まじかる☆トレーニング2 投稿者:UMA 投稿日:9月30日(土)23時50分
「では、最初はなつみさんから見せて貰いましょうかな」
椅子に腰掛けたまま、長瀬翁はゆっくりとなつみに促す。

「はい」
なつみはすっと立ち上がると目を閉じて精神を統一させる。魔法を発動させる
のだ。

今日スフィー、リアン、なつみの3人は長瀬の店で魔法の試験を受けている。
普段は五月雨堂で練習していたのだが、今日は長瀬が3人を試験してくれると
いうことで、長瀬の店にいるのだ。もっとも、試験といっても長瀬は教員免許
をもっていないのであくまで『模試』だが。

「では…いきます。『恋をした鯉!!』」
なつみはしばし呪文を唱えた後、そう叫んだ。すると、彼女はぽっと頬を染め
た鯉に変身する。
一応擬人化しているものの、人魚姫などの『半身魚』ではなく『全身魚』なの
で多少気持ち悪い。

「う…。無理して擬人化したせいで、多少不気味ではありますが、合格です。
次はリアンさんいってみましょうか」
多少笑顔が引きつったものの、笑顔のまま次にリアンをさす。

「はい。…『鯵を味わう味皇!』」
2番手のリアンはそう叫ぶと、焼いた鯵を頭からかぶりつく美食家の老人に変
身する。
一口食べた直後に『むぅ…。こ、これは、美味いぞぉぉぉ!!』とシャウトしな
がら口から透過光を吐き出すあたり、某アクション料理アニメのようだ。
当然、その後はトリップしながら素材がどうの、味付けがああだと、蘊蓄たっ
ぷりの解説シーンが入る。

「ほう、三重掛け魔法ですか。がんばりましたね、リアンさん。文句無しに合
格です」
目を細めながら手をたたいて賞賛する長瀬。
今までは二重掛けの魔法しか、長瀬は知らなかったのだから無理もない。

「ありがとうございます。三重掛けの魔法は姉さんと二人で練習したんです」
そういうリアンはとても嬉しそうだ。
本当はなつみも入れて3人で練習したかったのだろうが、なつみは三重掛け魔
法を使えるほどの魔力がないため、仕方なく二人で練習することになったらし
い。

「ほう、そうなんですか。ということはスフィーさんも期待できますね。では
スフィーさん、どうぞ」

「はい。…『鯖を捌く!』」
長瀬に促されたスフィーはそう叫ぶと、ねじり鉢巻きをした板前風の某星の白
銀の幽波紋に変身する。
そして、『オラオラのラッシュ』のような包丁さばきで鯖を捌いていく。

「うん、二重掛け?三重掛けではないのですか、スフィーさん」
三重掛け魔法を期待していた長瀬は拍子抜けしたようにスフィーに聞く。

「いえ長瀬さん。あれは魚の『鯖』と鯖を『捌く』だけじゃなく、スタープラ
チナの『裁く』もかけた、姉さんオリジナルの三重掛け魔法なんですよ」
まだ『オラオラのラッシュ』中のスフィーのかわりにリアンが答える。

「なんと!あの板前にはそのような魔法がかけられていたのですか!!うーむ、
この私のも見破れないとは…。うむ天晴れです、スフィーさん。当然合格です
よ」
長瀬は手をたたいて賞賛した。

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「…そういえば長瀬さんって…」
試験が一段落ついたところで、長瀬からの差し入れの梨を切り分けて食べてい
ると、なつみが口を開いた。

「ん?なんですかな、なつみさん」
「いえ、大したことじゃないんですけど、長瀬さんもこの魔法のカードで練習
してた、って言ってましたけど、何かカードで面白いお話てないのかなーって
思っただけです」
「面白い話し、ですか?うーん、つまらない昔話くらいしかありませんが、前
国王…スフィーさんたちのお祖父さんと組んで魔物退治をした話しとか…」
長瀬は腕組みをして考え込む。

