京都へ・・・観光編3 投稿者:akia 投稿日:11月17日(金)20時03分
「ん・・・違いが判るこの匂いは・・・!」
オレはコーヒーの匂いに気がつき、がばっと跳ね起きた。その匂いは忘れもしない【カー
ドマスターピーチのキャラシール入り荒引きコーヒースペシャル桃の香り】だったから
だ。こんな気色の悪い飲み物を愛だとか抜かして飲み続ける人間は、オレの知り合いには
一人しかいない。そんな物騒な人間がいる側でこれ以上寝つづけたなら、何をされるか判
らないのが実状である。そしてオレは深呼吸をし、ついでに辺りを見回して見る。そして
オレは首を振り、改めて現状を把握してみた。
「結局、お前が悪だな大志」
コレだけはすぐに言えるのが現状であった。
「何を言うMy同志和樹よ!!」
びしっと指差し、何やら不敵にカップでコーヒーを飲む大志に言ってやるが、案の定大志
は、嘆かわしい事だと言わんばかりに、右手で顔を覆った。
「同志が関西デビューをする手助けと、世界制覇の露払いをしてやっているこの我が輩の
気持ちが判らないのか!!」
「判ったら、世界が終わるっーの!!!いいか、良く聞けよ!!オレは取材旅行に来てい
るだけであって、貴様の言うような関西進出だとか、世界制覇だとか言う絵空事につき
合っているヒマはないんだ!!」
「さて、Myエターナルフレンドが起きた事を、いずれ軍門に下るあの者達に伝えねばな
るまい。そう、腹が減っては戦は出来ないと言うからな・・・ではさっさと宴会場まで来
るが良いぞ」
まったくオレの熱弁を聞こうともせず、大志は悠々と部屋から出ていった。
「・・・」
オレの知り合いには、日本語を理解できる人間はいないのか?けれど、オレの問いに答え
てくれる人物はなく、オレは仕方なしに部屋から宴会場へと向かったのであった。
〈 〉
瑞樹の誤解をとき、大志が瑞樹にボコボコにされるのをみながら、一通り平穏無事な食事
(高級懐石だが)を済ませ、その後オレ達はゾロゾロと連れ立って、ここから祇園界隈
へ、そして八坂神社を通りぬけると、由宇の先導で知恩院の前までやってきた。
「へー、でかい門だな」
オレが石段の向こうにそびえる、巨大な門を見ながらつぶやき、長い石段を上ろうとする
が、由宇に引き留められた。
「ちょっい待ち。見るのはここやない。あっちや」
そして由宇が指差すのは、丸山公園とは反対の方角の道である。
「え?ここ見ないの」
「今の時間帯なら、あっちの方がいいんや」
「はぁ」
一同も納得しかねるが、由宇は無視して道を進み、やがて巨大な古木立ち並ぶ頃、
「ここや」
【青蓮院】と書かれたお寺の前で由宇は立ち止まったのである。とにかく由宇が案内する
ので、オレ達は団体のまま中に入り(詠美は全員の拝観料を払わされた)、古い廊下を抜
けた時・・・
「え」
虚をつく光景が広がっていた。ぽっかりと開けた空間に緑の舞台。荘厳とかそう言う言葉
ではなく、ただ一つの絵がそこにはあった。
「・・・」
「何笑ってるの和樹?」
「え?」
瑞樹に言われ、オレは自分が笑っているのに気がつく。確かに笑いたくなった・・・喜び
の笑みで。
「詠美にも無理だろうな・・・この風景を絵にする事は・・・」
つぶやき、ついと振り向けば、優しい顔で庭を眺めている詠美がいた。そして、みんなも
感慨深げに庭を見ていた。オレ達以外誰もいない空間。全てを見て、一体になれる空間。
「ん」
視線に気づき、そちらを向くと、由宇も微笑んでいた。由宇にはなんか色々と引っ掻き回
されたけれど、これで帳消しかな。そんな事を考えながら、オレは再び視線を戻したので
あった。

その場所に結構長い時間いたらしく、気がつけば三時半近くになっていた。オレ達は名残
惜しみながらも、青蓮院をあとにしたのであった。
「まぁまぁやったろ?」
歩きながら、由宇がオレに言う。
「ああ、まぁまぁだった」
「そうか、よかったな」
上機嫌の由宇。そして・・・
「今日帰るんか?」
微笑みを浮かべながら、由宇は問う。
「ああ・・・頃合だからな」
「そうやな・・・そや、あの券使うてディナー食べてこうか?」
「へ?券て・・・三人分しかないんじゃ?」
「まだまだやな和樹、詫び入れさせたんやから、十人一区切りやろ」
そして由宇は、ディナー券十枚を取り出して見せた。
「・・・・・・もう何も言うまい」
「さてみんな、今日はウチのおごりや、ディナーおごったるでーっ」
元気よく言う由宇。オレはため息一つつき、苦笑いを浮かべるのであった。
〈 〉
午後七時の京都駅。
例の大階段の中ほどで、オレ達は集まっていた。
「何時の列車に乗るんや?」
