末路 投稿者:akia 投稿日:8月31日(金)21時24分
学校のクラブ棟にある小ホール・・・夜八時。

「なんだ、その程度かよ」
オレはそう言い、ため息をついた。
「そう?そんなに怖くなかった?」
車座になった机の隣で、レミィがそんな事を言う。
「ああ」
「でも、みんな・・・震えてるよ」
そう言われ、みんなを見まわす。いわゆる【納涼怪談話】をやる事になったのだが、順番
で話しが進むにつれ、一人二人と閉口し、まともな状態で残ったのはオレとレミィ、先輩
にセリオだった。ちなみに・・・
『はわわわわ、もう駄目ですぅぅぅぅぅぅぅ』
と会が始まった途端、マルチは恐怖に顔を引きつらせ、どこかへと消えたままである。
「たく、話しなんだから怖がる事なんてないだろうに」
「うっさいわねヒロ!あんたが異常なのよ!」
あかりと手を繋ぎ、震えている志保がそんな事を言う。
「そうや、藤田君が変なんや!」
委員長・・・怖さで切れるのは言いが、松本達を殴り倒すのは頂けないぞ。そして、視線
を変えれば、理緒ちゃんに葵ちゃん、琴音ちゃんは言うに及ばす、ほぼ全員が、オレの事
を変な目で見ている。
「あのな・・・だったらオレを怖がらせてみろよ、もし出来たらなんでもしてやるぜ」
とオレが言うが、みんなは閉口し、しばし考える。もっとも、今までの話しぐらいでは、
先輩と経験した事に比べて、比較するまでもないけどな。
「みなさま、お飲み物をご用意しましたので」
そんな時、いつの間に用意していたのか、セリオが飲み物を持って来てくれる。んー、気
が利くよな。ほぼみんなの好みを熟知しているのか、それぞれ別なモノを運んでくれるセ
リオ。そして・・・
「それでは」
一礼をし、セリオは出て行く・・・ちょっと待て!
「!」
みんなの視線が一ヶ所に集まる。それはオレのまんまえの席だ。そこには誰も座ってない
のに、セリオは透明の液体・・・たぶん水の入ったグラスを一つ置いていったのである。
「こ、これは一体」
そして次の瞬間、唐突にそのグラスは弾け飛んだ。
「こ、琴音ちゃん?」
恐る恐る問い掛けると、琴音ちゃんは悲壮な顔で首を振る。続けて先輩に視線を移せば、
きょとんとしていた。
「じゃあ・・・ごえはいっだい」

一方・・・

「頭を撫でて貰えますでしょうか・・・ね」
クラブ棟の薄暗い廊下を歩きながら、セリオは独り言のようにつぶやく。
「そう言えばマルチさん。掃除用のロッカーに入られて何をしているのですか?」
「は、はい・・・セリオさん?」
廊下の脇に置かれていたロッカーから、どことなく薄汚れた風のマルチが出てきた。
「はい・・・そう言えばマルチさん。小さなヒビのある強化ガラスのグラスって、お湯を
入れると破砕するって知っていました?」
「え?」
セリオにいきなり話を振られ、マルチは?と首を傾げた。
「話が伝わらないのですけど・・・あのセリオさん?何処に行くんですか?」
マルチが再び問う前に、セリオは歩を進める。
「私ですか?」
呼ばれて立ち止まったセリオは、マルチに振り返る。
「はい」
「駄目押しですよ」
「え?」
次の瞬間、セリオは頭上にあったブレーカーを切ったのである。

そして・・・真っ暗闇となった空間に、藤田浩之の絶叫が木霊したのであった。



http://www1.sphere.ne.jp/retorono/index.htm