「え、おじいちゃんの話し?私も聞きたい!」
「私も聞きたいです。でも、おじいちゃんと長瀬さんって知り合いだったので
すか?」
「はいそうですよ。スフィーさんがこの街で修行することになったのも彼が私
のいる、この街を選んだからでしょうからね」
「あ、なるほど」
「えっと、昔話ですね。皆さんの魔法の練習の役に立つでしょうし、聞かせて
あげましょうかね」
「わー!ぱちぱちぱち〜!!」
3人は拍手する。

「では…コホン。この話しは、魔法学校の卒業試験頃でまだこちらの世界に来
る前のことです。私たちは魔法学校を卒業して、王国内を冒険していたとです
ね、魔物に襲われている村を発見して、魔物退治の依頼を受けたんです。今
にして思えば、あれが私と彼の最初の冒険ですな…」

・
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「おい、ゲン!ヤツだ!!」
ローブを纏った男は、丘の向こうに魔物といる魔法使い風の男を指さしながら
長瀬を呼ぶ。
なお『ゲン』というのはこの当時の長瀬源五郎のあだ名だ。
そして、長瀬を呼んだ男は当時のグエンディーナの王子。現在でいう前国王で
スフィー達の祖父にあたる男だ。

「ああ、俺も見えてる。あいつが村を襲ってる親玉だな…」
長瀬は剣を抜き、丘の上の男を見据える。
グエンディーナで使っている魔法には、呪文の詠唱時に複雑な動作は必要ない
し、銀以外の金属がマナの邪魔になることもないため、魔法使いの長瀬も帯剣
しているのだ。
もっとも、呪文詠唱の際にマナを効率よく吸収できるため杖やワンドを愛用し
ている術者の方が多いのが実状だ。

「先手必勝!いくぜっ!!」
いいながら王子は森から飛び出す。

「おい、貴様が村を襲っている魔法使いか!」
「いかにも俺がそうだ、と言ったらどうするかね、こわっぱ!!」
魔物に命令をしていた魔法使いは面倒そうに振り返ると、そう言い放った。

「当然、倒させてもらうぜ!!くらえっ『平らな鯛は痛い!』」
王子がそう叫ぶと平べったい鯛(尾頭付き)が一尾、魔法使いに飛んでいく!
さりげなく三重掛け魔法だ。

「くっ…」
不意を付かれたが、魔法使いは紙一重で鯛を避ける。

「ちっ…はずしたか」
「その魔法は…。貴様、魔法学校の学生…いや、卒業生だな。こわっぱが、こ
の俺様にたてついて只で済むと思うなよ!!『隣の柿は良く客食う柿だ』!」
魔法使いが二重掛け魔法並の詠唱時間で四重掛け魔法を唱えた!
すると柿が牙をむいて王子を襲う!!

二重掛け、三重掛けと魔法を重ねると威力が増加するが、その分呪文の詠唱に
かかる時間が増えるという欠点があるのだ。
しかし、この魔法使いはその欠点を克服し、短時間で高度な魔法を唱えること
ができるのだ!

「四重掛け魔法!?なら、『クリーミーな栗でクリティカル』!!」
王子はクリーム状の栗を柿に投げつける。
こちらは三重掛け魔法。まだ、魔法学校を卒業して間もないこともあってか、
三重掛けまでしか使えないようだ。

栗は柿を激しく突いて7回当たり9のダメージを与えた。
柿は首を切り落とされた!

「馬鹿なっ俺の柿がやられただとっ!?ええい、我がしもべどもよ、この愚かな
こわっぱを倒せ!」
『グゴーッ!!』
魔物共は手にした武器を振上げ、王子へ向かっていく!

「させるか!『ソードを総動員』!!」
何者かが森の中から呪文を詠唱すると、無数の剣が魔物を襲う!

