東鳩SSジン・ジャザム外伝『血塗れの福音・白の章』 投稿者:ジン・ジャザム
 幾星霜の刻が流れたか……。
 妾はついに主に巡り会えた。
 主にとっては、ほんの十数年前の出来事じゃろう?
 それでも妾を憎み、焦がれるには充分な歳月か。
 ……だがな、ジン。
 妾はな、主が妾に焦がれるさらにその前。
 幾億の夜を遡った夜。
 この世の始まりの始まり、それよりもなお遠い夜から主に焦がれ続けてきた
のじゃ……。
 そして今、ようやく妾は主を手に入れることができる。
 幾度となく夢見た快楽を、今こそこの手に。
 さあ……犯してやろう。
 主の肉も、骨も、血も、そしてその魂の一片までも。
 最高の苦痛と快楽を、惜しむことなく与えてやる。
 ゆるり、ゆるりと。
 だから、主も妾を犯しておくれ。
 その憎悪に燃ゆる命の炎で。
 妾と主を焼き尽くすほどに激しく。
 ……憎み、奪い合うこと。
 それが真の愛であるとは思わぬか……?


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 〜東鳩SSジン・ジャザム外伝〜

                 血

               塗 れ の

                 福

                 音


                  著 ジン・ジャザム
                  原作(『東鳩SS』) 風見ひなた

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              ――白の章――


 逢魔が刻。
 総てが紅に染まる、禍禍しくも美しい刻。
 廃ビルの屋上からジンは、血染めの街を見下ろしていた。
 血のような紅に染まり、瞳を金色に輝かせるその姿はまさに戦鬼を思わせる。
 戦鬼はさらなる紅を求めていた。
 己の仇、白い化物の流す血の紅を。
 その白い化物を追いかけ……この街に辿り着いた。
 柏木家を出て、数日の時が流れている。
「奴め……『追ってこい』ということか。」
 ジンが呟いた。
 白い化物はその邪気をまったく隠すことがなく、ジンにとって白い化物をこ
こまで追跡することは容易であった。
 邪気を抑えれば、気配をほとんど零にすることが出来るのにも関わらず、だ。
「俺を……嘗めていやがるな。」
 ジンが凄惨に笑う。
「待っていろ……俺を嘗めたことを後悔させてやる。貴様の躰を八つ裂きにし
てやることでな……!」
 ジンの腹の底からドス黒い歓喜が湧き起こる。
 それを訓練された精神で抑え込み、冷静さを取り戻す。
 そして、ジンは再び化物の気配を探った。
 ……この街のどこかに潜んでいることは間違いない。
 だが、その気配は不定形で曖昧だ。
 ジンは自分が白い化物にとことん、からかわれていることを知った。
「ふざけやがって……俺とかくれんぼでもしようってか?」
 そのとき。
「!?」
 ジンの意識が僅かに化物の反応を捕らえた。
「そこか!?」
 ジンは一気にビルから飛び降りる。
 そして、そのまま別の建物の屋上に舞い降り、さらに次の建物に飛び移る。
 やがてジンは街の中へと消えていった。 


 ――数刻前
    屋敷の庭――

『……器。』

「えっ……?」
 何かの声を聞いた気がして、少女は立ち止まった。
 一陣の風が吹く。
 少女の美しい黒髪が風になびいた。
 少女は髪を軽く手で押さえ、声の行方を探すように、ずっと遠くを見つめた。
 夕陽に照らされた少女はどこか儚げで美しい。
「どうなさいました、遊輝(ゆき)様? 早く中に入りませんと、身体に毒で
すよ?」
 急に立ち止まった少女……遊輝に、若い使用人は声をかけた。
 その呼びかけに少女は我に返る。
「えっ……あ、ううん。何でもないの。さあ、中に入りましょう。」
 遊輝は笑顔で答える。
 さっきの声は……きっと空耳だろう。
 今日は長く風に当たりすぎた。
 そのせいか、少し微熱が出てきたようだ。
 疲れているのだ。
 遊輝はそう結論づけ、屋敷の方へと歩き出した。
 そのとき。

ぞわっ……!

「!?」
 ほんの一瞬だけ、背筋が凍り付くような感覚に襲われた。
 それは理不尽な恐怖。
 生命の、原初の本能が感じた恐怖。
(何……今の感覚……?)
 遊輝の躰が勝手に震えだした。
「遊輝様?……御気分が優れないのですか?」
 それを見た使用人が、再び心配そうに尋ねてくる。
 遊輝は、震えながらも健気に微笑みを作ろうとした。
「……御免なさい。ちょっと疲れただけ。本当に大丈夫……」
 そこまで言いかけた、その瞬間。

ぱしゅっ!

