21せいきのぼくへ 投稿者:UMA 投稿日:1月11日(木)23時31分
「お兄ちゃん、おはよう。…じゃなくって、明けましておめでとう。今年もよ
ろしくね!」
「んあ…。初音ちゃん、おめでとう。こちらこそよろしくなぁ…」
耕一は新年の挨拶をするとそのまま横で寝ていた初音を抱きしめる。耕一はま
だ半分眠ってるようだ。

「んん…。お兄ちゃんったら寝ぼけてるよー」
「いやぁ、俺は寝ぼけてないぞぉ…。うう〜ん、初音ちゃんは暖かいなぁ…」
「もー、おにいちゃぁん…」
もぞもぞと耕一の腕の中でもがく初音。
と、そのとき二人の部屋の前から声だする。

「初音ー、耕一さーん。そろそろ起きましたー?」
「うわぁ!千鶴さん?お、起きてます、起きてます」
その声で思い切り目が覚めた耕一は慌てて飛び起きると初音を離して、廊下に
いる千鶴に返事する。

「そう?そろそろご飯にしますから、そろそろ起きてくださいね」
「あ、ああ、分かりましたー。ふう、びっくりした」
「びっくりしたのは初音の方だよー」
初音はぷーっと頬を膨らませた。

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・
・

柏木家の元旦の朝は遅い。
わざわざ深夜に初詣に行ったせいもあって寝たのがかなり遅かったせいもある
が、時刻はすでに昼過ぎである。

「楓ちゃんはいつ来るんだっけ?」
おせちを食べながら、耕一はこの場にいない楓のことを聞いた。
年末から耕一と初音はここ、隆山の柏木家に帰ってきているが、楓には会って
いないのだ。

「ああ、楓なら年末に電話あったわよ。今日は旦那さんの実家に行くから、明
日来るって」
答えたのは振り袖姿の梓だ。
その姿を見た耕一が言わんでもいいことを言ったおかげで、耕一の頭には新年
早々から大きなコブが出きるハメになったという。
楓は今、梓の話しにあったとおり数年前に嫁いでいる。そのため、今日は旦那
の実家に行っているのだ。
ちなみに耕一と初音も結婚しているのだが、二人とも実家は『ここ』なので両
方の実家に顔を出す手間が省けていたりする。

「ふーん。大変だなぁ、楓ちゃんも」
「あ、そういえば初音と耕一さんに年賀状が届いてましたよ」
振り袖姿の千鶴が二枚の年賀状を取り出す。
耕一が千鶴の姿を見たときは梓から一撃を喰らった直後だったせいか、当たり
障りのない表現をしたようで、頭のコブは増えなかったようだ。

「初音に?」
「お、俺にか?」
初音は耕一と結婚しており、今はここに住んでいない。もちろん引っ越しの手
続きはしているのでここに初音宛の年賀状が届くのは変だ。
また、耕一は元々ここの住人ではないので届くハズがないのだが。

「ふふ、見たら分かりますよ」
「?」
不審に思いながら二人は千鶴から年賀状を受け取る。

「えっと差出人は…『かしわぎ はつね』。って…私?」
初音は受け取った年賀状のひらがなで書かれた差出人を見て驚く。

「お兄ちゃんのは?あ、差出人が『柏木 耕一』ってなってるよ?なんで?」
「何でって言われても…」
困惑した耕一はチラリと千鶴と梓を見る。
すると二人はにやにやとこっちを見つめていた。

「何で俺が自分に…」
よく分からない耕一は再び年賀状をよーく見る。そして

「あ、分かった!つくば万博んときのアレか!!そっかー、今年届くんだったん
だー」
と、一人納得する。
それを見ていた千鶴と梓もうんうん、と頷く。

「お兄ちゃん?何か分かったの?
「え?ああ、御免御免。つくば万博ってあったろ?コレはそのときに出した年
賀状だったってことさ」
「つくば万博って?」
「覚えてないかなぁ。たしか…」

耕一が言ってる万博とは科学万博つくば85のことだ。その名の通り茨城県つ
くば市で行われた万博のことで、昭和60年03月17日から昭和60年09
月16日まで開催されていたのだ。
その万博会場に『科学万博ポストカプセル2001』というポストがあって、
それに年賀状を投函すれば16年後の2001年の元旦に届くという、タイム
カプセルのような夢の年賀状があったのだ。
そして、今年がその2001年。16年の時を経て、ついに届いたのだ。

