京都へ・・・観光編1 投稿者:akia 投稿日:10月5日(木)21時37分
「し・・・死ぬ」
オレは最後の一こまにトーンを張り終えると、テーブルに顔面ダイブしたのである。目だ
けで時計を追えば、時間は三時四十六分。もちろん朝のである。
「さて終わりや!あとは届けるだけや」
【パン】と原稿を取りまとめた由宇が、威勢のいい声を出す。
「・・・」
なんでコイツ、こんなに元気なんだ?
「和樹、あとでまた来るからな、それまで寝とけや」
「ああ」
とりあえず手をあげ、合図だけしてみせると、オレはそのままの姿勢で意識を混濁させて
いったのである。

「起きろーっ!」
「へ」
寝て一二時間も経っていない感覚のまま、オレは跳ね起きた。
「もう六時や、ささっと用意しいや」
「な、何を」
「観光案内したる約束やからな、さっさっと起きるんや」
「へ、いや・・・別にオレは約束してもらったわけじゃ」
「ん〜どうしたMy同志和樹よ。観光は朝からが基本だろうに」
「お、お前は・・・そんな晴れ晴れとした顔をしやがって」
「ああ、熟睡させてもらったぞ」
「・・・」
いつか大志と縁を切らないと、オレが殺されるか、殺すしかの選択肢しかなくなりそう
だ。
「さて、栄えある観光の初日だ。さぁきりきりと用意をするがいいぞ」
そして無責任な大志の言葉を聞きながら、オレは【京都連続殺人事件・秘められた殺意・
ヲタクは聞いたカードマスターピーチのテーマを・京都、東京間原稿用紙に秘められた殺
人トリック!?】なんて事を考えながら、オレは立ち上がったのであった。
〈 〉
「お前らな」
「ん〜何を気にしているんだ同志和樹よ」
「そや、別に和樹が悪いわけやない、ドライバー一本で壊れるドアが悪いんや」
「・・・」
あのあと、部屋を出るときに判ったのだが、ドアノブが飛んで無かったのである。そし
て・・・由宇が、大志がなんくせを付け(ドアが勝手に壊れた&こんな所に泊めたのは
そっちのせいだ)、宿泊代をタダにしたばかりか、提携の市内にあるレストランのディ
ナー券まで手に入れたのである。でも・・・人として大事なモノを売り渡した気がするの
は・・・気のせいか?
「そう言えば、詠美は遅いな」
「え?詠美も来てるのか」
由宇の言葉を聞き、オレはつめ寄った。
「そうや。昨日電話が入ったモノやからな『和樹はウチのとこで手伝ってるんや、場所は
京都市内を見晴らせる所に居るから、来るなら早よう来いや』そう伝えたんや、あっそう
そう、千紗も来てる話や」
「大志ーっ!」
「もちろん伝えたぞ」
「言え!他にも誰に言った!」
「可能な限り全員にだが?」
「・・・」
多分・・・同人止めないと、オレにプライバシーは戻って来ないんだろうな・・・。涙一
筋流し、オレは京都駅ビルを眺めた。
「まぁその件は諦めるとして、さっきの話からすると詠美と千紗ちゃんは、道に迷ってる
んじゃないのか?」
気を取り直し、オレが問いかけると、
「そうやろな」
由宇は確信犯みたいな風で告げる。
「たぶん電話も入らんとこをみると、かなり山の方に行ったみたいやな。おそらく」
そこで由宇は区切り、
「高雄か比叡・・・比叡山やろな、京都市内を見渡せる一番高い所ゆうたら」
さも見てきた様に言う。
「さすが地元か・・・ならなんで混乱するような事言ったんだ」
「決まってる、あんさんに原稿描かせるタメに邪魔やっただけや」
「・・・そうですか」
もう何も言うまい。常識は捨てよう。
「それで二人は何処で回収するんだ?」
「そやな・・・携帯が掛かってきてないから、電池切れやろ。そうなると、八瀬まで降り
てきて泊まってるのが妥当や。詠美は金だけは持ってるやさかいな。それで、低血圧やか
ら・・・今ちょっと前に起き始めて出かけたとしてな・・・たぶん、携帯の電池を手に入
れようと、京都市内に向かってるハズや。そう言うわけで、出町柳の駅で待ってればOK
や」
「・・・」
サイコメトラーか由宇は。そう言えば東京に居たときも、的確にオレのいる時間帯を見計
らって襲撃してきたしな。こ、怖いヤツ。
「さて・・・さっさと行くで!」
「はいはい」
「うむ、行こうではないか、千年の都巡りの旅にな」
