水瀬名雪は部室で他の部員と供に、
競技大会のへの練習プログラムを顧問と組んでいた。
名雪はもうすぐマラソンに出場するのだ。
それも、全国大会である。
名雪はふぅっと、息を吐きながら背伸びをした。
「水瀬、練習は今までよりもキツくなるが…お前なら大丈夫だろう」
「はい、先生。頑張りますっ」
名雪は力を込めて明るい声で言った。
「よし、早速トレーニングをするぞ、今日は35kmからだ」
「はいっ!」
名雪は運動場に出て、準備運動を始めた。
準備運動が一通り終わると、名雪は原付に乗った先生と供に、
校門から出て、ものみの丘へと走っていった。
フォームを整えながら呼吸を無意識のうちに整えていく。
「水瀬!もっとペースをあげろ!!」
顧問に言われ、意識的にペースが下がらないように気を付けながら、
走る。
只只走る。
それは自分でも走っていて楽しいからだ。
走ることは楽しい。
それに気付いたのは小学校の頃だ。
祐一に拒絶され、無気力気味になっていた自分が集中できたもの。
それがマラソンだった。
悲しみを忘れようと走った。
だが、いつの間にかそれが自分にとってとても大切な時間に変わった。
走ることは楽しいのだ。
そう思ったとき、名雪は中学に入ったら陸上部に入ろうと思い始めていた。
さすがに最初の頃は回りとの実力の差に驚かされた。
と言っても、自分と同じくらいに始めた部員も居たので最初はその部員達と、
一緒に練習したりしていた。
でも、自分はもっと速くなろうとした。
だから努力した。
マラソン専門誌も買うようになって、色々学んだ。
何時しか名雪は陸上部一のトップランナーになっていた。
それは才能でもなんでもない。
努力。
日々の惜しみない練習によるものだった。
「水瀬!ペースが落ちているぞ!」
考え事をしていたせいでペースが落ちたらしい。
気を付けてもう一度ペースを上げる。
息が苦しい。
でも、もっと負担を掛けなければ。
負担を掛けて、鉄の心臓を作り上げるのだ。
心臓が破裂しそうになるくらい負担を掛ける。
もっと、速く成るために。
もっと長く走れるために。
〜水瀬家〜
「ただ今〜」
「あら、名雪。お帰りなさい、もうすぐご飯よ、早く着替えてらっしゃい」
「はーい」
名雪は2階へ上がり、着替えを済ますとリビングへ降りた。
「名雪、もうすぐレースなのか?」
祐一が声を掛ける。
「駄目だよ、祐一。帰ってきたらお帰りさない、だよ」
「おかえり」
「ただいま」
「で、レースもうすぐなのか?」
「うん、あと1ヶ月後くらいかな」
「それで帰りが遅いのか」
因みに、今は8時半だ。
「うん、…遅かったら先に食べててくれてもいいんだよ?」
「気にするなよ。俺は家族揃って食べたいんだ」
本当は名雪と一緒に食べたいんだ、
と言い書けたが恥ずかしくて祐一は言わなかった。
「まぁ、無理だけは止めておけよ、怪我したらレースに関わる」
「うん、ありがと。祐一」
〜レース当日〜
特に怪我も故障もしないで当日の地区予選まで来れた。
そして、お母さんに尤も効率の良い食事に、この2週間前から変えている。
体調も良い。
天候は曇り。
ベストコンディションだ。
雪国生まれのため、寒い方が走りやすい。
今日こそはいける。
1年の時は50位だった。
悔しかった。
学年が上の者も居るから当然と言えば当然なのだが。
それでも悔しかった。
それから1年間。
鍛えに鍛えた。
今日こそは入賞してみせる。
プレッシャーがある。
でも、そのプレッシャーすら楽しめるようになっている。
今日こそは…。
お母さんは仕事を休んで来てくれた。
祐一も来てくれた。
真琴も来てくれた。
去年とは違う、今年は祐一が応援してくれている。
だから…今日こそは――。
アナウンスが流れた。
後10分で始まる。
ウォームアップは万端。
顧問はいつも通りに行けと言った。
スタートラインに立つ。
あと、7分。
あと、6分。
緊張する。
あと5分。
あと4分。
もし…抜かれたら…。
あと3分。
そんな弱気でどうする。
あと2分。
今日こそは勝つんだ。
あと、1分。
集中しろ。
――スタート!
10km地点。
先頭集団に入り込んだ。
それも先頭を走っている。
プレッシャー。
ランナーの強敵。
負けない。
負けてなるものか。
20km地点。
先頭集団の真ん中になっている。
マグロのようだ。
駄目だ、このままでは。
30km地点。
先頭集団の後方。
駄目だ。
このペースは駄目だ。
このままでは。
35キロ。
先頭集団に着いているのが不思議なくらいだ。
息が苦しい。
抜かれるたびに泣きそうになる。
厭だ。
もう駄目だ。
今年も駄目なのか。
今年は――祐一も見ているのに。
祐一――。
そうだ、祐一だ。
何処に…。
居た。
「名雪ぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
祐一。
「頑張れぇぇぇぇぇ!!!!!」
うん、私、頑張るよ。
祐一が……祐一がずっと応援してきてくれたの知っているから。
言わなくても解ってたから。
もう―――負けないよ。
――ペースが上がる。
「名雪ーー!しっかり!!」
お母さん。
うん、しっかりするよ。
――ペースが上がる。
苦しくない。
「名雪!!頑張りなさいよぉ!!」
真琴。
うん、頑張るよ。
―――ペースが上がる。
気が付けば前には誰も居なく――。
――後ろには先頭集団が居た。
・
・
・
・
ゴールッ。
1位で入賞。
やったよ。
祐一。
祐一やお母さん真琴。
みんなが応援してくれてたんだね。
有り難う。
みんな。
嬉しいよ。
みんな。
「名雪、やったわね」
お母さん。
「名雪! 凄い!! 凄い!! 漫画みたいだったよ!」
真琴。
「名雪!―――良くやったな」
――ゆういち。
有り難う。
有り難う、みんな。
みんな。
「名雪、泣くなよなぁ、優勝したんだしさ」
「うん……御免…ね」
「なんで謝るんだよ」
「うん…変だよね…ひっく」
「ホラ、名雪これで涙拭けよ」
祐一がタオルを渡してくれる。
「お前は俺の彼女なんだからさ」
有り難う。
本当に有り難う、祐一。
一通り泣き終わった私は優勝台にたった。
人より高い位置でメダルを貰い、トロフィーを受け取った。
記者の人達が私を取り囲んだ。
色々な事を聞かれた。
有る記者がこう聞いた。
「最後のラストスパートは何を考えて走ったの?」
私はこういった。
「―――応援してくれた、みんなの事ですっ」
(完)
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後書き
つーわけで、助造さん主催のSSバトル2作目。
もー、ネタ無いですよ。
さすがに。
矢張り、ぽんぽん量産する人は凄いですわ。
真似出来ないですね。
今回は宿敵夏樹さんを倒すために、
他のSSで使おうと思ってたネタを披露したわけです。
……他の連載どうしよう(汗)
投稿2回目のATAでした。
あと、俺がシリアス書けないと思ってる人達がほとんどなので、
今回はシリアスに。
大した内容でなくて御免なさい。
全国大会とか適当に書いてるんで、間違ってたら御免なさい。
へっぽこランナーで御免なさい。
……俺も速く成りたいです。
では。
http://www.asm.ne.jp/~atayan/
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