由宇の問いに、
「八時二分のヤツ」
オレはそう答える。
「そう・・・あと一時間あるけど、何する?」
「んー・・・ん?それよりさ、なんか人が多くないか?」
オレは改めて気がつく、確かに巨大な駅だから人も多いのだろうが、この一角・・・特に
この巨大な階段を見れる場所には、人が集まりすぎるぐらい集まっていた。しかも・・・
何か・・・大志と同系統の人種が・・・と、どう見てもヤクザにしか見えない連中達であ
る。
「何ーっ!なんと言う事だMyブラザーよ!!貴様はこの日のタメにココへ来たのではな
いのか?」
オレの問いに即座に反応した大志が、オレの襟首を掴み、見下した風に言う。
「な、何言ってる大志!オレは取材りょ」
「見損なったぞ貴様には!あさひちゃんのミニコンサートがこの階段を使って、今宵七時
から開催されるのを知らないとは!!」
手を離し、大志は階段の上に作られたステージを指差した。
「し、知らなかった・・・が、ちょっと待て、関西進出だの世界制覇だの言っていたのは
お前じゃ」
「さー皆の者よ!!声が枯れ、血の情熱を捧げるまで、あさひちゃんを応援するの
だーっ!」
「・・・・・・」
既に一部の連中を指揮下に押さえ、熱弁を振るうニセ・ガル○・ザ○みたいな大志。振り
かえれば、いつもの事と諦めモードの一同。そして・・・
ピーチのテーマ曲と共に、
『はーい、みなさんこんばんわー』
カクテルな衣装に身を包んだ、あさひちゃんが現れた。そして沸きあがる声援。
オレ達も応援をする。そんな時、下のほうで怒声が響き渡る。そしてみんなが一斉に注目
すると、そこには見るからにガラの悪い数名のヤクザが、ファンらしい人物を蹴散らし、
階段を上がってくるのが見える。
「くだらねー事やってんじゃねーよ!!」
「お前らのいる場所じゃねーんだよ!」
「ほら、邪魔なんだよ!!!」
口々に暴言を吐き、コンサートの邪魔をしようとするヤクザの集団。辺りは騒然とし、テ
ンションが下がっていくのが判る。そして、マネージャーらしい人物がヤクザに言い寄る
が、突き飛ばされて尻持ちをつく。
「ひどい」
瑞樹が言う。オレはあさひちゃんの方を見た。そこにはすっかり取り乱し、ただマイクを
掴んだまま、何も出来ないあさひちゃんの姿があった。
「マズイ!!」
オレが慌てて駆け寄ろうとしたが、
「待て、My同志よ」
大志の手がオレを止める。
「な、離せよ大志!あさひちゃんが!!」
「判っている。同志和樹よ!」
「なんだよ!!」
「主役はお前だ」
「へ」
大志がつぶやいた瞬間。どさくさまぎれに出された大志の足に、オレは引っ掛けら
れ・・・
「うわーっ」
絶叫と共に、ヤクザの一人へと突っ込んでゆく。そして・・・にぶい感触。気がつけばオ
レはまるでバーン・○ックルの様に、ヤクザを殴っていたのである。
「な、何!」
いきり立つヤクザ達。
「ひーっ!」
矢面に立たされたオレ・・・もう駄目だ。そう思った瞬間。
「進んでか弱き婦女子を助けるとは、さすがは郁美が見こんだ男だ。助立ちするぞ」
立川兄の声が聞こえると同時に、ヤクザの一人が宙を飛んで消えていった。
「・・・」
りーさるうえぽん。
「ほら、ぼさっとしてない和樹!!」
「え?」
瑞樹の声が響き、またヤクザの一人が落ちていく。顔面にテニスの硬球をめりこませたま
ま・・・。
「にゃあ」
「どっか行っちゃえ」
千紗ちゃんと詠美が、無常にも立川兄が投げてー動けないヤクザをデッキブラシでつつい
て落としていく。
「ち、近寄らないで下さい」
「お前もアイツらの仲間だろ!」
声に振りかえれば、ヤクザの一人に郁美ちゃんが絡まれている所だ。
「!」
オレが慌てて駆け寄る前に、
「それ以上近寄ると」
「近寄るとなんだったてんだよ?」
「伝染ますよ」
「え?」
次の瞬間、郁美ちゃんが通常は出ない何かを大量に吐きだしながら、バタンと倒れる。
「えひぃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
びびりまくるヤクザ。だがそのヤクザの不幸はそこで終わらなかった。
「貴様よくも郁美に!!」
立川兄がナイスタイミングで現れたのである。
「ちが、ちが、う」
「許さん」
「あひーっ」
そしてそのヤクザは、ゴムまりの様にバウンドしながら、階段の下に落ちていったのであ
る。
「・・・」
残酷だ。そして視線を変えれば、ある意味もっと残虐な光景が目に入った。
「・・・・・・・・・」
彩ちゃんの前に立つヤクザの一人が固まっていた。そう・・・髪の毛を真っ白にしてであ
る。
「あ、彩ちゃん?」
