お鍋in闇 投稿者:akia 投稿日:2月4日(日)17時24分
「そう言うわけで、みんな食べられるモノを持って、オレの家に来てくれよな」
志保の提案に乗る形で、オレはみんなに声を掛けていた。内容は伝統の鍋料理・・・闇な
べである。

そして・・・

「先輩のは無しね」
当日の夕方。玄関で待機していたオレは、何やら動く巾着袋を持った先輩に声を掛けたの
である。
「・・・」
「『どうしてですか?』と言われても・・・ひょっとしなくても、それ生き物でしょ?」
「・・・」
コクコクと肯く先輩。やっぱり玄関で張っていて正解だったな。
「とにかく、生き物はダメ」
「なら私は良い?」
「綾香・・・何持ってきたんだ?」
「秘密よ」
オレの問いかけに、綾香はひらひらと軽そうな小袋を見せる。まぁ少なくとも先輩のより
はマシだろう。
「さて二人とも入って、全員揃ってるから」
「それじゃお邪魔しまーす」
「・・・」
「悪いけど先輩のは入れないでね」
「・・・」
オレのセリフに、先輩はひどく残念そうな顔をしたのであった。
〈 〉
集まったのは、オレにあかり、志保と雅史、委員長とレミィに理緒ちゃん、先輩と綾香と
琴音ちゃんに葵ちゃん・・・そして、メンテンナス中のセリオの代わりにマルチだ・・・
代わりになるかは不明だが、先輩と綾香が参加する為の条件でセバスチャンが連れて行く
様に言ったらしい。
「さてみんな揃ったとこ」
「と言うわけで、闇なべタイムよ!いいみんな、箸をつけたモノは責任持って食べるの
よ!それじゃレディゴー!」
「コイツは」
人の話を聞かない、相変わらずムカツク志保の仕切りの後、徹底的と言う事でブレーカー
が落とされ、部屋の電気が消えた。そして、各々がなべから何かを取っていく。・・・ど
うでもいいが、既にわけの判らない異臭が漂いまくっているのは気のせいか?
「えーと、もち巾着かしら・・・なにコレーッ!中身チョコじゃない」
最初に響いた声は志保のだ。
「あ、それウチや」
ぽつり委員長が洩らす。
「ちょ、ちょっと!なんでこんなモノを入れるわけ!」
「甘党やからな」
さも当然のように言う委員長。
「あのね!少しは人の身になっ」
「か、辛いです。このタマゴ」
せき込みながら琴音が辛そうに言う。
「あ、それわたし。黄身の部分にマスタード入れといたの」
「長岡さん!自分の方がひどいんやないかい!」
「えー、わたし辛党だから」
当てつけの様に言う志保。そして悪口雑言が始まる。まぁこっちは無視して・・・
「なんかパサパサした束の中に、ネバネバしたモノがいっぱいですぅ」
「え、マルチは別に食えないんだから構わないんだぞ」
「でも、せっかくのご招待ですし、せめて気分だけでもと思って・・・」
律儀なのヤツだ。
「とにかく顔を洗って来いよ」
「・・・」
「『私が手伝ってきます』そう・・・それじゃ頼むよ先輩」
「・・・」
「は、はい」
そして、パタパタと暗がりから出ていくマルチと先輩。ちなみに、臭いとマルチの言葉か
ら判断すれば、箸で掴んだモノは間違い無く納豆である。
「・・・それにしても、誰だ納豆なんて入れたの」
「わ、私です・・・納豆・・・安かったから」
「理緒ちゃん・・・」
そして、一同が引きまくったのである。
「あ、あ・・・コレおいしいね」
気まずい雰囲気を察し、あかりが声を上げた。ナイスだあかり。
「あかりのはなんだ?」
「え、おもち」
「それはわたしです!」
気合を入れて葵ちゃんが言う。別に気合を入れなくてもいいのに。
「ひ、浩之!なんか凄いモノが入っているんだけどさ」
「なんだ雅史?」
「たくあん」
マジか!
「OH、それ私のね。日本の心。元気に食べるね」
ある意味レミィ以外は入れんだろうな。
「だとよ雅史。遠慮無く食ってくれ」
「そんな〜」
「それよかさ、葵ちゃんとレミィは何食ってんの?」
「わたしはお肉です。少し匂いがあって固いけど、野趣があっておいしいですよ」
その言葉に、【カタッ】とあかりが少し動いた様な気がした。
「・・・」
「どうかしました先輩?」
「いや別に・・・レミィのは?」
「私?私のは魚ね」
「あ、それなら僕のだよ。タラの身」
「OH!タラね。タラちゃんの肉ね」
そして一同が何かを想像し、はたと動きを止める。
「みんなどうしたの?」
「いや別に」
多分・・・悪気はないのだろう。きっと。それにしても、オレ以外みんな食っているハズ
なのだが、
「オレのスペシャルに当たったヤツはいないのか?」
疑問に駆られ、オレはみんなに問いかけた。
「ん、浩之なのこの変なお肉入れたの」
「あ、綾香・・・多分ソレ」
「なんの肉なのよ!」
「いや・・・ちょっと・・・」
「な、何よ!気になるじゃない」
「オレの口からは言えない。気がする」
「ひょっとして浩之ちゃん・・・この間のおみやげで送ってきたお肉?」
「そう」
あかりの問いに短く答え、オレは沈黙した。
「ちょっと何よ!二人とも」
さすがに危機感を感じたらしく、綾香のセリフには焦ったモノが入り混じる。・・・本当
なら言いたくないが、
「落ち着いて聞けよ」
オレは、つとめて冷静な声で話し掛ける。
「え、ええ」
「その肉な、マムシの肉」
「マ・ム・シ・・・へびーっ!」
そしてドタッと倒れる音が響いた。
「大丈夫ですか綾香さん!」
葵ちゃんが駆け寄る音が響く。
「あ、はは、はははははははははは」
「え?」
綾香が突然笑い出す。いかん!壊れたか!?
「綾香かかかへへへへへへへへへ」
「え!葵ちゃんまでどうしたんだ!」
「いた」
慌ててオレが近づこうとすると、暗がりの中誰かにぶつかる。
「あ、ゴメンな委員長」
「いいんや・・・ウチなんか突き飛ばされて死んでしまえばええ・・・そう思ってるんや
ろ、みんな」
「なーっ!何言ってる委員長!」
「死にたいなら私の砕虎暴流でどうぞ!!」
暗闇の中、異様な気配が増大する。
「琴音ちゃん、ちょっと待てーっ!」
「何慌ててるのヒロユキ?」
「そうですよ、藤田君」
ぺったりとオレに身を寄せてくる影が二つ。レミィと理緒ちゃんだ。対象的な二人に挟ま
れて、オレはウハウハ状態・・・
「じゃなくて!オレは」
「もう浩之ったら、まんざらでもないくせに」
「ね〜」
「あ、ああ二人とも、そんなにぃぃぃぃぃぃ」
「ダメだ二人とも!」
「お、雅史・・・そうだ言ってやってくれ!」
「うん。浩之は僕のモノだよ!」
「ぶーっ!何言ってる貴様ーっ!」
「僕はただ、自分の気持ちに嘘をつけないだけなんだよ」
な、何っ!
「く、来るな!雅史ーっ!」
逃げなければ、ヤられる!
「だったら、三人で楽しみましょ」
こえと同時に、細い腕でがオレの腰に絡みつく。
「な、放してくれ理緒ちゃん!」
「だ〜め」
「ひ、ひぃーっ!」
「浩之ちゃん」
「あ、あかり、助け」
「浮気者」
冷たい、あかりの一声。
「え?」
「わたしと言う幼馴染みで、こんな甲斐甲斐しくて可愛い恋女房がいるのに・・・よくも
女二人も・・・ましてや!男もはべらすなんて、絶対許さないんだからーっ!」
「うわーっ!あかり、モノを投げるな」
暗闇の中、得体の知れない物体がオレめがけ飛んできた。そして、思わず身を屈めると同
時に、オレは手を払い、その場から逃げ出すことに成功したのである。
「い、一体どうなってるんだ?」
とりあえず廊下まで退避し、オレは阿鼻叫喚となった室内に耳を傾ける。
「大丈夫ですか浩之さん?」
「マルチ・・・マルチは大丈夫なのか?」
声を掛けられ、オレは恐る恐る後ろを振りかえった。
「わたしは大丈夫です。それより、何か凄い事になっているようですけれど」
少なくとも、マルチには態度や言葉使いに変な点はない。するとなべを食ったヤツだけ
か?オレは食べてなかったしな。
「ああ、ひょっとして・・・あのなべを」
「怖いの浩之」
「・・・志保もか!」
瞬間的に振りかえれば、目の前に志保の顔があった。暗闇だったが、目も慣れてきたせい
と、近距離のため、志保の表情がはっきり判る。潤んだ目元に、助けを請うかの様な脅え
た表情。男ならギュッと抱きしめて、守ってやりたくなる気分させられる。そしてオレ
は、手を伸ばし・・・
「じゃなくて!逃げる!」
グッと堪えて、オレはさらに外へと逃げ出したのであった。