豪快な笑い声を出す大志。周辺の人々からの冷たい視線。構わず先を進む地元民の由宇。
「は〜」
オレは、さらにこれから加わるであろう迷惑分子の存在を考え、深い・・・深すぎるため
息をついたのであった。

オレ達一行は、由宇の道案内によって京都駅から地下鉄に乗って、乗り換え、さらに地下
鉄に乗り換えて、階段を上り、ようやく鴨川の脇にある出町柳駅へと現れたのである。
「それにしても、京都に地下鉄があるとは知らなかったな」
「まぁ普通は興味無い事やからな。基本的に美観を損ねるちゅーのと、寺壊しながら造る
わけにはいかんかったからとちゃうか?」
ひらひらと手を振り、由宇は話す。
「さて・・・ビンゴやな」
「え?」
由宇が指すほうを見れば、荷物をしょってくたびれた風の二人組みが、出町柳の改札口か
らトボトボと出てくるところであった。
「おーい詠美ー!」
「・・・・・・・・・ポ・・・ポチーッ」
「お、お兄さ〜ん」
二人とも、半分以上に涙目のまま走ってくる。
「サルが、サルが〜」
「猿がいっぱいでたんですぅ」
「・・・?」
オレの脇で口々にはやしたてる二人。サルってなんだ?オレが視線を由宇にむけると、
「出るんや、あそこ・・・囲まれたらマジにやばいで」
真剣な顔で由宇は言う。
「毎年死者も二桁台は出るって言う話や、命あっただけでもめっけものだと思いや」
「ふみゅみゅ〜ん」
「怖いですう」
二人とも抱きつき、怯えまくっていたりする。
「・・・ほんとか?」
オレが小声で由宇に問えば、
「少しな」
おかしそうに返事を返してきた。
「さて、和樹どこ案内すればええ?」
「え・・・えーと」
いきなりふられてもな・・・そう言えば幕末モノのイメージがほしいからな・・・。
「とりあえず、幕末モノ関係を見ておきたいな。あと、お勧めを案内してくれると嬉しい
んだけど」
「幕末モノか・・・ええで別に」
「んじゃ、池田屋に」
「ない。石碑だけや」
間発入れず、由宇が返す。
「そうなのか?」
「そうや」
「・・・それじゃ、壬生寺」
「・・・ええんやな?」
凄みのある声で、由宇が問う。
「え?」
「別に気にしなくてもええよ。さて壬生に向けてレッツゴーや!ほら詠美もしゃんと
しぃ。タクシー代払ってもらわないかんからな」
「なんでわたしが!」
「一人で・・・帰れるんか?」
由宇の言葉に、詠美はビクンと身を震わせた。
「おおかた、一人でこれる自信がないから、千紗を付き合わせたのとちゃうか?」
「そ、そんなこと」
「まぁ無理強いはしないけどな・・・みんなと行動した方が安全やで、京都は千年の魔界
やからな。人ひとりいなくなっても、誰も気づかないのとちゃうか・・・な」
クスクスと異様な雰囲気を漂わせ、由宇は詠美を見つめた。
「ふみゅ・・・判ったわよ!この詠美ちゃん様がいなければ、みんなどこにも行けないん
だからね!感謝しなさいよ!」
なけなしの体裁をつくろうため、詠美は腕なんか組んで傲慢に言う。
「はいはい」
そして由宇は、オレ達にVサインを出し、にやりと笑ったのである。
猪名川由宇・・・おそるべし。でもいいか、交通費タダだしな。
〈 〉
「マジか?」
「まじや」
オレの問いかけに、由宇は答えた。
「見事に何もないところだな」
オレの後ろで大志が言う。
「ポチ!こんな所に来たかったって言うの!」
「にゃあ、亀さんがいっぱいいますぅ」
口々に言う詠美と千紗ちゃん。確かに・・・ここまでの所とは理解してなかった。
門をくぐると開けていて、奥にいかにも新しいお堂と、右に亀のいる小さな池・・・そし
て、新選組隊士のお墓がある。他に特筆すべき点は、いかにも新選組ファンの残していっ
たモノだけである。
「だからか、『ええんやな?』の意味は」
「まぁ見に来たい言うたからな・・・実際、島原や霊山近辺、寺田屋にしろ、幕末浪漫を
熱く語れる人種やないと、インスピレーションすら沸かないやろな」
うーむ、確かにそうだが・・・。
「けどな・・・」
由宇は一言区切り、その池に視線を注ぎながら、
「ええところやで、この街は・・・見ていくだけでもな」
にこっと、不意打ち的に微笑んだ。
「・・・」
な・・・なぜ、ドキッとしたオレ!?
