コモン・モード チョークの挿入損失(NanoVNA-F V2 及び TinySAによる測定の比較)
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A. NanoVNA用測定治具
トロイダルコアの巻き線、或いはアンテナ給電線として、両端にM型接栓をつけた同軸線が使われている場合、コモン・モードの挿入損失を測るためには、同軸両端の芯線と外被線とを短絡する必要がある。この短絡したM型接栓とNanoVNAのSMAポート端子とを接続するため、Fig.1の結線図とFig.2の写真からなるM-SMA接栓変換ボックスを製作した。TinySAによる計測の場合にもこの変換ボックスを用いる。
S1とS2はM接栓の外被線を芯線と短絡するか、又はMSAのアース側へ接続するかの切替スイッチである。又、S3はTinySAを用いる時にSMA-P1及びSMA-P2のアース端子間を短絡する為に用いる。
なお、NanoVNAの校正は、付属の青いセミリジッド同軸線先端のMSA端子面である。

Fig.1 M-SMA変換Box回路図

Fig.2 M-SMA接栓の変換ボックス
以下の測定で用いる2種のコモン・モード チョークはD無線(株)が販売するキット製品である。
B. コモン・モード チョークの挿入損失
1. NanoVNA-F V2による測定
1)同軸線2.5DQED 13回巻きトロイダル・コア
星和電機製トロイダル・コア(27φx40φx15t:E04RJ402715)を2段重ねにして、同軸ケーブル(2.5DQEV)を13回巻いたコモン・モード チョークの50kHz〜50MHzまでの挿入損失特性(S21)をNanoVNA-F V2によって測定した。

Fig.3 測定中のNanoVNA及びロイダル・コア/同軸線コモン・モード チョーク
2)ACライン用コモン・モード チョーク
星和電機製クランプ・コア(19φx40φx38L:E04SR-401938)にAC平行コードを7回巻いたACライン用コモン・モード チョークについても1)と同様の特性を測った。

Fig.4 測定中のクランプ・コア/ACコード コモン・モード チョーク
被測定物を変換ボックスのMコネクタに接続する為に用いたClip-RCA-BNC-M変換具ペアーに注意。ACライン・コモン・モード チョークの伝送損失には、この変換具の損失が含まれる事になる。
2.スペアナ(TinySA)及び信号発生器(SG:FY6900)による測定
SGの出力には10dBのアッテネーターを挿入し、SG単独での出力電力ができるだけ0dBmに近くなるように、SGの出力を調整し、50kHz〜5MHzの周波数を120秒でSweepした。信号波形は正弦波である。10dBのアッテネータ後のTinySAの入力電力が0dBm(1mW)となるSGの出力電圧(波高値)は、計算上は4.0Vであるが、実際のSG指示値は3.85Vであった。この原因を探るため、使用した10dBの固定アッテネーターをNanoVNAで測定した所、50kHzでは0.0212dB(1.05倍)減衰量が不足していた。これにより、SGの出力電圧波高値は4.0/1.05=3.85Vとなり、実際と正確に一致した。
TinySAのサンプリング点は、NanoVNAと同じ101ポイントとした。
下図が測定中の様子である。

Fig.5 TinySAとSGによる同時線/クランプ・コアの計測
3.測定定結果
1)NanoVNAを用いた場合
NanoVNAの測定結果であるSパラメータはTouchstone format(s1p,s2pなど)のテキスト ファイルとして保存されているので、Excelで容易に読み込むことができる。但し、記録されているのは、測定周波数(Hz)、S11及びS21各々のreal値とimaginary値である。従って周波数をMHzに換算し、S21の絶対値(|S21|)を計算して、そのパワー(20xlog(|S21|))としてdB値に換算した。
TinySAの測定結果も、周波数毎にセミコロンで区切られたテキスト ファイルなので、Excelに読み込むことは容易である。
こうして、NanoVNAとTinySAを用いて測定した2ヶのコモン・モード チョークの挿入損失として下図を得た。
但し、NanoVNAの記録データが小数点以下15桁であるのに比し、TinySAでは5桁である。これが以下のグラフにも反映し、NanoVNAのグラフの方が曲線が滑らかである。

Fig.6 NanoVNAによる測定結果

Fig.7 TinySA及びSGによる測定結果
測定法の違いによる相違は小さいと言えようが、45MHz辺りで見られる減衰量の不連続的な減少は、測定系の不備(特に変換ボックス)が原因であるかも知れない。
TinySAの測定結果では、30〜40MHzの間の変化が小さくなっているが、NanoVNAではその様なことはなく、この原因は分からない。
トロイダル・コア/同軸巻きとクランプ・コア/ACコード巻きの両者の特性が殆ど同じであることが興味を引く。共に5MHz付近でS21(imaginary)が負から正に転じて位相が変わる。ここでは表示しないが、S11を|Z|で見ると並列共振の様に高いインピーダンスになっている。これが、最大損失量を示す所以である。この様に共振(?)が発生するのは、同軸巻き線間、或いはACコード巻き線間に浮遊容量が生じる故であろう。13回巻きの同軸線と7回巻きのACコードを比べると、インダクタンスは前者の方が4倍程大きいであろうが、同時に線間容量も大きく、従って共振周波数が低くなっているのではないか?共振のQも同軸の方が高いであろう。これが共振点付近での両者の挿入損失量の違いとなっているのではないだろうか?
念の為、ACラインフィルターの測定時に、線両端のACプラグ/ソケットをM接栓に接続する為に用いたClip-RCA-BNC-M変換具ペアーの損失量をNanoVNAで測定したところ、25MHzで-1.67dB、49MHzで-4.82dBであった。即ち、ACラインフィルターのNanoVNA測定結果にはこの分が損失量に加わっていると見るべきであり、トロイダル/同軸チョークとACラインフィルターとの損失量の差はFig.6よりも幾分か大きくなる筈である。但し、単なる損失量(dB)の加減算は誤りである。この様な回路の縦続接続の場合には合成Sパラメータを使用しなければならない。それにはS12とS22の値が必要であるが、NanoVNAではS12とS22の測定を行わないので、合成Sパラメータ行列を計算に利用することは不可能である。
C.クランプコアで挟まれた同軸線(3D2V)のコモン・モード伝送損失
クランプ・コアを0,2,4,6個、又は3,6個挟んだ3D2V(長さ80cm)のコモン・モード伝送損失を、NanoVNA及びTinySAによって測定した。測定法及びデータ整理はAと同様である。

Fig.8 NanoVNAによる測定結果

Fig.9 TinySA及びSGによる測定結果
クランプコアを挟まない同軸線だけでも、周波数にほぼ比例する損失が生じている。これは長さ80cmの同軸線が持つインダクタンスのインピーダンスによるのではないだろうか?
測定法による相違は40MHZまでは小さい。40MHzを超えると、NanoVNAでは小さな並列共振が生じている様に見えるが、TinySAではやや強い共振の始まりの様に見える。
これも原因は測定系にあるだろう。M-SMA変換ボックス中の配線のインダクタンスやスイッチ内或いはコネクタ間の容量などが測定の誤差を生んでいると考える。
30MHzを超える高周波の測定はなかなか難しい。電波法で短波と超短波の境を30MHzとしているのは、むべなるかな!である
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