こたつの中・・・ 投稿者:akia 投稿日:12月1日(金)19時56分
「明日こみパやしな、あんさんとこ使わせて貰いたいんやけど」
「良いわよね、ポチ」
「・・・」
玄関前で由宇と詠美を見ながら、オレは白い息を吐いた。
「今・・・ウチに入ったら死ぬぞ」
『へ?』
二人の声がハモる。
「大志がな・・・酒を飲んで暴れた挙句、窓を砕いて二階から『ガ○ダムー』と叫びなが
ら消えていったんだ」
そしてオレは指差す、真冬の風が『びゅうびゅう』と入ってくる室内を・・・。
「よそ行こうか」
「うん」
「待て・・・オレも連れていけーっ!」
立ち去るように逃げる二人を捕まえ、オレは吠えたのであった。
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「それでどないするんや?」
「ウチは親戚が来てるからダメ」
午後三時。駅前の広場でオレ達三人はたむろっていた。
「玲子ちゃんの所は?」
オレが問えば、
「友達の所で千人針状態や」
「そうか・・・」
知りうる限りでは、一番の安全パイだったんだが・・・。
「だったら、あの子は・・・千紗ちゃんだったわよね?」
詠美がそう言うと、
「無理や、年の瀬やからな」
しみじみと由宇が言う。
「確かに・・・」
「?」
意味が判らない風の詠美だったが、説明するのは気が引ける。
「それじゃ、南さんは?」
「こみパ前日に頼めるわけないだろ。それに・・・」
オレは前に経験したあの場所を思いだし、ぶるっと震えた。
「それにって何よ?」
「それに・・・設営とか手伝わされたりしたらやだろ」
とりあえず言葉を変えて話しておく。
「う、うん・・・そう言えば高瀬さんは?」
「瑞樹なら田舎に、大志は今も行方不明だ」
「・・・そや、良い場所があったやんけ」
黙っていた由宇がポンと手のひらを打つ。
「彩の所や」
「!」
オレは息を飲む。
「そうか、そう言えばこの近くよね。アーケードも近いし、何かと良い所だって言ってた
から・・・そこで決まりね!」
「・・・」
「どうしたんや和樹?顔色悪いで」
「きっと寒いからよ。さて、さっさと行きましょ」
「おー」
「・・・」
絶対に止めておいた方が良い。口には出さずに、オレは心の中でつぶやいたのであった。

「おー温いな。ほんと、こたつは冬の定番アイテムや」
「んー・・・暖かい」
「・・・・・・」
「それにしても、ありがとな彩」
由宇が正面に座る彩に、そう言う。
「いいです・・・このコタツ・・・リサイクルで買ってきたんですけれど、一人ではもっ
たいないくらいの大きさですから・・・」
「ほんまやな。天然目の板に・・・十人家族が団欒出来そうな大きさや。そしたら、コレ
いくらやったんや?」
「四千二百円でした」
「めちゃ安いな」
「凄く安いわね。わたしもリサイクルショップとか行ってみようかな」
「でも、ちょっと焦げた跡とか残っているし、それくらいが相場なのかも知れません」
彩ちゃんがうつむき加減で言う。
「!」
焦げた跡だと・・・オレは瞬間的に、伸ばしていた足を引っ込めた。それと同時に、オレ
の足を何かが掠る。
「どないしたんや和樹?」
「いや・・・正座の練習」
なるべくこたつへ入らないように、オレは正座をしたのである。
「は?・・・まぁええとして、そなら買いだしに出かけ様か?」
「はい」
そして立ちあがったのは・・・詠美を除いた三人だ。
「詠美は?」
「うーん・・・パス。あっそうだポチ。【週間チョムチョム】買ってきてね」
「・・・最後忠告だけど、絶対出かけた方が良いぞ」
「は?何言ってんのよ。この詠美ちゃん様に、こんな寒空の下を歩けって言うの!」
コタツに入ったまま詠美は暴れる。お子様だな。
「和樹、こんなアホほっといて行くで」
「何よ温泉パンダ!」
「それなら仕方ないな。よし、行こう」
いつものケンカになる前に、オレは由宇を引っ張り、彩ちゃんを含めて外に出たのであっ
た。