外に出ると、辺りは夜の闇に包まれていた。もっとも、街灯があるからパニック状態の中
よりは明るいが・・・。
「一体何が」
言いかけて、オレは一人の視線気づく。先輩が一人立っていた。
「せ、先輩、なべ食べた?」
もはや原因と断定して声を掛ければ、
「・・・・・・」
「『マルチさんの事をみていたいましたから、頂いていません』か」
良かった。これで先輩までイっていたら、取り返しのつかないような事態に突入したかも
知れないからな。
「なんで、みんながあんな風になったんだ?」
オレの疑問に、
「・・・・・・」
「え『二三日前に、綾香が手に入れた滋養強壮剤が原因ではないでしょうか?』だって」
先輩はそう答える。
「・・・・・・・・・・・・」
「『どこかの温泉地で作られている、一氏相伝の秘薬を用いて作られている危険な霊薬だ
そうです。それが偶然セバスチャンに送られてきて、それを綾香が今回のタメに手に入れ
たそうです』・・・実はさりげなく、かなりとんでもない代物なんじゃないの?」
オレが言えば、先輩は素直に肯く。・・・否定してほしかった。
「・・・・・・」
「『それでも、入れたのは少量ですから、小一時間程で元に戻るでしょう』か、それなら
ほっとくしかないだろう」
とりあえずホッとし、気を抜いた瞬間。
「ん?」
オレの足元に、妙な感触を感じ、一気に不快感が足元から這いあがってくる。
「な!」
続けて襲ってくるザワザワ感。まるでナメクジが大量に這いあがってくる感じだ!
「・・・・・・」
「『すみません。パピット君が食べて貰いたくて我慢出来ないそうです』・・・
えーっ!」
先輩の言葉に、オレは慌てて下を向く。そこには、人知を超える何かがイた。
「せ、先輩!」
「・・・・・・」
「『本当はおなべに入りたかったそうですが、大丈夫です。浩之さん専用ですか
ら』・・・なーっ!」
次の瞬間、ソレはオレの口の中へと、抵抗も無しに入ってきた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・」
意識が空へと旅立っていく中、オレはこの世のモノとは思えない美味しさに包まれ
た・・・様な気がしたのであった。


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