餅を食う 投稿者:UMA 投稿日:2月1日(木)00時58分
「けんたろー、お餅焼けたよー」
「分かったー」
カウンターにいた健太郎は、返事をすると『休憩中』の札をかけてリビングに
向かう。

今日のお昼『も』餅だ。
なぜなら、去年の年末に親戚から大量に餅を貰ったからだ。しかも、近所にお
裾分けに行ったら、行く先々で逆に餅を貰ってしまって最初より増えてしまっ
たというから不幸としか言いようがない。
結局二人で毎日餅を食べることでなんとか消費しているのだが、当然毎日餅ば
かり食べていると飽きてくるので最近では『新しい味』を開拓しているところ
だ。
例えば、カレーライスをヒントにした『カレー餅』という比較的まともな味か
ら、あんこの代わりに生わさびと生姜を卸したもの(隠し味に唐辛子とマスタ
ード)をブレンドした餡を入れた『耐久餅』といった見た瞬間にそのまま廃棄
処分決定しそうな味まで、いろいろ試しているという。

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「…で、今日はどう料理したんだ?」
「んとね、今日は基本に返って…じゃーん!」
テーブルに着いた健太郎の問いかけに、エプロン姿のスフィーは後ろに隠し持
っていた皿を見せる。
そこには黄色い粉がまぶされた餅が載っていた。

「ん?きな粉餅か?」
「うん。基本に返ったって言ったでしょ。最近、変わった味ばっかりだったか
ら、たまにはいいかなーって思ったんだけど、どうかな?」
「いや、偉いぞスフィー。これぞまさしく逆転の発想というだ」
スフィーの頭を、健太郎は優しく撫でてやる。

「そ、そうかなぁ」
「そうだよ。よし、今日は久しぶりに普通の餅を味わうか。じゃあ、いっただ
きまーす!ぱくっ」
言って、早速箸を付ける健太郎。が、一口食べた瞬間動きが止まる。

「…」
「…」
「…」
「…おいしく…ない?」
いきなり笑顔が凍り付いた健太郎の顔を心配そうにのぞき込む。

「…スフィー。これ、きな粉に何、入れ…た…?」
「え?え…っと…。お正月に、二人で旅行に行ったときのお土産の…。って、
け、健太郎!?」
言いながら健太郎は崩れるように倒れ込んだ。


・
・
・

「……ろ!」
「…け…たろ!」
誰かが健太郎を呼ぶ声がする。
次第に意識が戻ってくると、それがスフィーのものであると分かる。

「う…うん…。スフィー…?」
「健太郎!うわぁぁぁん!」
うっすらと目を開け、スフィーの名前を呼ぶと泣きながらスフィーは健太郎に
抱きつく。

「えっと、俺、何で床で寝てるんだ…?ああ、そうだ…。俺、餅を食ってぶっ
倒れたんだっけ。アレ、何が入っていたのかな…。なあ、スフィー?」
床に倒れたまま、スフィーを優しく抱きしめながら髪を撫でてやる健太郎。

「ぐすっ、ぐすっ…。あれはね、きな粉とね、お正月に温泉旅行に行ったとき
に貰ったふりかけをね、混ぜたものだよ…」
「きな粉とふりかけのブレンドか…。ところで、そのふりかけってどんなのな
んだい?」
「ちょっと待ってて。取ってくる」
健太郎に撫でて貰って落ち着いたスフィーは、キッチンからそのふりかけの袋
を取ってくる。
なんとか起きあがった健太郎がそれを見ると『鶴木屋旅館限定!伝説の鬼ふり
かけ』と力強い毛筆体で書かれていた。ご飯と箸を持った侍が鬼を退治してい
るコミカルなイラストがいい味だしている。

「これかい?」
「うん。でも、何でふりかけで気を失ったの?」
「それはですね」
『うわぁ!』
いきなり現れたのは長瀬翁だ。当然、二人は思いきり驚く。

「な、長瀬さん?なんでここに?」
「いえね、お店の方に行ったらお昼みたいだったんで裏に回ったのですが、い
くら呼び鈴押しても誰も出てきませんでしたから。それに、健太郎君の生命反
応が著しく低下してたので、失礼とは思いましたがお邪魔させて貰いました、
という訳です」
「はあ…」
分かったような、分からないような、という返事だ。

「それよりスフィーさん。そのふりかけを戴いた方というのは、長い黒髪の美
しい女性じゃないですか?」
「え!何で長瀬さん知ってるんですか!そうです、そのロングヘアの女性です
よ」
「やっぱり…」
そういって長瀬翁は腕組みをして深く頷く。

「何か知ってるんですか?」
「ええ。その女性というのは、お二人が泊まったという鶴木屋旅館の女社長さ
んなんですけど、この方の作る料理は独創的でかなり個性的らしいのです」
「で?」
「つまり、『とてつもなく不味く、耐性がないほとんどの人にとっては一種の
毒』ということです。耐性がなければ、丁度先ほどの健太郎君のように死線を
さまよったりする訳ですね」
『なるほど〜』
長瀬翁の言葉に、二人は思いきり納得する。

「そっかー。私が貰ったコレが毒だったんだー。御免ね、健太郎」
「ったく、御免じゃないだろ。普段から言ってるだろ?『知らない人から物を
貰ったらダメだよ』って!」
健太郎はスフィーにきつく言い聞かせ、手を振上げる。

「ひっ…!」
『叩かれる!』そう思いスフィーは一瞬、びくっと体をこわばらせる。
が、予想に反して健太郎は優しく頬を撫でた。

「…健太郎、どうして…?」
「スフィーが魔法で俺を助けたんだろ?だったら、今回の件はそれでチャラに
してやるよ」
「え?…あ、ああっ!!」
言われてスフィーは自分の姿がすこし縮んでいることに気づく。無我夢中で治
癒魔法を使った結果だろう。

「ふみゅぅぅぅ、また縮んじゃったよぉ…」
「大丈夫、いつか大きくなれるって」
「本当?」
「本当だって。スフィーはがんばり屋さんだろ?がんばればちゃんと大きくな
れるって」
言いながら半泣きのスフィーを膝の上に抱っこしてやる。

「うん!」
抱っこするとスフィーは涙を拭いて元気に返事した。



<おしまい>
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どうも『遅刻しちゃいました(汗)』のUMAです。

今回は2001年01月のイベントSSのお題である
『もち』
で書いてみました。

#1月すぎてるけど(激汗)

最初は、『もち』ってことで駄洒落魔法合戦的なSSにしようと思ったんです
けど、辞書で『もち』引いてみても『○○餅(きな粉餅とか)』とか、
『××持ち(金持ちとか)』ばっかりで面白くなかったんで、大幅な路線変更を
余儀なくされました(汗)

ちなみに『もち』でネタになりそうなのは(ネタ帳参照すると)、
 『受け持ち』『尻餅』『焼き餅』『用いる』『お持ちする』『モチーフ』
 『もうちょっと…』『もう、ちゃんとして』『勿論』『メモ帳』
といったところですかね。

ぢゃ、そういうこって。
でわでわ〜(^_^)/~