 軽い、滑稽ですらある、破裂音が遊輝の耳に届いた。
「……えっ?」
 続いて、遊輝の顔に生暖かい液体が降り注ぐ。
 それはまるで、この夕焼けを染めるために作られたような紅い絵具。
 血。
 遊輝は何が起こったのか分からず、呆然としていた。
 目の前には相変わらず使用人がいる。
 ただ、頭は無い。
 首の切断面からは夥(おびただ)しい血が吹き出ていた。
 血を撒き散らしながら佇む、首無しの使用人。
 空の紅。
 血の紅。
 遊輝の躰は二つの紅に染められていた。
 ひどく非現実的な光景……幻想的で美しくすらある光景。
 だが、その紅の光景の中、唯一の例外が存在していた。
 遊輝の瞳がようやくその異常に気付く。
 ……それは白きもの。
 イヴを騙した罪により、腕と脚をもがれたもの。
 白い……大蛇。
 紅に浮かぶ唯一の白。
 しかしその瞳は、この世界を覆う紅よりも、なお紅い宝石。
 真なる紅。
 その白い大蛇は、使用人の首を喰らいながら、その紅の瞳で遊輝を見つめて
いた。
「あ……あ……ああ……」
 麻痺した精神が何とか、遊輝に恐怖を告げる。
 だが、躰は動かない。
 まさに『蛇に睨まれた蛙』の心境だった。
 恐怖に凍り付く遊輝の心に直接、白い大蛇の声が響く。

『……妾を呼んだのは……主か?』

「えっ……?」
 思わず遊輝は聞き返す。

『……幾星霜の刻と距離を超え……妾に呼びかけていた者……』

「何?……何のこと?」

『妾と同じく……奴に魂を魅かれる者……』

「奴?……誰?……貴女、誰!?」

『分からぬか?……まあ、よい……世界が輪廻する限り……いずれ分かるとき
が来る……だから、今は……』

 白い大蛇は使用人の首を丸飲みにすると、その顎を開いた。
 遊輝の恐怖が頂点に達する。
「嫌……助けて……誰か、助けて……!」
 遊輝は必死に助けを求める。
 だが、屋敷の者が姿を現す気配はない。
 白い大蛇が、ゆっくりと遊輝に迫ってきた。
「助けて……助けて……助けて助けて助けて助けて助けて!……誰か……誰か
ぁぁぁぁぁぁ!」
 遊輝の悲鳴は絶叫に変わる。
 怯える遊輝を、大蛇は心底楽しそうに嘲笑っていた。
 白い大蛇が、遊輝のすぐ目の前まで近付く……
 そのとき。

羅喉ォォォォォォォォゥゥゥゥゥゥ!

『!!!?』
 一筋の閃光が轟音を伴い、白い大蛇に命中した。
 同時に起こる爆発。
 遊輝は爆風に煽られ、思わず尻餅をついた。
 それでも遊輝は、閃光が飛んできた方向に目を向ける。
 そこには……

「見つけたぞ……白い化物……!」

 紅に染まる鬼神が立っていた。
 煉獄より甦った紅の修羅。
 その瞳は、その鬼神が異形の者であることを証明するかのように、金色に輝
いている。
 ――冷たい瞳だ。
 遊輝は思った。
 だが、それ以上に綺麗な瞳だと思った。
 何故だろう?
 遊輝は、その鬼神の瞳に魅かれる自分に戸惑っていた。

『……ジンか。』

 爆発の中から白い大蛇の声が聞こえてくる。
 白い大蛇は無傷だった。
 紅の瞳が鬼神……ジンを捉えている。
 紅の視線と金色の視線が正面からぶつかり合った。
 闘気と殺意が周囲に満ちる。
 遊輝はと言えば、先程みたいに怯えるのではなく、逃げるわけでもなく、た
だ対峙する白い大蛇とジンを見つめているだけであった。
「……残りの首は何処に忘れてきた?……大方、首が多すぎて鬱陶しくなって
きたんだろう、白いの?」
 ジンが不敵に笑う。

『さあな……教えてやる義理はあるまい?』

 白い大蛇も笑った。
 その答えを聞いたジンの瞳がすぅ……と細くなる。
 同時に白い大蛇の瞳も。
 そして、どちらともなく、白い大蛇とジンは動きだし……
 戦いが始まった。