オレがおそるおそる近づくと、彩ちゃんは手にあの人形を持ち、不思議そうにきょとんと
していただけであった。
「あの・・・怖くて・・・目を閉じていたら、何か笑い声がして・・・気がついたら、こ
の人こうなっていたんです」
「あ・・・そうなの」
一体これだけの間で、何を見たんだろう。
「てめーらーっ!!」
ヤクザの一人が絶叫するが、そのままの姿勢で立川兄に放り捨てられる。
「お前ら、オレ達はな【麒麟会】だぞ・・・まさか、組長の命を狙いに来たヒットマン
か!!」
そこで今一人のヤクザの声が止まる。言っている意味が判らなくもないが、こうなっては
何を言っても無駄だろう。
「表の仲間呼んで来い!【鳳凰会】のヒットマンだ!」
そいつが叫ぶと、若いヤクザが血相を変えて階段を駆け下っていく。
「いつからオレ達はヒットマンになったんだ?」
オレのつぶやきに返事をしてくれるやつもな・・・『ポン』と肩を叩かれた。振りかえる
と、由宇が金色に光るハリセンを持ったまま、オレの脇を通りすぎて行く所であった。
「へ、由宇?」
オレが問いかける前に、ヤクザの一人が声を上げていた。
「お、お前は!!」
「黙れ、アホがーっ!」
由宇が一言。そして、音。
「あんさんらまだ判ってないようやな。うちらの見える範囲に現れるな、確かうちのおと
んが言ったやろ?つうわけで・・・約束通り、一人も逃さへんでー!!」
悪魔の笑みを浮かべたまま、由宇は吠える。
「うわーっ!全殺しの猪名川だーっ!!逃げろー」
ヤクザの一人が絶叫するが、既に由宇が走り、『スッパーン』とハリセンで叩きつける。
「誰が全殺しや!!」
由宇が吠え、足元のヤクザはビクンと一度だけ震え、動きを止める。
「・・・」
その通りだと思う。
「なんか言うたか和樹ー!!」
「いえ、なんでもないです」
「間違いない様に言うけどな、こいつらは昔、うちの旅館にいちゃもんつけてきたんや。
せやから全員で半殺しにして東京に送り返したんや!」
その時、足元に居たヤクザが違う違うとばかりに手を振るう・・・が、無常にも由宇がそ
の手を踏みつける。
「さ、参考までに聞くけど、いちゃもんて何?」
「ヤクザやから金持ってるハズやさかい、十倍の料金ふっかけたんや、そしたら払えんゆ
うて暴れるからな」
腕組み、さも当然のように言う由宇。・・・ヤクザ以上だ。
「そう言うわけで」
そして由宇が風のように走り、逃げかけたヤクザの一人を轟沈させる。
「あの時壊した椅子一脚の代金が未払いやさかい、十万払って貰おうか」
「そ、そんな・・・だってあの椅子は・・・パイプイスじゃ・・・ぶっ!」
由宇の声に反応してヤクザが復活し、やはり由宇に踏みつけられた。
「ついでに精神的慰謝料やな」
暗く笑う由宇。
「結局・・・このメンバーになった時から終わっていたんだよな」
そうつぶやき、オレはこの先起こるであろう阿鼻叫喚の図と、決して逃げられないであろ
う予感に絶望を感じ、深すぎるため息を吐いたのである。
〈 〉
「あれ〜和樹君、幕末モノやるって言ってなかったっけ?」
こみパの会場で、オレの同人誌を見ながら玲子ちゃんが言う。
「頼む、慈悲があるのなら何も言わないでくれ」
「は?」
首を傾げる玲子ちゃん。
「和樹さん、こんにちわ」
「あ、南さん」
「見本誌のチェックです」
「あ、これです。お願いします」
そしてオレは、一冊の同人誌を手渡す。
「えっと・・・あら、幕末モノではないのですか?」
「ち、ちょっと事情がありまして・・・」
「確か、京都まで取材旅行に行かれたんですよね」
「そうそう、大志君から聞いたよ。関西デビューを果たしたって・・・どう言う意味?」
「・・・」
オレは真下を向く。
「そう言えば、和樹さんが行かれていた時期に、暴力団同士の抗争が京都駅であったそう
ですね」
「!」
ビクンと震えるオレ。けれどオレの様子に気づかず、南さんは話しつづける。
「一方的な結果だったそうですけど、その負けた暴力団から賞金を掛けられたヤクザさん
がいるんですって」
「あ、知ってる知ってる。なんでも最初の口火を切ったヤツで、突然問答無用でで殴りか
かった冷酷非道なヤツでしょ。そればかりか仲間の小さい女と共謀して、強奪したリムジ
ンで暴力団の事務所に突っ込み、仲間が用意したバキュームカーを使って、事務所の中を
汚物で埋めたヤツでしょ。鬼畜よね本当。まさにヤクザの中のヤクザよ!!」
「・・・」
そしてオレは、その話で盛り上がる二人の間で、小さく・・・ひたすら小さくなって行く
自分を感じたのであった。

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