まじかる☆トレーニング 投稿者:UMA 投稿日:7月11日(火)23時44分
「では、最初は私。なつみがいきます」
「うん、がんばってねー」
「力んじゃダメよー」
スフィーとリアン。二人の応援に、ウインクで応えるなつみ。

「…」
すっ…と目を閉じて呪文の詠唱を始めるなつみ。同時に彼女を中心に空気の渦
のようなものが見える。魔力が集まるときに、空気まで震わせてるからだろう
か。
数十秒ほど呪文の詠唱が続いた後、なつみはかっと目を見開き、

『馬が埋まったっ!』

そう叫ぶと、なつみは前半分が地面に埋まった馬に変身した。

「へー、なかなかやるじゃない」
「ええ。窒息してるかような、足の痙攣の表現が素晴らしいわ」
と、見ていた二人は関心したように絶賛する。

「どうだったかしら?まだ、お二人にはかなわないと思いますけど」
ぺろっと舌を出すなつみ。

「じゃあ、次はリアンね」
「はい」
スフィーに促されたリアンはすっと立ち上がると、さっきまでなつみが立って
いた位置に移動する。
そこは、みんなのいる位置から10フィートほど離れているため、呪文の効果
範囲が接触〜近距離用の魔法は届かない安全な位置なのだ。

「いきます」
すっ…と目を閉じて呪文の詠唱を始めるリアン。同時に彼女を中心に空気の渦
のようなものが見える。
なつみに魔法教えたのはリアン達からだろうか、魔法のエフェクトはなつみと
同じだ。使い回ししてるかのようにも思えるが気のせいだろう。
数十秒ほど呪文の詠唱が続いた後、リアンはかっと目を見開き、

『猫が寝込んだっ!!』

と叫ぶ。
と、同時に口に体温計をくわえて氷枕をして布団に寝ている猫に変身した。ち
なみに人間サイズの猫に変身したため、リアンが着ぐるみを着ているように見
えなくもない。

「リアンもなかなかやるわね」
「本当だわ。体温計と氷枕が『寝込んだ』の部分を巧く表現してるわ」
これまた、見ていた二人は絶賛する。

「うふふ。どうだったかしら?」
変身魔法を解除したリアンは照れてるのか、ちょっぴり顔が赤い。

「じゃあ、ラストはあたしね」
すっ…と目を閉じて呪文の詠唱を始めるスフィー。同時に彼女を中心に空気の
渦のようなものが見える。
姉妹だからだろうか、魔法のエフェクトはリアンと同じだ。使い回ししてるか
のようにも思えるが気のせいだろう。
数十秒ほど呪文の詠唱が続いた後、スフィーはかっと目を見開き、

『犬が居ぬっ!!!』

とシャウトして、犬小屋に変身した。ただし、鎖と首輪はあるものの肝心の犬
がいない。ちなみに、犬小屋の表札(?)には『すふぃー』と書かれている。

「さすが姉さん。犬そのものじゃなく、犬小屋に変身するなんて」
「しかも、犬がいないことを表現する小道具がいいわ」
二人とも絶賛する。

「ふっふっふっ。このスフィー様を甘く見ないでね」
いつの間にか変身魔法を解除したスフィーは大いばりだ。



「…ちょっといいか?」
「あれ、けんたろ。いたの?」
「ずっとな。ところで、さっきから3人とも何やってるんだ?」
「健太郎さん、言ってませんでしたっけ?これは魔力アップのための練習です
よ」
「まりょくあっぷぅ?」
リアンの答えに素っ頓狂な声を上げる健太郎。

「あーっ!けんたろ、今の思い切り馬鹿にしてるでしょっ!!」
「そ、そんなことはないぞ、スフィー」
両手をぶんぶん振って否定する健太郎。

「本当?」
「う…ん。まあ少しは信じられないかなーって思…ぉぉぉっ!?」
ぎゅぅぅぅっと健太郎の足を踏みつけるスフィー。

「す、スフィー!痛いじゃないか!!」
「だって、けんたろが悪いんだよ。これって本当に本当なんだよ」
「ええ、これは長瀬さんから教わった、由緒正しい練習方法なんですよ。なん
でも、グエンディーナに古くから伝わる練習方法だとかで」
と、なつみがフォローする。

「長瀬さんから…か」
『長瀬源之助…。一体、あの人って何者なんだ』と常日頃抱いてる疑問が頭を
よぎる健太郎。

「それで、どうやって魔力をアップするって言うんだ?」
痛む足をさすりながら聞く健太郎。

「長瀬さんによると、このカード自体が魔力の源で、術者の魔力に合ったカー
ドが自動的に選ばれるそうなんです。そして、そのカードの魔力を修得するに
はそのカードにまつわる魔法を使えばいいそうです」
リアンは手にしたトランプより一回り大きなカードを指さしながら説明する。
よく見たら、スフィーとなつみも絵柄は違うが同じカードを持っている。

「カードにまつわる魔法?ああ、それで今の動物ダジャレ合戦か?」
ぽん、と手を叩く健太郎。先ほどの変身魔法から、スフィー、リアン、なつみ
が引いたカードがそれぞれ『犬』『猫』『馬』に違いない。

