京都へ・・・観光編2 投稿者:akia 投稿日:10月25日(水)21時34分
『空の上には少女がいる』
そうだ。
『けれど、少女は・・・』
そうだ・・・今度こそオレが救ってやるんだ!
「待ってろよ空の少女!」
「ネタが違うーっ!さっさと起きんかぼけーっ!!」

「え?」

オレはビクンと目を覚ました。視界がうまく定まらないが、ぼんやりと見えてきたのは、
「てるてる坊主?」
軒先に吊るってある、それらしい物体であった。
「起きたか和樹」
「由宇?」
声のするほうを見ると、何やらカラフルな飲み物らしきモノを持った由宇が居た。
「起きんかったらコレを口に流しこもう、思ってたんやけどな」
「なんだそれ?」
「ニッキ水や」
「・・・?それより、ここ何処だ?」
「ここか、清水寺の中の茶屋や。みんなは観光に行っとるで」
「そうか・・・アレ?なんでオレは平気なんだ?」
立川兄の全力攻撃を食らったハズなのだが・・・。
「人形が止めたんや。和樹の胸元からひょっこり現れた気味の悪い人形がな」
「人形?」
考えてみる。オレが持ってる人形と言ったら・・・。
「コレか?」
オレはそう言って、ポケットの中から財布を取り出す。その財布には、確かに気味の悪
い、小さな人形がぶら下がっていた。
「それや!さすがの立川兄さんも、あまりの不気味さに手を止めたんたや」
「・・・でもコレ、オレのポケットに入りっぱなしだったぞ」
「そんなわけない!あすこに居た全員がみたんや!『ゲッゲッゲゲゲゲノゲーッ』と歌い
つづけるその人形を!!」
由宇が不気味がって言うが、
「そんな事あるわけないだろ。それにコレは綾ちゃんから貰ったモノなんだからさ」
言ってから、何か非常に嫌な記憶がオレの脳裏に蘇る。
「・・・捨てた方がええで」
手を顔の前で振り、由宇は投げやり気味に言う。
「・・・」
オレは今一度、その人形を見てみた。頭に思い浮かぶ光景は、ある出来事。そして・・・
「ぺいっ!!」
茶屋の外目掛け、オレは人形を投げたのであった。
「さて、これからどうするかな」
「その前にな和樹、アレ下ろしとかんと警察呼ばれて、うざい事になるで」
「へ」
由宇の指すほうを見ると、てるてる坊主があった・・・違う!
「うわっ、大志ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
人間サンドバックと化した大志が軒先に吊るされ、あまつさえ、口から出てはいけない何
かを出しながら、ぐったりとしていたのである。
「立川兄さんにウソがばれてな、三秒でこの状態や。どうせウソつくんなら、詠美だけに
しとけば良かったのにな」
ケラケラと笑う由宇。それ以前に、オレの知り合いに誰でもいいからウソついて、しかも
ばれたら、これと似た状態にされると思う。特に・・・由宇。
「なんか言ったか!」
ギンと視線を向けてくる由宇。
「い、いえ全然!」
思うのすら危険だな。・・・とにかく、大志を回収してみんなと合流しなくちゃな。
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時間は四時過ぎ。思いのほか長時間気絶していたらしい。
「さて、これからどうしようか」
言いつつ、オレは後ろを振りかえった。はっきり言って異色なパーティーとなっていた
が、別段気にする事は・・・今更ないだろう。と言うか遅すぎだ。
「とりあえず、宿を決めなあかんとちゃうか?」
「そうだな・・・七人か」
オレはつぶやきつつ、詠美を見る。
「え?ひょっとして・・・わたしが払うの?」
「大丈夫や、ちゃんとウチが泊めたるで」
「由宇が?」
「パンダが!?」
次の瞬間、由宇はどこから取り出したのか、詠美をハリセンで思いっきり叩く。
「ふみゅみゅん」
「安心しとき、とっておきの高級旅館に泊めたるで」
ポンポンとハリセンを手で弄びながら、由宇は豪語する。
「ってオイ、そんな金あるのか?」
「あるわけない」
ひひひと笑う由宇。絶対不穏だな。

そんなわけで、オレ達一行は由宇に導かれるまま道を歩く。清水寺から坂を下って行くだ
けだから、楽なのだが・・・。
「どうかしました和樹さん?」
郁美ちゃんがオレのことを覗き見る。
「え、いや別にね・・・それよりさっきはごめんね」
「あ、本当に気にしないで下さい。和樹さんが見えたから、慌てて駆け寄っちゃって、そ
れでぶつかってしまったから・・・それより、兄が迷惑を掛けて済みませんでした」
ぺこりと頭を下げる郁美ちゃん。
「いいよ、気にしていないから。妹思いの良い人なんだから、そんな言い方はしなくてい
いよ」
いささか過保護ではあるけどね。そう思いつつ、人間サンドバックを抱えて歩く立川兄を
見ると、視線があった。一瞬の間。微かだが頭を下げた様な気がした。
「和樹さん、ここはどの辺なんですか?」
郁美ちゃんの声にオレは引き戻され、
「んーと、多分丸山公園の中で、これから八坂神社へ行くのかな?」
そう答えた。確かに有名な【しだれ桜】や【いもぼう】とかの看板も見える。でもそうな
ると、由宇の向かっている先は八坂神社、そして・・・祇園界隈?