「何だとっ!?」
「生憎だが…。貴様の手下はもういないぜ」
「!」
魔法使いが驚いて振り向くと、森の中からゆっくりと長瀬が現れた。
いましがた、魔物を倒した術者だ。

「仲間がいたとはな…。『なけなしの梨』!」
「『梨は無し』!」
魔法使いは懐に隠していた梨で長瀬を不意打気味に攻撃する!
しかし長瀬は飛んできた魔法の梨をすべてうち消した!さらに長瀬本人も梨が
載っていたと思われる皿に変身した!!

「な…!消滅魔法じゃと!?」
「あきらめな。これ以上戦っても貴様は俺達に勝てない」
「その通りだ。俺達も村から魔物退治を依頼されているが、貴様の命までは奪
う気はない。降伏しろ」
長瀬と王子は魔法使いを両側から挟み込みつつ、間合を詰める。

「…ふっ、この俺様に情けを掛けるとはまだまだ甘いな、こわっぱども!」
『何っ!?』
「『猫のまねごと』!!」
魔法使いは二人の一瞬の隙をついて猫に変身して逃げ出した!
変身といっても猫の着ぐるみを着てるだけにも見えるが、元々そういう魔法な
のだろう。

「逃がさんっ!『猫が寝込む』!!」
王子は逃げようとした猫(魔法使い)に向かって呪文を唱えた!

「うう…、急に頭痛が…。悪寒もしてきた…。おお、こんなところに布団があ
るではないか。ありがたや、ありがたや…」
すると猫(魔法使い)は風邪を引いたのか、王子の呪文で作った布団に潜り込ん
だ。

「今だ、ゲン!」
「了解っ!『布団が吹っ飛んだ』!!」
「え…?嘘、ちょっと待ってくれぇぇぇ!!」
猫(魔法使い)は慌てて布団から逃げようとするがそれより早く、

ちゅどぉぉぉん!!

布団は大爆発した。ドクロ風のキノコ雲が上がるのはお約束だろう。

・
・
・

「…と、言うわけで私たちはその魔法使いを村に連れ帰って、警察に突き出し
ました、めでたしめでたし」
話し終わると長瀬は、湯飲みのお茶をずずーっと飲み干す。

「へー、おじいちゃんて昔っから魔法上手かったんだ」
「うん。私たち、三重掛け魔法ができて浮かれていたけど、おじいちゃんは四
重掛け魔法…」
「気にすることはありませんよ。彼も学生の頃は二重掛け魔法程度しか使えま
せんでしたから。卒業が間近になって猛勉強して、なんとか四重掛け魔法まで
覚えた、ってのが本当ですから」
自分とあまりにレベルが違いすぎる祖父の話しに自己嫌悪になったスフィーと
リアンに優しく声をかける長瀬。

「それにしても、長瀬さんが魔法剣士だったなんて、初めて知りました」
なつみもびっくりしたようだ。
魔法の国の話しは母から少しは聞いていたが『冒険』の話しは今回初めて長瀬
から聞いたせいもあるだろう。

「言いませんでしたからね。皆さんも、練習を重ねて私やスフィーさん達のお
祖父さんのような魔法使いを目指してくださいね」
長瀬はそういってを締めくくった。



<おしまい>
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どうも『第2回ダジャレ魔法合戦』のUMAです。

今回は2000年08月のイベントSSのお題である
『果物』
で書いてみました。

『柿』『栗』『梨』を織り込んでみましたけど…栗って果物だっけ(汗)?

まあいいや(をい)。
柿と梨は果物だし。

#ちなみに、『1』は今回は2000年07月のイベントSSとして発表してます

さて、本当はもう一つのお題目『〜にひかれて』も考えていたのですが、時間
切れです(涙)

こちらは『ひかれる』の同音異義語を幾つか使ったお話…になるハズでした。

#「車に轢かれる」「後ろ髪を引かれる」「コーヒー豆を挽かれる」
#「ヒロインに惹かれる」
#登場人物が未定なので、最後のヒロインも未定ね(汗)

ぢゃ、そういうこって。でわでわ〜(^^)/