電波防護指針とアンテナ近傍電界

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出力200Wの無線機(FTdx-101MP)を増設するに当たり、アンテナの給電点と居室との距離が近いため、人体への電波の影響が気になった。また近隣への電波障害を考える上でも、近傍電磁界を知っておきたい。

1.電波の人体に対する防護指針
電波法施行規則第21条の3、別表第2号3-2によれば、周波数f=3〜30MHzの短波帯においては、電界強度E(空間的平均)の安全基準として、
E<824/f(V/m)(f:MHz)
が示されており、3.5MHz、7MHz、28MHzに対してはそれぞれ、235V/m、117V/m、29.4V/m である。

2.小ループコイルとオシロスコープによる電磁界検出
(1)検出法簡易理論
ループの直径:d(m)、面積S(m2)、巻数:N、周波数:f(Hz)、磁界:H(A/m)、電界:E(V/m) 大気誘電率μ=μ0=4πx10-7(H/m)とし、正弦波のキャリアー電波を用いれば、ループの開放起電力V(絶対値:Volt)は
V=N・S・μ0・dHn/dt=2πf・N・S・μ0・Hn
Hnはループ面に対して直角な成分を表し、実効値(rms)はこの1/√2である。
近傍界の特性インピーダンスは、Z0(377Ω)とは幾分異なるとされるが、この値を使う。そうすると
E=Z0・Hであり、更にZ0=√(μ00)、波長λ、波数k=2π/λによって、上の式は、
V=k・N・S・Et=2π/λ・N・S・Et
これから、
Et=V/(2π/λ・N・S)
Etはループ面に平行な成分を表す。

(2)検出用ループコイル
検出用ループコイルは、使い切ったセロテープの紙巻き芯(φ82 x 12W)に、φ1mmのエナメル被覆銅線を3回巻いた。磁界の検出コイルなので紙巻き芯の問題はない。コイルの
N・S=1.623e-2(m2)である。


コイルとオシロスコープの写真(スタンドは音場測定用マイクのもの)

(3)実測:周波数7.1MHz、キャリアー出力5W
写真のコイルを机上(X≒5m、Y≒3m、Z≒1.5m)で、コイル面がX、Y、Z の方向を向く様に置く。各々の方向毎に7.1MHz、5Wのキャリヤー(FMモード)をアンテナに入力し、直ちにオシロスコープのワンショットモードでループの開放電圧Vを測定した。オシロの振幅を正確に測ることのできる画面上のカーソルによって、測定された電圧の振幅を計測した。
X、Y、Z方向に向けたコイルから得られた電圧の実効値はそれぞれ、Vrms=18.53mV、14.42mV、9.19mVであった。
これらの電圧から、Y-Z面内、Z-X面内、及びX-Y面内それぞれの電界強度(これらをEyz、Ezx、Exyと表記する)の実効値が得られ、Eyz、Ezx、Exyは、それぞれ、7.68V/m、5.97V/m、3.81V/m であった。
全電界強度Eは、これらを合成して、
E=√(Eyz2+Ezx2+Exy2)=10.5V/m

(4)アンテナ・シミュレーション・ソフトウエア(4Nec2)による近傍電磁界計算
線状アンテナの近傍電磁界(r<λ/2π)を直接計算する数式は、教科書には記載されておらず、微少ダイポールの電磁界を表す式を積分しなければ解を得る事はできない。(10数年ぶりで計算プログラムを書き始めたのだが、FortranもVC++もVBも文法を殆ど忘れてしまって作業が捗らない。途中で4Nec2が近傍電磁界をも計算できることに気付いた)。アンテナの入力インピーダンス、利得、遠方電界指向性分布などのシミュレーター4Nec2は近傍電磁界のシミュレーションも可能である。
そこで早速、上記の実測と比較すべく試みたのが下図である。


近傍電界強度(アンテナ入力5W)

机上位置(X≒5、Y≒3、Z≒1.5)における電界強度は10V/m程度であり、見事に実験と一致した。
また、この電界分布図から以下のことが分かる。即ち、近傍電磁界が強いのは電流の腹になる給電部附近ではなく、電流がゼロになる端部周囲であることである。これは微少ダイポールの場合と同じで、給電点からの距離の3乗に反比例して減少する端部の電荷による静電界が支配的であることを示している。


序でに、上図に入力100Wの場合を示す。

E=50V/m程度であり、ほぼ入力電力比の平方根倍(√(100W/5W)=4.47)である。これから200Wの場合は70V/m程度と推定できる。またX,Y=20mになれば、100Wの入力で1.5V/mであり、従って200Wなら2V/m程度と知れる。
以上から当局のアンテナへ200Wを入力しても、人体への電界暴露値は自身のシャック内で防護指針(電波法施行規則)基準の60%、20m以上離れた近隣では2%未満であり安全である。

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