 それはやはり幻想的な光景だった。
 紅の中、白く踊る、大蛇の姿をした化物。 
 真紅の光をたたえる、その瞳。
 紅の中、雷光に似た光を放ちながら舞う、人の姿をした鬼神。
 金色の光を灯す、その瞳。
 それは宗教画を連想させるような、神々しい戦い。
 そして遊輝の目には、それが終わらない毎日を打破する扉のようにも見えた。
 自分は今、この閉じた世界から逃れる翼を手に入れようとしているのではな
いか?
 そう考えると遊輝の心は不思議なくらいに高揚していく。
 この恐ろしい殺し合いを目の当たりにしているのに。
 ……自分は狂ってしまったのだろうか?
 でも、これが狂気というのなら……何と甘美な狂気なのだろう。 
 遊輝の心は歓喜と困惑の間で揺れ動いていた。
 目の前ではまだ、戦いが続いている。
 まるで永遠のようにも感じる戦い。
 だが、実際には一瞬の出来事だった。
 そして、その一瞬の永遠にも終焉が訪れる。
「雷哭!!!!」
 ジンの叫び。
 それと同時に彼の掌から放たれた光弾が、白い化物を貫いた。
 大量の血を撒き散らし、倒れる白い大蛇。
 血の雨がジンと遊輝に降り注ぐ。
 ……振り返ったジンと、遊輝の視線が合った。
 鋭利な輝きを宿すその金色の瞳を、遊輝は、やっぱり綺麗だなと思った。
 紅く染まる世界と、紅い血に染まる二人。
 それがジンと遊輝の、紅の邂逅だった。


「……遊輝様!」
「お嬢様! ご無事ですか!?」
 しばらくして、ようやく異変を嗅ぎつけた使用人たちが、駆けつけてきた。
 何体かメイドロボの姿もある。
 そして皆、血塗れの遊輝と、その横に立つジンの姿を認め、表情が凍りつく。
「貴様……何者!?」
 使用人たちはジンに向かって、身構える。
 それを遊輝が制した。
「止めて! この人は私を助けてくれたの!」
 戸惑う使用人たちは、地面に倒れる白い大蛇の死体に気付いた。
「ひっ!……な、何だ、これは!?」
「……化物さ。それも、とびっきり上等の……な。」 
 ジンは怯える使用人たちに、そう答えながら白い大蛇の死体に近付いた。
(いつまで経っても、ストーンが生まれない……やはり、本体ではないか。)
 ストーンとは、化物が滅びるときに生まれる宝石である。
 この宝石こそが化物の生命そのものであり、ハンターたちが使う不可思議な
力の源でもある。
 『非現実現象具現化エネルギー』の結晶体……それがストーンの正体なのだ。
 そのストーンが、滅びたはずの化物から生まれない……それはつまり、この
死体は単なる分身であり、本体はまだ生きているということを意味する。
(いったい何が目的だ……白いの!)
 ジンは拳を強く握り締める。
 まあ良い。
 今度は絶対に逃がさない。
 貴様だけはこの俺の手で、確実に狩り殺してやる。
 ジンは怒りに燃えた。
 そのとき。
「きゃあああああ!!」
「ひっ!!」
「!!!?」
 死んだと思ったはずの大蛇が、再び動き出した。
 白い大蛇はまっすぐに遊輝に襲いかかる。
 遊輝が悲鳴をあげた。
 ジンは考えるよりも早く、技を繰り出す。
「雷哭!!!!」
 ジンの気弾は、白い大蛇の頭を吹き飛ばした。
 頭を失い、今度こそ倒れる白い大蛇。
 やがて、その姿は霧散していった。
「ちっ、しぶとい奴め。……おい、娘。大丈夫か?」
 白い大蛇の消滅を確認したジンは、遊輝の元へ歩み寄った。
 座り込んだままの遊輝に手を差し延べる。
 遊輝も震える手で、ジンの手を取ろうとした。
 だが
「!……ひっ……きゃああああああああああああああああああああああああ!」
 突然、本当に突然に、遊輝は激痛に襲われた。
 額に、掌に、脇腹に、足に、
 焼けるような、凍てつくような、刺すような、軋むような、鋭い、鈍い、痛
みが遊輝の小さな躰を蹂躙する。
「ひぎぃ……ひゃああああああああああああああああああああああああああ!」
「お、おいっ!」
「ゆ、遊輝様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 慌てて遊輝を抱き起こすジン。
 使用人たちも駆けつけてくる。
 そこに、白い化物の声が響いた。

『……福音を。』

「!……白いの! 貴様か!?」
 ジンが叫ぶ。
 白い化物の姿は何処にもない。
 声は続く。

『……主は解放される。忌まわしき刻の輪廻から。それはその証。』

 見ると、遊輝の額と両手に紅い痣が浮かび上がった。
 さらに外からは見えないが、両足と脇腹にも。
「……何だ、これは?」
 やがて遊輝は苦痛に耐えきれず、ついには失神してしまう。
 白い化物の声に、愉悦が混じってきた。

