降りる月(revised edition.) 投稿者:ALM 投稿日:9月30日(日)23時48分
 何故か、寝付けなくて外に出た。
 底のない暗闇に導かれるように、高台の公園へ。
 何かがあるような気がしたからだ。

 街頭の明かりの下、誰もいない公園でブランコが揺れていた。
 僕はそれに腰掛け、ぴりぴりした神経を少しでも休めようと空を見上げた。
 そんな時だ。

雰囲気とか気配とかそういうのではなく。
それは、『月の匂い』。
月光性の電波を纏い、
彼女は僕の前に現れた。

 真夜中の公園、高ぶる神経のことなどすっかり忘れてしまった僕に、彼女は呼びかける。

「こんばんは、長瀬ちゃん」
 いつものように僕は言葉を返す。
 僕の自信のない顔は彼女にどう写っているのだろうか?
「こんばんは、瑠璃子さん」
「こんなところで…」
 彼女が口にした言葉に合わせるように僕も口を開く。
 秘密を共有した二人が、秘密の扉の前で符号を口にするかのように。

「…会うなんて」
「…会うなんて」
 そして二人でくすくすと笑いあう。
 
「何をしてたの?長瀬ちゃん」
 何をしていたのでもない。
 でも、何か理由が欲しかった。
 苦しむ僕の神経を隠すための何かもっともらしい理由が。
 だから、僕は何とはなしに口にした。

「空をね、見てたんだ」
「空?」
 うつろな目で問い返す瑠璃子さん、その横顔を見ることが僕の生きる理由なのかもしれない。
 そう思いながら言葉を続ける。
「うん。月が出てないなって」
 そして、瑠璃子さんは少し笑った。
「今夜は新月だから…。だから星がたくさん見えるよ」

 そう言って空を仰ぎ見る瑠璃子さんは、
 小さな星々に輝きの場を与えるために地上に降りてきて、
 少女に化身した月そのもののように見える。

 僕は、太陽になれるだろうか?
 僕は彼女を照らす太陽になれるだろうか?

 そんなことを考えてしまう。
 自分の弱さはよく分かっているはずなのに、彼女の為に大それたことをしてしまおうとする自分がいる。

「行こう、長瀬ちゃん」
「行くって何処へ?」
「何処だっていいよ。長瀬ちゃんと一緒なら」
 でも、それでもいいと思った。
「…なら、行こう」

 気紛れな月の手をとって、僕は歩きだす。
 世界を照らし、彼女とともにある為に。




「私は長瀬ちゃんの月だから…」
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お題:つき
ジャンル:祐介、瑠璃子、シリアス

 これは、私の尊敬する篠原ヌルさんの作品の編作です。(本人に許可はとってあります)
 彼は一時活動を休止していましたが、またホームページを作って雫とKEYの二次創作をしています。
 興味のある人は、下のアドレスから飛んで彼の作品を読んでください。
 きっと、気に入ってもらえると思います。

http://www.interq.or.jp/asia/cocoon