まあ、紆余曲折もあったけど上手く行きそうね。 坊やが暴走しなけりゃ大丈夫でしょ。 さあ、ノリまくるわよー! 僕と彼女はコウサクする (5) 視聴覚室が騒がしくなってくる。 少し前に友人たちの手を借りてセッティングは済ませてある。 志保はブースにあたる教卓に視線を向ける。 志保ちゃん情報とフライヤーのお陰で客の入りは期待できる。 あとは、DJがどうしてくれるかだ。 「よお、上手くいきそうか?」 友人の一人が志保に話し掛けてきた。 「なんとか、知り合いのクラブから人借りてこれたから」 「やっぱり、年上なのか?」 「違うわ、私たちと同じで高校生よ?違う学校だけど」 「そっか。やっぱり上手い人は駄目なのかね」 「知らない・・・上手くやってくれること願うしかないわね」 「私、こういう所あまり知らないから、どきどきする・・・」 もう一人の微笑ましい言動に、合方の男の頬が緩む。 「心配すんなって、あかり。こういう所は思った通りに楽しめばいいんだよ」 「浩之は行ったことあるんだ・・・」 もう一人の幼なじみが合いの手をいれる。 「ああ、興味あったしな」 軽く受け流して彼は時計を見る。 午後六時。 中夜祭が始まる時刻だ。 この学校は昼の出し物と夜の出し物がある。 志保が企画したこのクラブイベントは後者のほうにあたり、他のクラスのライバルとしてはお化け屋敷などがある。 幸い視聴覚室は教室群の離れにあり、騒音などで苦情を受ける心配もない。 好き勝手に出来る環境とそれを支えてくれる友の存在は、彼女にとってまさに天の配剤と言えた。 志保はふと考えた。 偏った音楽が大好きだった男のほうのDJは制限をどうやって乗り切るだろうか。 その結果によっては、盛り下がるイベントになってしまうことは間違いない。 祈るような気持ちで、志保は借り物の到着を待っていた。 扉が開き、祐介と瑞穂が姿を現した。 「来てくれてありがと、早速だけどやってもらえるかしら?」 志保は二人に声をかける。 「・・・分かってる」 「大丈夫です」 おのおのが了解の返事を返すと、担いできた携帯用の音源を接続系統につなぎはじめた。 レコードが回る。 視聴覚室の四隅にすえつけてあるテレビに流れるのはよくある環境ビデオだった。 滝の音、河のせせらぎ、木漏れ日。 それらにあわせてジャズの音色が響き渡る。 テレビの照り返しが真っ暗やみに緑色の照り返しを浮かべる。 一瞬、志保の顔に動揺が浮かぶ。 だが、その光景はすぐ後に一変した。 暗闇の中で演出を待っていた観客たちが色めきだしたのだ。 ジャズのレコードのテンポが上がり、ノイズが混じりだした。 そのノイズと同調して環境ビデオが灰色に歪む。 ノイズが次第にリズムを取り出した。 カクテルライトとノイズの奇妙な調和。 彼が喫茶店で思い付いたのはジャズをacid風味にすることによって新しいダンスミュージックに仕立て上げること。 ジャズとポップスを混ぜて生まれたフュージョンというジャンル。 別名クロスオーバーと呼ばれるものだ。 彼はアドリブを混ぜて高速なテンポをミキサーで刻む。 小細工無しの彼の才能。 交錯させる技術の勝利が場を盛り上げる。 志保も、仲間たちも輪を作って盛り上がりの波に乗る。 彼と彼女はそんな光景を、必死で手を動かしながら充実感とともに眺めていた。 彼と彼女は、恋愛感情によって交じり合うことはなかった。 ただ、運命と目的意識を交錯させあって目指す道を作り出した。 それが今の状況。 美しき世界を作り出した。 熱狂はいつ果てるともなく続いた・・・・。 ------------------------------------------------------------------ 滑り込みで、終わらせました。 私が言いたいのは、”瑞穂シナリオでは、祐君成長してないんじゃ”ってことです。 突貫工事がここまで見苦しいものになるとは思いませんでした。 ただ、どんな形であれ、作品を終わらせることが出来た自分を誉めてあげたい気分です。 きれいではないかもしれませんが。 お付き合いくださった皆様、ありがとうございました。 (8月競作、夜の学校&クロスオーバー)