「動物ダジャレ合戦なんて失礼ねー」
「そうですよ、健太郎さん。これは、カードに書かれた語句にまつわる事象に
変身することで、術者の発想力を鍛えてひいては魔力のアップにつながるとい
う、素晴らしい練習なんですよ」
「たしかに、変身魔法が使えたけどなぁ…」
「なーんか、信じてないっぽい言い方ねー」
「うーん…」
「じゃあ、長瀬さんが言ってるのが間違いって言うの?」
「いや、そういう訳じゃないんだが…」
魔法に関しては完全に素人…というか、彼にとっては別世界のお話しなため、
健太郎はまだ半信半疑だ。

と、そこへ、

「ちょっと、いいですかな」
と、カードを渡した張本人の長瀬源之助が現れた。

「あ、長瀬さん。いらっしゃい」
「五月雨堂の前を通ったら強い魔力を感じましてね。この間スフィーさん達に
教えた練習方法を早速試してるのかと思い、見学に来たんですよ。お邪魔でし
たかな」
「いえ、そんなことはありません。むしろ、歓迎しますよ」
「そうですか。では見学させてもらいますかな」
スフィーに促されて、長瀬は近くのいすに腰掛ける。

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『馬が埋まったっ!』
『猫が寝込んだっ!!』
『犬が居ぬっ!!!』

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「どうですか、長瀬さん」
三人同時にたった今修得した変身魔法を披露する。

「うむ。3人とも、なかなかスジがよろしいですな。私が練習方法を教えずと
も、ちゃんと理解しているとは、さすがです」
長瀬は目を細めて言う。

「ん?健太郎くん、どうしました?」
「ははっ、ははっ…」
健太郎は長瀬のこの言動でこの冗談みたいな練習方法が本当に正しいと分かっ
てしまい、あっちの世界に旅立ったようだ。
こっちの世界とグエンディーナの価値観の違い、というやつか。

「あーあ。けんたろ、壊れちゃったわ」
「大丈夫ですよ。健太郎くんならほっといても、暫くしたら帰ってくると思い
ますから」
「それもそうね」
「ええ」
結構薄情な連中だ。

「そういえば、長瀬さんもコレ、使ってたんですか?」
「はい、そうですよ。まだ私が若かった頃ですが。たしか、昔は『梨は無し』
っていう、魔法を修得したんですよ」
遠い昔を思い出すような口調の長瀬。

「この『まじかる魔法カードEXパック』は、術者のレベルや魔力の質などで
引くカードは千差万別なので、みなさんもいろいろ試されるといいでしょう」
「わかったわ。よーし、もっともっと練習しないと。ね、みんな」
「はい」
「もちろんです」

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・

それから五月雨堂では、毎日のように大魔法合戦が繰り広げられることとなっ
たという。

「いきます。『豚をぶったっ!』」
平手打ちを喰らってのけぞる豚に変身するなつみ。

「これならどうかしら。『鯛を平らげるっ!!』」
皿の上で骨だけになって、びちびちと跳ねてる鯛に変身するリアン。

「だったら、『猿が去るっ!!!』」
ダッシュで走り去る猿に変身するスフィー。

「くっ…ならば『馬が生まれたっ!』」
生まれたばかりの子馬に変身するなつみ。

「前に引いたカードの上位魔法ね。なら私も『猫のネゴシエーター!!』」
全身黒ずくめ+サングラスという某アニメの交渉人の格好をした猫に変身する
リアン。
見方を変えれば昔懐かしい、なめ猫に見えなくもない。

「さすがリアンね。だったらあたしは『犬が射抜くっ!!!』」
弓を構えた犬に変身するスフィー。
そして矢を放ち、健太郎を見事に射抜いた。

その直後だった。三人の『あ』という声がハモったのは。



<おしまい>
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どうも『オチが弱いかな(汗)』のUMAです。

今回は2000年07月のイベントSSのお題である『三題噺(犬、間違い、昔話)』
で書いてみました。

以下に、三題噺の各お題目をどこで使ったかを記します。
・犬  …スフィーの魔法
     『犬が居ぬ』『犬が射抜いた』
・間違い…長瀬が出てくる少し前のスフィーの台詞
     「じゃあ、長瀬さんが言ってるのが間違いって言うの?」
・昔話 …長瀬が昔カードを使った時についての台詞
     「…昔は『梨は無し』っていう、…」

『犬』『間違い』は素直な使い方ですが、『昔話』は

  ・・・・ ・・
『…むかしは『なしはなし』っていう、…』
と、少しひねった使い方してます。

     ・・・ ・
#最初は『昔はな。しかし…』みたいな使い方を考えたけど、話しに合わなか
#ったので却下

三題噺は、お題の単語をそのまま使う以外にも『言葉遊び』的に単語を使うと
アイデアが広がって面白いですよ。
ただし、やりすぎると、苦しいですが(汗)

なお、『馬が埋まった』『猫が寝込んだ』『犬が居ぬ』は昔のマンガにあった
のが元ネタなので、知ってる人もいると思います。

#『ネコが寝込んだ、アナコンダ!』といえば分かる人は分かる…ハズ



ぢゃ、そういうこって。でわでわ〜(^^)/