「あ、なんとなく覚えてるかも。たしかマスコットキャラが『なんとか星丸』
って…」
「それは『コスモ星丸』よ。初音は小さかったからよく覚えてないのかしら」
「うんうん、初音は小さかったわ。そういえばあのとき初音ってば迷子になっ
てわんわん泣いてたよねー」
千鶴と梓が当時のことを話す。16年ほど昔のこととはいえ、結構覚えている
ようだ。
ちなみにこのコスモ星丸というのは球体にわっかがついた形で、丁度土星のよ
うなデザインだ。

「うー、そんなことないもん!初音、迷子になんかならないもん」
「ならないもん…って、あんた覚えてないんでしょうが」
「そんなことないもん!初音、迷子になんてなってないもん」
「いや、迷子になったよ。だって俺、そのあと迷子にならないようにって親父
に言われてずーっと初音ちゃんの手を引いてたから、よく覚えてるぞ」
「ほーら。耕一だって言ってるでしょ」
「う…。そういえば、泣きながらだれかの手をずーっと握っていた覚えがある
ような…」
「その相手が俺ってことさ。アレが俺と初音ちゃんの初デートってことになる
のかな」
いいながら耕一は笑う。

「初音は全然覚えてないんだけどね…。あ、お兄ちゃんが書いた年賀状、見せ
て見せてー」
「いいけど…、なんか恥ずかしいなぁ…」
耕一は自分が苦笑いしながら初音に渡す。

「読んでみるね。えっと…『新世紀明けましておめでとう 21世紀のぼくへ
元気してますか』。お兄ちゃん、元気?」
「ああ、元気元気。鬼の力にも目覚めたからさらに元気だぞ」
「『21世紀はどんな感じですか?ノストラダムスの予言が当たっていれば地
球自体無くなってるっぽいけど。あ、それ以前に富士山が噴火したらこの年賀
状は無くなっちゃうね』」
「あはは。その二つの予言、物の見事にはずれたな。まあ、はずれた方が良か
ったけどさ」
「続き読むね『そうそう。今僕はゲーセン版のグラディウスやってるんだけど
未だに2−2のザブが抜けられません。21世紀になったら抜けられてるとい
いな。1985 柏木耕一』おしまい」
「しっかりゲームネタで締めるとは…。この頃からディープなゲーマーだった
んだなぁ、俺…」
耕一は思いきり苦笑いする。
ちなみに耕一は21世紀になった今でもグラディウスのザブ地帯を抜けること
ができないで居る。アドリブで何度か抜けたことはあるが、いわゆる『ザブ抜
け』というテクニックは未だに修得していないのだ。

「お兄ちゃんって本当に昔っからゲーマーだったんだね」
「まあ、ね。新世紀早々、旧世紀の自分を省みた気分だよ。あ、そういえば千
鶴さんや梓、楓ちゃんもポストカプセルに出したんじゃなかったっけ?」
「ええ、私たちにもしっかりと届きましたよ。もちろん楓のもね」
言いながら二人は袖から年賀状を取り出した。
つくば万博に行った耕一と千鶴達は21世紀の自分宛に年賀状を出していたの
だ。
もっとも、耕一もだが千鶴も梓も受け取るまで綺麗さっぱり出したことすら忘
れていたのだが。

「そういえば85年って言えばさー…」
「え、何々?」
「うー、初音がよく覚えてない頃の話題だよー」
その後は初音を置き去りにしたまま、耕一達は1985年の話題で盛り上がっ
たという。



<おしまい>
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どうも『世紀を越えた年賀状』のUMAです。

今回は2001年01月のイベントSSのお題である
『年賀状』
で書いてみました。

ネタの大本は、EXPO85ことつくば科学万博にあったポストカプセルなの
で、ある程度以上の年齢の人なら『ああ、そんなのあったっけ』って感じにな
ると思います。

11月か12月頃に、ポストカプセルの年賀状が誤って配信されるっていうニュー
スを見てポストカプセルの存在を思い出した(笑)のですが、儂は実際に出した
かどうか覚えていません。
万博に行ったのは確かなんですけどね。

にしても、85年当時から思えば21世紀ってすっげー未来に思えたものです
が、実際に21世紀になってみると『こんなもんか』って思って少し寂しいか
も(^^;;

#ホンダの二足歩行のロボットはマジすげーって思いますけどね

なお、引っ越ししたりして住所が変わった場合は去年のうちにポストカプセル
の事務所(どっか知らんけど)に連絡すれば、引っ越し先に届けられたらしいで
す。
また、本当なら楓や初音、耕一の年賀状が隆山の柏木家に届くハズがないです
が、話しの都合ってことでご勘弁を。

#でも同じ『柏木姓』だったからマジで間違えたりとか>郵便屋

ぢゃ、そういうこって。
でわでわ〜(^_^)/~