最期の回想 (9月のお題:「〜にひかれて」) 投稿者:Phantom 投稿日:9月4日(月)00時03分


  「大変だ、会長が事故に!」
  「なに?」
  「大通りでお子さんと一緒に、車に轢かれて重体らしい」
  「スグに奥様と前会長に連絡を!」



   最期の回想

        9月のお題「〜にひかれて」



思えば、あれはいつのことだっただろう…

中学の頃は結構荒れていたな。オフクロやオレをほったらかして隆山へいっちまった

オヤジへの反発もあったろうが、悪い遊びに惹かれていたのも事実だ。

なんでもオヤジのせいにして、自分の殻に閉じこもって…

オフクロがいなければ、今のオレはいなかっただろう。



  「耕一…
   お前が事故くらいで死ぬわけないよな?
   返事しろよバカヤロー…」



大学在学中にオヤジが死んだ。最初は交通事故って聞いたっけ。

ざまぁねぇな、オレがいまトラックに轢かれて死にかけてるじゃねぇか。

結局、「鬼の血」のことなんか知らなかったオレは、オヤジの真意など知らず…

知ろうともせず…



  「耕一さん…」
  「パパ…」

  「手は尽くしましたが…
   今夜が峠だと思われます…」



楓ちゃん…

楓ちゃんに惹かれて一緒になったのは、前世のせいだろうか?

いや、違う。

オレはオレの意思で楓ちゃんと一緒になったんだ。

楓ちゃんが記憶に目覚めたのは子供の頃だったから、自我と記憶が混ざっていたということ

もあるかもしれないが、少なくとも楓ちゃんはオレを愛してくれている。



  「耕一お兄ちゃん… またあたしの頭なでてよ…
   一緒にトランプで遊ぼうよ…」



千鶴さんから会長職を継いだのも、子供が出来たころだったか。

古狸どもは、オヤジの雷名にビビってたな。

千鶴さんはあんなにナメてたくせに、オベッカつかってきやがって。

就任挨拶じゃ、トチってかなりひかれたけどな。

ま、鶴来屋も息子が成人するまでくらい、千鶴さんがなんとかするさ。

ごめんな、また重荷背負わせて…



  「耕一さん… また私の心を凍らせるのですか…?
   あなたが楓を選んだとはいえ、私はまだ…」



「耕一、久しぶりだな」

「ケッ、お迎えがオヤジとはな。

 せめてオフクロ連れてくるくらいしやがれってんだ」

まぁ、オヤジに手を引かれて川を渡るのも悪くないか。

「そうボヤくな。だがな、お前がこっちにくるのは、まだ早すぎるんだよ。

 楓や千鶴、梓に初音も、まだまだお前が必要なんだよ。

 お前はオレと違って、鬼を制御したんだ。自己治癒能力も高い。

 あきらめるな。まだお前には、息子の鬼の血を制御させるという仕事があるだろう?」

「…そうだな…

 ここで逝っちまったら、またオヤジの時の二の舞だ。

 悪かったなオヤジ、心配かけちまって」

「息子の心配をするのは親の仕事だ。

 さぁ行け」

「…何十年かしたら、酒でも交わそうや」

「ふ、一丁前に…」


そしてオレは、現世の光に惹かれて、戻ってきた…



  「先生、脳波が正常に!」
  「脈拍、規定値にのりました!」