先日、気紛れを起こして故郷に帰ってきた。 とはいっても、僕の生まれた町は何の変哲もないただの新興住宅地だった所だ。 僕は、表向きは商社を興して成功を収め、ある程度の富を手に入れたことになっている。 その金で、親が住んでいたアパートを引き払わせて白亜の豪邸に押し込めた。 父も母も、涙を流して僕の孝行息子ぶりに感謝していた。 暮らし振りも僕の金でいくばくか楽になったらしく、自分の息子の孝行ぶりを他人にしきりに話していた。 社会的評価も高い、この町一番の出世頭。それが僕のこの町での評価らしい。 実際にはそんな大したことではなかった。 電波の力を手に入れた僕は、カンニングペーパーを見る要領で名門大学の難関学部に入学。 単位を取るのもそこそこに、割の良いアルバイトや仕事を渡り歩きひと財産を溜め込んだ。 そして、溜め込んだ財産で筋者やマフィアなどを相手にした仲買人になった。 僕を害するものはすべて自ら死を選んだ。 僕に対して刃をかざせない、引き金を引けない。 更に、僕は悪運が強いらしく今まで事故らしいものに遭わなかった。 法も、力も、僕を止められない。 僕は現代に生きる怪物となった。 そして、僕は故郷に錦を飾るという名目でこの町に帰ってきたというわけだ。 僕を出迎えてくれたのは、着飾った母と父。 入れ替わりで銀婚式の記念旅行に行くという話だ。 僕は彼らの浮かれ姿を見送ると、一人、真新しい家の中に引きこもった。 僕は、石膏の匂う物置小屋に入り、アルバムを探した。 少しした後、両親が買ったらしい贅沢品の中に古ぼけたビニールカバーのアルバムがあった。 何故良い思い出の無い故郷に帰ってまでこうしたかったのか。 こうやってアルバムに向かっている時点で自分でも分かっていない。 ただ、僕を生んだという事実しかない親がこの家からいなくなる時。 その時が自分を振り返る好機だったから。それだけだろう。 電波が起こす気紛れの一つだ。それに従って生きてきて、上手くいった。 アルバムの中には幼い頃の僕の写真が沢山貼られていた。 幸せそうに笑って、両親の間に挟まっていたり、一人ではしゃいでいたり。 それが年を経るにつれてだんだんと微笑みに陰りが生まれ、浮いていく。 年中行事の中で僕が写っている写真。 親がせがむので僕はそれを学校の写真係から買って来て渡していた。 機械的に僕が色あせていく様子をアルバムは語る。 高校2年の写真でふと手が止まった。 体育祭の写真、皆が弁当をおのおのの共と食べている時だ。 僕は写真の片隅で一人、僕が自分で作った弁当を食べている。 その光景の脇に、瑠璃子さんがいた。 僕と同じように、寂しそうに弁当を食べていたのだ。 そして、その先には僕がいた。 僕は、彼女の視線の先にいたのだ。 その瞬間、なんだか哀しくなった。 彼女との出会いがあの日でなくこのときだったら、違う未来もあったろうに。 その次のページからは、怪物となった僕の写真が胸焼けするくらい華々しい過去とともに並べられていた。 僕は、それをすべて見ることなくページを閉じた。 怪物の卵は生ぬるい温度で暖められ、孵化した。 熱くても、冷たくても孵化することはなかったのにだ。 卵がかえったのは、世界が望んだからだろうか? 答えは、何処にも無い。 僕は、生まれたことと、世界が僕にしたこと、そして自分の罪を悔いて泣くしかなかった。 明日になれば、僕は僕を殺そうとする人たちを平気で殺すだろう。 僕は、老いさらばえ、衰えるまで彼女の面影を求めつづける。 冷たく、哀しい、死の瓦礫のなかに・・・・・・・。 僕は、絶望の中で眠りに落ちていた。 皮肉にも、月の下で彼女に膝枕されている夢をみた。 ただそれだけだった。 ------------------------------------------------------------------- お題:妖怪、子供 追申:この作品の題名の原点がわかった人はメールください。 正解者にはもれなく何かをプレゼントします(笑)