QUICKSILVER THREADS. 投稿者:ALM 投稿日:6月30日(金)17時48分
  雨の中を、一人で歩いている。
  紛れもない暗闇の中を、一人で歩いている。
  
  足をひきずる音だけが聞こえている。

  コートの中に溜まった湿気が、僕の肌の上で手を摺る。
  発散されるべきものが、肌の上にまとわりつく。
  
  言い様のない不快感。
  視界の自由が聞かないから、いつもより強いような気がする。  

  それでも、漠然と歩いている。
  目的があったような、無かったような・・・。
  
  そんな事を考えながら、足を進めている。
  
  今、何かを踏み付けた。
  卵の殻を少し厚くしたような、そんな感じだ。
  
  どうでもいい。
  
  一瞬だけそんなことを考える。
  
  一歩、一歩、また一歩。
  アスファルトと靴底が擦れ合う感触。
  
  痛い。
  
  痛い。
  
  不快だ。
  
  何故、僕は歩いているのだろう。
  
  どうでもいいじゃないか、そんなこと。
  
  また、繰り返した。
  今度は少し長かったような気がする。
  

  足元の感触が柔らかくなった。
  目の前には、ぬかるむ不毛な赤土。
  少し遠くに、林の輪郭が見える。
  
  中途半端に降りしきる雨が、街灯の光を反射して光の線を描く。

  もし、空から降り注ぐものが水の粒ではなく水銀だったとしたらもっときれいな線
が見れただろう。
  
  そんな事を考えてみる。
  
  空から降ってきた水銀が、地面に染み込むことなく地表にたまり、海を作る。
  足を取られてまともに歩けなくなるから、自然と人がいなくなる。
  そして、何処かの誰かが垂れ流した排気ガスとそれが化合して、銀色の海が白い粉
だけの世界に生まれ変わるんだ。
  猛毒の白い粉の上に、人々の死骸がふりつもる。
  一人、また一人、白い粉を吸い込んだ人が、死んでいく。





 
  素晴らしいじゃないか。
  
  
  
  
  
  機会があれば、試してみよう。
  そんな事を考えながら、僕はぬかるみの中を進む。
  スニーカーが、泥をひきずっていく感触が、さっきと同じように伝わってくる。
  
  林らしきところまで来たのを認めてから、僕は真上を見上げた。
  
  空間の一点に向かって背を伸ばす木々を感慨無く見上げる僕に、水滴の粒が当たる。
  
  僕は、その瞬間、ここに来た理由を思い出す。
  
  さっさと済ませることにした。
  
  
  
  
  僕は念じる。
  暫くすると、雨の音に混じって濁りが混じった金切り声が聞こえてきた。
  僕はもっと強く念じてみる。
  金切り声の数が次第に増え、騒がしくなった。





 
  ああ、引き延ばしたままだから騒ぐんだね。
  いいや、確認したいことはもう分かった。
  ちぎれちゃえ。




  
  もっと強く念じると、金切り声の合唱が止まり、雨音が戻ってきた。
  同時に、何かが落ちてきたような音があたりから響いてきた。
  
  地面が本当にぬかるんでるから、少し、きたならしい。
  
  落ちてきたものの中で、一番手近なものに歩み寄る。
  かがみこんで、それを手に取る。
  
  黒い羽をまとうそれは、まだ生暖かかった。
  当たり前だ、まだ生きているんだから。
  生物学的に。
  
  
  
  何の感慨もなく僕はそれの頸をねじる。
  思い切り力を入れると、ぽきりと音がなった。
  
  僕はそれを投げ捨てると、また歩き出した。
  
  
  
  
  これで分かった。
  やっぱり彼女は嘘をついていたんだ。
  雨の日でも、よく届くじゃないか。
  他にも僕は嘘をつかれたのだろうか?
  
  今はそれを確かめる機会がない。
  
  
  
  機会が無くても、僕は乾いている。
  このうっとおしい雨の中で、僕は少しだけ潤った。
  
  次に何をしようか。
  
  僕はそんなことを考えてみる。
  
  
  
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   こんにちはー。
   久しぶりに投稿しますALMですー。
   
   作品の傾向がおもいっきり偏っていることに悩んでいたのですが、
 開き直ってみることにしました。
 
   読んでくれた皆様、ありがとうございました。
   
   

タイトル:QUICKSILVER THREADS
コメント:競作 (お題 『雨』)
ジャンル:ダーク/雫/祐介