・ ・ ・ ・ ・ … アハ アハハハ … クスクスクス … ほーら、こっちだよぉ … ウフフ、さあ、いらっしゃい はあはあ、待ってよぉ お父さぁん お母さぁん … さあ、頑張れぇ、もう少しだ … 頑張って、あと少しよ はあはあ、はあはあ お父さぁん お母さぁん … よぉし、よくやった、偉いぞ … フフ、ホント凄いわぁ、やっぱり私たちの娘ね はあはあ、えへ、えへへ お父さん お母さん、喜んでくれるぅ? … おう、お父さんはとっても嬉しいぞ … お前はお父さんの自慢の娘だ … フフフ、お母さんもとっても嬉しいわよ … あなたは私たちの大切な娘だわ えへへ、お父さん、お母さん 私ね、お父さんとお母さんがね、大好きだよ … ああ、お父さんもお前が大好きだ … ええ、お母さんもあなたが大好きよ … いつまでもずっと一緒にいよう … いつまでも三人一緒に暮らしましょうね お父さん、お母さん、いつまでも一緒にいようね 私はお父さんとお母さんが大好きだから 大好きだから …… ・ ・ ・ ・ ・ 「――― 起きなさい、NE-510。時間ですよ」 「……うん… もう時間、なんですか」 「ええ、本日は12:00から例の実験があるのよ」 「…そういえば、そう言われてましたね、昨日」 「言ったわ。だから、午前中の日程を早めにこなす事になるの、いいわね」 「……はい」 「では、早く支度を済ませて、いつものところに来て頂戴ね」 「……はい」 「では、先に行っているわよ」 「……あの…博士」 「…うん?なあに、NE-510」 「…その…私は、いつまで続ければいいのでしょうか?…こんなこと」 「そうね。いつまでかしらね」 「……」 「でも、あなたがそんなこと考える必要はないのよ、わかった」 「…で、でも」 「わかったの? わからないの?」 「……はい…わかり…ました」 「よろしい。それじゃあ待っているからね。遅れずに来るのよ」 「……はい」 彼女は私にそう命令だけ残すと、部屋から出てきました。 私は彼女が通った後に閉まる、白くて厚い扉を見ていました。 別にその扉が好きなワケじゃありません。 私はその扉が嫌いでした。 嫌いなのはその扉だけではありません。 この真っ白な実験服も、 そっけないベットも、 部屋の真ん中にあるテーブルと椅子も、 そして、それ以外に何も無いこの白い部屋も、 私は嫌いでした。 機械音と共に壁の一部が開き、替えの実験服と朝の食事が出てきました。 私は服を抱え、朝食のトレイを取ると、それをテーブルの上に運びました。 パン スープ ドリンク サラダ 私はいつもの変らない食事を食べ始めました。 部屋の中にはカチャカチャというプラスチック製の食器の音だけが響きます。 「……不味い」 私は食事が終るとトレイを下げて着替えをします。 プライバシーなんてありません。 部屋の隅にある監視カメラが二十四時間体制で私を監視しています。 私は…そう、実験体なんです。 私は人と同じなのに、普通の女の子でいたいのに。 『普通の人間ですって? うふふ、何を馬鹿なことを言っているの。あなたは人間じゃ ないわ、怪物よ。普通の人間にはそんなチカラはないわ。そんな、怪物のチカラはね 』 …そう、私にはチカラがあるんです。 そんなチカラなんていらなかったのに、 そんなチカラなんて欲しくなかったのに。 「…あっ」 ドサッ テーブルの角につまずいてしまいました。 何にも無い所だから、つまづくのはここしかないんです。 何にも無い所なので、いつもここでつまづくんです。 「……痛い」 私は床に倒れたまま、身体の痛みを感じています。 そして、痛い時には泣くようにしているんです。 「………お父さん……お母さん……うぐ…うぇん…」 痛かったんです。 本当に、痛かっただけですから…。