…」

「吸血鬼という種族柄、仕方が無いんだ」


 今はシェルのライフスタイルに合わせてくれているものの、
 基本的に夜行性である火波

 太陽と十字架、そして大蒜や聖水などは大の苦手だ


 …そういえば

 ふとシェルは疑問に思う
 苦手といいながらも、火波は結構日差しを浴びているではないか、と

 考えてみれば日中もかなり出歩いているし、
 趣味の磯釣りに至っては日除けの全く無い海で何時間も釣り糸を垂れている





「…の、のぅ…火波よ
 お主…そんなに日光を浴びて大丈夫なのか…?」

「ああ、苦手なことに変わりは無いが…
 少々力が抜けたり皮膚が赤くなる程度だな」


「……拙者が以前読んだ本では、
 吸血鬼は日光を浴びると身体が灰と化すと書いてあったのじゃが…」

「そ、そうなのか!?
 わしは…そこまでのダメージは受けないが…」

「お主には何か特殊な要素でもあるのかのぅ?」



 生粋の吸血鬼ではない事が幸いしているのか
 それともアンデットにしては珍しい火属性の持ち主であるからか

 普通の吸血鬼とは勝手が違うらしい



「まぁ…わしには必策があるからな」

「えっ…そ、そんなものがあるのか!?」


 吸血鬼が日差しを浴びても安全な策とは一体何なのだろう

 どうやらシェルの知らないところで、
 密かに何かの呪いか儀式が行われているらしい


 処女の血を全身に浴びるのか
 蝙蝠や狼の心臓を丸飲みにするのか

 好奇心旺盛な少年は興味を引かれる




「い、一体何をしておるのじゃ!?
 拙者にも教えておくれ…!!」

「ふっ…まぁ、良いだろう
 お前との仲だからな、特別だ」


 そう言うと火波は道具袋から小さな容器を取り出す
 これが日差しを遮断する儀式に必要な道具なのか


 一体どう使うのだろう

 中に心臓が詰め込まれているのか
 それとも毎日のように容器を血で満たしているのか

 少し年季の入った容器を受け取るとシェルは興奮気味に訊ねる




「こ、これは…一体―――…!?」


 火波は微かな笑みを浮かべると、
 胸を張って、こう言い放った



日焼け止めクリームだ




 ……………。

 ………………………。



 はぁ!?




「この数値を見ろ、かなり強力なものだ
 最近の技術は凄いぞ、UVカット万歳だ」

「……ほ、火波よ……」

「どうした?」


 どうしたもこうしたも



「雨に濡れても落ちない
 少々肌は荒れるが日差しは完全に遮断できる
 ふっ…我ら吸血鬼一族の未来は明るいな」


 火波はシェルの手から日焼け止めを受け取ると、
 全身にそれを塗りたくり始める

 その光景を呆然と放心状態で見守るシェル





 火波よ…


 それで良いのか!?
 本当にそういう問題なのか!?


 自分の頬がヒクヒクと引き攣ってくるのを感じる
 吸血鬼最大の弱点を、そんなもので本当に防げるのか―――…


 ……。

 …………。


 …まぁ、大丈夫なのだろう
 火波自身が疑問を抱かない限りは



「…よし、今日も完璧だ
 これで太陽の下を堂々と闊歩できる」

「………そ、そう…か……良かったのぅ……」


 日焼け止めを全身に塗って満足げに微笑む火波

 そんな彼を唖然と見つめながら、
 シェルは乾いた笑い声を上げる事しか出来なかった


 今日も、太陽は眩しい






 はい、拍手でリクエストを頂いた『細めた目』にござります
 悔しさでも眩しさでも良いとの事でしたので、日光の眩しさに目を細める火波を描いてみました

 このSSは、イラストを描いていて何となく思い浮かんだものにござります
 イラストを描いていると、実に色々なストーリーが思い浮かぶものじゃのぅ

 イメージとかけ離れていたら申し訳ござりませぬ…orz
 こんな物しか捧げられませぬが、これに懲りず、またリクエストしてやって下さりませ…