『……娘よ……また会おう……主が総てを知る……その刻に……そう……主と
妾は同じ……』

 そして声は聞こえなくなった。
 ジンは、最後にあの白い化物が自分を嘲笑ったような気がして、怒りに震え
ていた。
(奴め……!!)
 しかし、すぐに正気を取り戻す。
 今はそれよりも、この娘を助けねばなるまい。
「おい……早くこの娘を……」
 ジンが、取り乱す使用人たちに指示を出そうとした、そのとき。
「遊輝!……いったい、どうしたんだ!?」
 身なりのいい紳士が、青い顔でジンと遊輝の元に駆け寄ってきた。


 ――数刻後
     応接間――

 遊輝を寝室に連れていった後で、ジンは紳士に応接間に通された。
 紳士はこの屋敷の主人であり、遊輝の父親だった。
 彼はようやく落ち着きを取り戻し、ジンから詳しい話を聞きだしていた。
 仕草のひとつひとつに、気品と知性が滲み出る。
 しかし……若い。
 ジンは思った。
 どう見ても二十代後半くらいにしか見えない。実際の年齢は四十間近だと言
うのだが。
 しかも線の細い美形タイプだ。さぞかし女性にもてることだろう。
 そんなことを思いながら、ジンは紳士と話していた。
「俺の名前はジン……ジン・ジャザムと名乗っています。」
「ジン・ジャザム……? もしや、哭嘴流継承者の?」
「……よく、ご存知ですね。」
 ジンは僅かに驚いたように、目を見開いた。
「ええ。私のような仕事……つまり、企業を経営する立場にもなると、様々な
情報が必要になりますから。そう、たとえば……ハンター業界の事情とか。」
「そこまで知っていましたか……人が悪いですね。」
 ジンが苦笑する。
 それを見て、紳士も薄く笑った。
「やはり、今回のことは化物と関係があるのですね? お聞かせ願えますか?」
 ジンは頷いた。
「まず先程の白い化物……奴は『凌辱者』と呼ばれています。」
「!?……もしや、ランクSの……!」
「はい。俺は奴を追って、ここまで来ました。」
「何故、私の娘が奴に襲われるのです!? それにあの痣はいったい!?」
 興奮する紳士とは対照的に、ジンは落ち着いた口調で答える。
「分かりません。奴がいったい何を考えているか……それにあの痣の意味も。
ただ、あの痣は『聖痕』ですね。」
「『聖痕』? キリストが磔にされたときに受けた傷のことですか?」
「奴なりのジョークのつもりでしょう。奴の台詞から察すると……あれは、お
そらく、何らかの呪いの証。何の呪いかまでは分かりませんが……。」
「呪い!……で、では、どうすれば、その呪いを解くことができるのです!?」
「呪いの種類が分からぬ以上、解呪は不可能……ならば方法はひとつ。」
 ジンは、強い意志を込めて答えた。

「奴を殺すこと!」


 ――さらに数刻
     遊輝の寝室――

「んっ……。」
 遊輝は自分の寝室で目が覚めた。
 ぼやけた視界が次第にはっきりとしていく。彼女は軽く頭を振った。
「あれ……? 私、たしか……」
 記憶が混乱している。
 遊輝はゆっくりと今までを思い出そうとした。
(たしか、私、庭に出ていて……それで中に入ろうとしたとき……)
「!」
 そうだ。
 あのとき、白い大蛇に襲われたんだ。
 それでそのとき、金色の瞳をした男の人に助けられて……。
「…………夢?」
 そう。
 思い出した記憶は、あまりにも非現実的で虚ろだった。
 あれは……あの白い大蛇も、金色の瞳の男性も、紅の中の戦いも総て夢だっ
たのだろうか?
 総ては自分が、この閉じた世界から羽ばたきたいという願望が見せた夢……。
 遊輝は落胆した。
 所詮、自分は翼をもがれた鳥なのだ。
 籠の中から広い空を焦がれてるだけの非力な鳥……。
 ふと、遊輝は視線を下に落とした。
 そのとき、彼女は初めて、自分の両の掌に浮かぶ紅い痣に気付いた。
「これは……!?」
 夢の中で、激痛と共に浮かび上がった痣!
 ということは、あの出来事は……
 そのとき、遊輝の部屋の扉が開いた。
「遊輝!……気が付いたのかい?」
「お父様……」
 扉を開けて入ってきたのは、彼女の父親だった。
 優しい表情を浮かべて、遊輝の元へと近付いてくる。
「もう大丈夫なのか? 痛いところはないかい? 遊輝……」
「ええ、もう大丈夫。心配かけて御免なさい、お父……」
 遊輝が父に微笑みかけようとしたとき、彼女は父の後ろに立つ青年に気が付
いた。
 そう。
 金色の瞳を持つ青年に。
「あっ……」
 遊輝は思わず唖然とした。
 そんな娘の様子に気付いた父が、遊輝に説明する。
「そうそう、紹介しよう……先程、お前を助けてくれた人だよ。彼は……」
 そこで後ろに控えていた男が、自ら名乗り出た。
「ジン・ジャザム……しばらく、ここに厄介させてもらいます。よろしく。」
 ジン・ジャザム。
 その名を聞いたとき、遊輝は懐かしさを覚えた。
 いや、そんな生易しいものではない。
 たとえるなら、それは果てない旅の終わりにようやく自分の還るべき場所を
見つけたような……遥か前世の恋人と再び邂逅したような……そんな根拠の無
い、しかし確信のある想い。
 もしかしたら自分は、この人と出会うために生まれてきたのかもしれない。