十五分後。

「詠美、戻ったで・・・って、なんやあんた、そない端の方に座って」
「・・・」
部屋に入った時、詠美はこたつから出て、壁際にぴったりと背を押し付けるかのように体
育座りをしていたのである。しかも『ガタガタブルブル』と震えながらである。
「だから言ったろ、出かけた方が良いって」
「ポチ〜」
一気に走りより、涙目のままオレに抱きついてくる詠美。オレは『よしよし』とばかりに
頭を撫でてやる。
「!何しとんねん大バカ!」
ムッとした声を出す由宇。まぁ事情が判らなければそうだろう。
「彩、こんなアホにナベを食わす必要ない!さっさと用意して、コイツの前で食うたる
わ」
「・・・はい」
言われるがままにキッチンへと消える彩。そして悪態をつきながら、こたつへと入る由
宇。
「なんや冷たいな、そんな足おっつけんな」
「・・・ポチ?」
不安げな顔の詠美。
「ああ」
肯くオレ。ちなみにオレと詠美はこたつから離れている。彩はキッチン。やがて、ようや
く気づいた由宇が、こたつぶとんを剥ぎながら中を見る。そして・・・無表情になり、ひ
らひらとこたつの中に向けて手を振ると・・・突然立ちあがり、窓を全開にしながら、
「六甲○ろしに、颯爽と〜」
突然六○降ろしを歌い始めた。
「珍しい壊れ方だな」
「ふみゅみゅーん」
そしてオレと詠美は、怖いものを見るように由宇を見たのである。
「どうかしました?」
由宇の歌に気づいた彩ちゃんが戻ってくる。
「彩ーっ!このこたつの中はどないなってるんや!!」
「はい?・・・こたつですか」
由宇に言われ、彩ちゃんはこたつの中に頭を突っ込む。
『何もありませんけど・・・』
「そないわけあるかい」
そして由宇もこたつに頭を突っ込む。
『ほら、何もない』
『そんな、ウチはみたんや!ごっつうこええ顔をしたガキと、たくさんの足を!!』
「・・・」
うんうん、判るぞ由宇。
「ふみゅ!」
隣でビビッた声を上げる詠美。
『ん!詠美か!人の足引っ張るん・・・・・・・・・・・・・んなっ!』
多分、振りかえった由宇も見たのだろう、自分の足にしがみつく、子供の手を・・・。
「帰る」
短くはっきりと由宇は告げ、その手を払うと気合いっせん立ちあがったのであった。
「あの・・・おなべは?」
「いらん、一人で栄養つけとき、それじゃぁな彩。明日会場でな」
一気にまくしたてると、今度はオレ達の手を引っ張り、問答無用で彩の部屋から連れ出さ
れたのである。

「和樹・・・知ってたんか?」
寒空の公園。さみしくブランコに乗りながら由宇は問う。
「オレの場合・・・目と血文字と首吊りだった」
完結にオレは答える。
「わ、わたしはコタツから手招いている手」
「ウチは・・・ごっつうこええ顔をしたガキと、たくさんの足。そして・・・」
由宇は言いつぐみ、はっきりと判る程顔色を青ざめさせると、唐突に気を失ったのであっ
た。
「ゆ、由宇が気絶するほどモノって一体?」
「ふ、ふみゅみゅん」
残されたオレと詠美は、由宇の見たモノを勝手に想像し、ガタガタと震えたのである。
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「それにしても、あなた方が徹夜で並ぶなんて信じられませんよ」
怒った風の南さん。
「今度やったらペナルティーですよ」
『すみませんでした』
平謝りするオレ達三人。結局あのあと行き場をなくし、錯乱状態の由宇を酒で沈めたあ
と、仕方なく徹夜組の列に加わったのである。
「まったく、こんな寒空の下で並んだって良いことないでしょう?コタツにでも入って暖
まっていた方が何倍も幸せでしょうに」
『こたつ』
オレ達三人がつぶやく。そして・・・

「うわーっ、こたつはもう嫌ーっ!」

呆然とする南さんの前で、オレ達はのたうち回ったのであった。

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