「・・・」
案の定由宇は、八坂神社を通りぬけ、大通りに出ると、躊躇なく反対側へと渡ってしま
う。
「由宇、まさかこの辺とか言わないだろうな?」
前に観光案内で見た事があるが、この辺から少しでも脇道に入ると、とんでもないクラス
のお茶屋や料亭があったりする。
「そこや」
そう言って由宇が示すところ・・・それは、
「無理だって!!」
老舗なんぞ知らないオレでさえ知っている、超有名老舗【万力亭】であった。
「パンダが知っているとこなら、誰でも泊まれるでしょ?」
不思議そうに言う詠美。いまいち事態が読めていないコイツに、
「ちなみにな、噂では一泊ひとり様ん十万からだ」
現実を教えてやった。
「んじゅ、ん十万から!・・・わ、わたしに似合うクラスじゃないの」
まぁ詠美の収入だったら大丈夫だが。声がうわずっているぞ。
「十万円でもあったら、お肉が食べられますね。はい」
千紗ちゃん・・・(泣き〉。
「ん十万円ですか・・・私・・・無理です・・・せっかく・・・和樹さんに会えたの
に・・・」
泣きそうな声がする。
「そんな事はないよ彩ちゃ・・・ん?」
声に振りかえれば、そこには彩ちゃんが立っていた。
「えーっ!?なんでここが判ったの」
「お人形が・・・教えてくれた気がしたから・・・」
「へ?人形」
彩ちゃんの視線を追えば、オレの胸のポケットに止まる。そこには先ほど投げ捨てたハズ
の人形が、頭だけ出して入っていたのである。
「・・・ひ!」
「ほらぶつくさ言っとらんと、さっさと入り!」
「しかし、由宇!この人形・・・」
オレは言いかけて、口をつぐんだ。そう、絶対にろくでもない事を考えているときの目
だったからである。
「和樹・・・さっさと入った方がええで」
「いや、やっぱりオレ東京に帰るよ」
「ウチの好意を無にするんか?なぁ和樹〜?」
メガネに陽光を反射させ、口元だけに笑顔を貼り付けた由宇が、オレの退路をふさぐ!