『……主は解放される。忌まわしき刻の輪廻から。それはその証。』

 白い大蛇の声が、遊輝の中でリフレインする。
 額、掌、足、脇腹の痣が僅かに熱くなる。
 解放。
 そう……解放。
 この人なら、私を解放してくれるかもしれない。
 遊輝はただただ、ジンの金色の瞳を見つめていた。
 綺麗だなと思う、その瞳を。


 運命の輪(ホイール・オブ・フォーチュン)は廻り出す。
 いや。
 運命の輪は狂い出す。
 永遠の流転を打ち砕き、解放されるために。


                           赤の章へと続く

……………………………………………………………………………………………
あとがき

ジン「ジンで〜すっ!」
遊輝「遊輝じゃ。」
ジン「二人合わせて、幻龍神……(どごぉぉぉぉぉんっ!)」

 何かとってもハイメガ粒子砲なツッコミ。

遊輝「前回と同じボケかますなぁッ!」
ジン「……せっかく四章構成だから、同じボケで最後までいけるのに……。」
遊輝「シンメトリカル・ドッキングはどうでもよいわっ! で、今回はなかな
かに時間がかかったのぅ?」
ジン「ああ……つじつま合わせるのに苦労してな……。」
遊輝「おひ。」
ジン「いや、一時期は『何で俺は、遊輝を良いトコのお嬢様にしちまったんだ
ぁぁぁ! スラムの少女にでもすれば良かったぁぁぁ!』って叫んでたし。」
遊輝「また行き当たりばったり……」
ジン「実際書いてみないと、何も閃かないってこともあるんだよ。まあ、色々
と苦労して、何とか話になった。でもな……」
遊輝「今度は何じゃ?」
ジン「ホントに四章で終わるのかなって……当初の予定の位置まで辿り着いて
ないんだよ……。」
遊輝「……実際、今回は『序の章』より長いしのぅ……。」
ジン「章が進む毎に長くなりそうな気配が……(汗)『白の章』というワリに
は描写は『紅い』し。」
遊輝「問題だらけじゃな。『東鳩SS』外伝なのに他のキャラ出てこないし。」
ジン「あっ、それね。最後まで他のキャラは出てこない。」
遊輝「おひっっっっっっ!!!!!!」
ジン「もともとは俺、設定解説用の作品だったからな。『序の章』に申し訳程
度に他のキャラ出しただけ。この話は基本的に俺と遊輝しか出てこない。」
遊輝「問題あり過ぎ……(汗)」
ジン「だって『東鳩SS』の設定が詳しく分からないから、書くのが難しいん
だよぅ……この『血塗れの福音』にしたって、絶対、原作との食い違いが出て
くるだろうし……」
遊輝「その場合はどうするのじゃ?」
ジン「こっちの設定は無視して下さい。こっちは基本的な部分……つまり、俺
と遊輝の馴れ初めさえ崩れなければOKですから。」
遊輝「そうまでして、このダークな話が書きたいのか、主?」
ジン「せっかくここまで書いたんだもん。このまま突っ切る!」
遊輝「『人間賛美』のテーマを忘れてはならんぞぃ。」
ジン「<ふぉんと さいず=1>おう! 任せとけ!</ふぉんと>」
遊輝「言っている内容とは裏腹の声の大きさじゃな、おひ。では……」
ジン「次回、『赤の章』で会いましょう!」
遊輝「さらばなのじゃ。」
ジン「『血塗れの福音―赤の章―』、総ては……」
遊輝「絶望の内より……。」

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