何故か、寝付けなくて外に出た。 底のない暗闇に導かれるように、高台の公園へ。 何かがあるような気がしたからだ。 街頭の明かりの下、誰もいない公園でブランコが揺れていた。 僕はそれに腰掛け、ぴりぴりした神経を少しでも休めようと空を見上げた。 そんな時だ。 雰囲気とか気配とかそういうのではなく。 それは、『月の匂い』。 月光性の電波を纏い、 彼女は僕の前に現れた。 真夜中の公園、高ぶる神経のことなどすっかり忘れてしまった僕に、彼女は呼びかける。 「こんばんは、長瀬ちゃん」 いつものように僕は言葉を返す。 僕の自信のない顔は彼女にどう写っているのだろうか? 「こんばんは、瑠璃子さん」 「こんなところで…」 彼女が口にした言葉に合わせるように僕も口を開く。 秘密を共有した二人が、秘密の扉の前で符号を口にするかのように。 「…会うなんて」 「…会うなんて」 そして二人でくすくすと笑いあう。 「何をしてたの?長瀬ちゃん」 何をしていたのでもない。 でも、何か理由が欲しかった。 苦しむ僕の神経を隠すための何かもっともらしい理由が。 だから、僕は何とはなしに口にした。 「空をね、見てたんだ」 「空?」 うつろな目で問い返す瑠璃子さん、その横顔を見ることが僕の生きる理由なのかもしれない。 そう思いながら言葉を続ける。 「うん。月が出てないなって」 そして、瑠璃子さんは少し笑った。 「今夜は新月だから…。だから星がたくさん見えるよ」 そう言って空を仰ぎ見る瑠璃子さんは、 小さな星々に輝きの場を与えるために地上に降りてきて、 少女に化身した月そのもののように見える。 僕は、太陽になれるだろうか? 僕は彼女を照らす太陽になれるだろうか? そんなことを考えてしまう。 自分の弱さはよく分かっているはずなのに、彼女の為に大それたことをしてしまおうとする自分がいる。 「行こう、長瀬ちゃん」 「行くって何処へ?」 「何処だっていいよ。長瀬ちゃんと一緒なら」 でも、それでもいいと思った。 「…なら、行こう」 気紛れな月の手をとって、僕は歩きだす。 世界を照らし、彼女とともにある為に。 「私は長瀬ちゃんの月だから…」 ------------------------------------------------------ お題:つき ジャンル:祐介、瑠璃子、シリアス これは、私の尊敬する篠原ヌルさんの作品の編作です。(本人に許可はとってあります) 彼は一時活動を休止していましたが、またホームページを作って雫とKEYの二次創作をしています。 興味のある人は、下のアドレスから飛んで彼の作品を読んでください。 きっと、気に入ってもらえると思います。http://www.interq.or.jp/asia/cocoon