「いやでも・・・なぁっ!?」
「さーて和樹も入ろうな」
「・・・・・・」
「お兄さんどうしたんですか?九の字で転がってますけど?」
「きっと腹が減ったんやろ。ちなみにココ、ウチとは親戚なんや。だから安心してええ
で」
そんなセリフを聞きながら、オレの意識は、由宇の放ったボディーブロー一発で打ち砕か
れたのであった。

「・・・」
次に目を覚ましたとき、オレはやたらと高級そうな部屋の中に居た。わびさびの空気に包
まれた空間。梁や柱の太さと色。どれをとっても老舗旅館の雰囲気である。ついと視線を
横に振れば、中庭が涼を運んできていて、涼しい風が入ってくる。確かこの辺は、大通り
の近くであるはずなのに、そう言った喧騒も聞こえず、この空間は静かな夜を演出してい
た。
「で、オレをこうまでしてココに入れた理由はなんだ・・・猪名川由宇!」
ギンと視線を振れば、ははは(笑)をした由宇が座っていた。
「何怒ってるんや和樹〜。ウチはな、めったに泊まれん様な高級旅館に、あんさんを泊め
てあげたくて」
「だったらコレはなんだ?」
そしてオレは自分の足を指す。そこには足枷と鎖・・・そして鉄球があった。
「・・・逃げそうやからな」
「ここまでされたら、誰だって逃げるだろ」
「まぁ文句言わないで、な」
やけにしおらしい態度の由宇。
「・・・」
オレはふと気になり、鎖に注意しながら立ちあがると、歩ける範囲にあった壁に掛けられ
ている額縁をひっくり返した。
「あっ、ちょい待ち」
「説明して貰おうか・・・由宇」
オレは額縁の裏に貼り付けてあるお札を見せつけ、冷めた目で由宇を睨んだのであった。
「つまりな・・・出るらしいんや。若い男が泊まった時だけな。それで困ってる話聞いて
たもんやから、ウチが一肌脱いだろ思うてな」
「それで・・・オレかい!」
「そう言うわけや。まずは本気に出るか確かめないかんから、一晩寝てみてや」
「断る」
絶対に嫌だ!
「普通はそうやな・・・でも、」
そう言い、由宇は反対側の襖を開ける。すると、そこには宴会で盛り上がる詠美達が居
た。
「大馬鹿ならともかく、千紗にココの宴会費用、払えるんかいな?」
「な!ひ、卑怯だぞ!」
「別に卑怯な事あらへん、それに和樹にはタダでやれとは言わへんよ」
「どう言う意味だよ?」
「ウチが保証するビッグな賞品つきや」
「お前のとこの婿入りとか言うなら、却下だ」
オレが間発入れず言うと、由宇はビクンと震え、天井を見上げた。
「あんまり感が鋭いのも考えもんやな・・・大阪湾か・・・」
低く、怖い声で由宇は言う。
「ま、まぁ落ちつけ由宇。そうだ、明日の昼メシもココで食わせて貰えると言う事で手を
打たないか?」
「・・・・・・・・・判った」
なんかイマイチ不服そうだったが、由宇は仕方なさそうに手を打ったのであった。

「・・・オレも甘いよな」
一人きりの室内。十畳程の広い部屋でオレは横になっていた。枕元を見れば、四台のビデ
オカメラがオレを写している。
「不安だ」
つぶやき、オレは時計に目をやる。一時五十九分。
「それにしても、なんでオレはこんな事をしているんだろう?」
原稿一つ出来ないだけで、心霊現象解明に付きあわされたのは、日本広しと言えどもオレ
だけであろう(泣き)。
「・・・寝よ」
考えるだけ無駄だ。同人世界は、何があってもおかしくないからな・・・とか思っている
と、【ガタッ】と何かが外れる音が響く。
「へ?・・・い!?」
音のした方を見た瞬間、体が硬直したまま動かなくなった。か・・・金縛り!?
「・・・」
なんとか声を出そうとするが、口からは息しか出ない。そればかりか、音のした方・・・
天井の一角がスッと外れ、逆さま状態の日本人形が現れたタメ、口は酸欠金魚状態となっ
ていた。
「!!!!!」
マジかよ!
「!!!
なんとか動こうとするオレ。けれど体は動かず、そんなオレをあざ笑うかの様に、その人
形は重力を無視するかの如く、下へと着地した。逆さまのままで・・・。
「!!!!!」
ヤバイ!やばすぎる!?でも体は動かない。そして日本人形は、オレの足元から逆立ちの
まま布団の上を移動してくる。しかもだ、めちゃくちゃ重い!
「!!!!!」
顔が見えた。やけに人間っぽい生々しい顔が。ちょっと待てーっ!なんでオレがこんな目
に遭わなければならないんだーっ!!声にならない叫び。けれど日本人形は無視してオレ
に迫る。
「・・・」
あとほんの少しでオレの胸の前まで来たとき、日本人形はビクンと動きを止めた。そして
逆立ちを止めると、『カタカタ』と辺りを不気味に見まわす。そう・・・何かに怯える様
に・・・。
「!」
一瞬の事だった。その日本人形の前に、オレが縛りつけて袋にしまったハズの、あの人形
がぼんやりと現れたのである。しかも当社比三倍の大きさになってである。そして人形は
ゆらりと動く、対する日本人形は一歩引くが、それより先に人形は日本人形に迫る。
「!!」
次の瞬間人形が三体に分裂し、日本人形へと襲いかかる。しかし、日本人形は大きく後ろ
に飛び退き、素早く身構えた・・・が、
「!!!」
日本人形の後ろから人形が現れ、足で日本人形の首を挟みこみ、そのまま自身の体を回転
させつつ、肘を人形の頭に当てつけ、畳の上に叩きつけたのであった。
「・・・」
辺りがシンとする。そして人形は立ちあがり、大きく右手を伸ばすと崩れ落ちた。
「・・・」
一体なんなんだ?オレが見ていると人形は今一度立ちあがり、日本人形を両手に抱える
と、そのままどこかへ向かい歩き出し、暗がりへと消えてしまったのであった。
「・・・もう駄目だ」
しばらくして、ようやく出せた言葉と共に、オレは意識を手放したのであった。
〈 〉
朝。
昨晩のドキュメントビデオを見終わった後、一同はどことなく視線を上に向けたまま、た
め息を洩らしていた。
「オレ・・・忘れるから」
「そうやな、それが賢明や」
オレの言葉に由宇が肯く。そして一同も肯く。
「このテープどうするんだ?」
「どないするって言ってもな」
「・・・私に頂けませんか?」
「え、綾ちゃん?・・・資料に使うの?」
「いえ・・・和樹さんの・・・寝顔が映ってるから」
恥ずかしげに言う綾ちゃん。・・・確かに恥ずかしい。
『!』
改めて何かに気づいた多数が、そのビデオテープに視線を向けた。
「しゃーないなー、ウチが処分したるわ」
「パンダなんかにまかせたら、何に使われるか判らないんだから、わたしが処分するわ」
「千紗ー、それをお守りにするですぅ」
「か、和樹さんの大事なモノが映ってるなんて・・・郁美も、ほ・欲しいです」
「ぬぅー、郁美が欲しいのなら仕方がないな」
「つまりだ。そのビデオがあれば、あさひちゃんはおろか、同人世界はおろか、あさひ
ちゃんの居る芸能界・・・そして、世界制覇の手助けになるやもしれんわけだ!!」
一同の中心に、突然大志が現れた。
「大志、いつの間に復活しやがった!」
「失敬なヤツだな。この世界の叡智と美貌が宿ったこの体が、アレぐらいの攻撃で滅びる
訳がなかろうに」
いつもの如く、意味不明で高慢な態度のまま、大志が言う。
「・・・オレは滅ぼしたい」
「さて、このビデオは吾輩が接収するとしよう」
オレのつぶやきをことごとく無視し、大志はビデオに手を伸ばす。
「ウチのや!」
「渡さない!」
「わたしのよ!!」
気がつけば、一同入り乱れての乱闘状態になってしまった。どうするオレ?とにかく離れ
様とした時、偶然にもビデオテープがオレの前に飛んでくる。そして一同もオレ目掛け飛
んできた!!
「うわーっ、ちょっと待てーっ!!」
「あのぅ、お知り合いの方が見えられたのでお通ししたのですが」
何かオレの耳に聞こえる。
「なにドタバタしてるのよ。入るわよ和樹」
この声は・・・瑞樹?
「あ」
瑞樹の声が短く洩れた。そして止まる一同・・・と言うか、みんなで絡まりあって肉団子
状態となっていた。
「あん・・・ちょっと、どこ触ってるのよポチ!!」
あ・・・なんか柔らかい感触・・・とか思っていると、ドス黒い何かを体から放出させ始
めた瑞樹に気がついた。
「・・・関西デビューとかでご魔化して・・・老舗旅館で乱交パーティーだなん
て・・・」
そして瑞樹は、声を震わせたまま、足元に落ちていたビデオテープを拾い上げると、とん
でもない力でテープを破壊したのである。
「しかも、乱交ビデオでデビューしようだなんて・・・許さない・・・許さないわよ!!
こぉんのぉぉぉぉぉぉバカズキィィィィィィィィィィィ!!!」
「へ」
どこから取り出したのか、瑞樹の手にはテニスラケット。そして、問答無用の一撃がオレ
の頭に直撃したのだった。・・・薄れゆく意識の中、
「・・・またこのパターンかよ・・・」
オレはそうつぶやいたのであった。

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