「つぎどうするんや?有名どころやったら、どこでも案内できるよ」
「そ、そうだな・・・誰か行きたい所あるかな」
とりあえず、由宇に視線を向けない様にしていると、
「だったらパンダ!清水寺に連れてきなさいよね」
脇から出てきた詠美が、ふんぞり返りながら言ってきた。
「はいはい、金出して貰えるんやからな、詠美ちゃん様には感謝や」
「そうよそうよ。感謝しなさい」
「もしかして・・・地主神社やな・・・」
「!」
ぽつり由宇が洩らしたのを聞いて、詠美は固まる。
「そ、そう言う名前の所もあったかしらね・・・」
「おもしろそうやんけ、ウチもやってみよ」
「わ、わたしが最初だからね」
「はいはい」
「?」
取り残されたオレは一人、池の金魚を違う視線で追っている千紗ちゃんと、ファンが残し
ていったモノを熱心に見ている大志を交互に見やり、青い空を見上げ、ため息をついたの
であった。
〈 〉
息を切らせながら、オレ達は無事清水坂を登りきり(途中、大志がカードマスターピチの
キャンディーを買占めたりして、白い目で見られたりしたが・・・)、清水寺の観光すら
差し置いて、その地主神社へとやってきたのである。
「んで、なんなのここ?」
堂を別としても、店とのぼり、そしてせまい道にニョキッと生えてる風な石があるだ
け・・・。
「これはやな、恋占いの石・・・つまり、縁結びの願掛けでな、目閉じたまま歩いてその
石までたどり着ければ、願いが叶うゆわれてるものや」
由宇が説明していると、さっそく真剣に目を閉じた詠美が、トコトコと石畳の上を進んで
ゆき・・・そのまま石を通りすぎると、見事に石の柵へと突っ込んだのである。
「ふみゅみゅ〜ん」
「また見事に顔面からいったな、大丈夫か?」
「う!・・・ポチなんか知らないんだから!!」
オレが声をかけると、詠美がいきなり切れる。
「な、なんだ」
「詠美はお子様やからな」
後ろで由宇がそんなことを言うが、
「?」
オレは意味が判らず、ただ首を傾げるだけであった。
「さて次はうちやで」
気合を入れ、由宇がトコトコと歩き・・・詠美と反対に壁へと激突したのである。
「・・・」
辺りはシンとし、空気が重くなる。
「だ、大丈夫か由宇?」
「う!・・・あんたが悪いんや和樹ーっ!!」
オレが声をかけると、由宇がいきなりブチ切れた。
「な、なんで」
「はっはっはっ、同志和樹よ。同人作家としてはトップレベルだが、人間としては未熟だ
な、精進するがよい」
「大志、どう言う意味だ?」
問いかけた瞬間、いきなり首根っこを掴まれ、オレは後ろを振り向かされる。
「和樹・・・お前もやれーっ!」
「ゆ、由宇!オレもか」
「そうや!」
「そうよ!」
詠美までも・・・仕方ない。逆らうとろくな事がなさそうだからな・・・。
「仕方ない」
今一度つぶやき、オレは目を閉じて歩き出す。そもそもオレは別に縁結びの願掛けをしに
きたわけじゃないのにな・・・とか思っていた瞬間、いきなりつまづき、頭から柔らかく
て固い何かにぶちあたる。
「ぶ」
「え?」
音に反応してオレが目を開ければ、そこには見知った顔・・・郁美ちゃんがいたのであ
る。
「ええーっ!」
見れば、オレは郁美ちゃん目掛けハリケーン○キサー(意味不明)をかました状態であっ
た。
「だっ、大丈夫郁美ちゃん!?」
「大丈夫・・・気にしないでくだーさい・・・かはっ」
「ひーっ!気にするな言う方が無理じやーっ!」
口から赤い何かを大量発射し、ぶっ倒れる郁美ちゃん。
「千堂貴様・・・」
「へ」
怒声にも似た声が響き、振りかえれば、集まり始めたギャラリーの間をぬって立川兄が鬼
気迫る状態で現れた。
「関西デビューの邪魔になるからと言って、郁美を亡き者にしようとするとは」
ググッと拳を握り、立川兄が構えとる。
「ちょっ、ちょっと待って下さい。いつオレが郁美ちゃんを邪魔に」
「見苦しいぞ!話はそこの九品仏とやらに聞いた。それに、郁美にハ○ケーンミキサーを
入れたのが動かぬ証拠だ」
どこの世界に、人ひとりを亡き者にするため、ハリケーンミキサーをかます人間がい
る!・・・それよりもだ。
「大志ーっ!」
振りかえれば既に大志の姿はなく、そればかりか由宇、詠美はおろか、千紗ちゃんまでい
ない・・・。
「覚悟せい!」
迫る何か・・・。
「ひ、光になるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・!」
そしてオレの意識は、違う世界へと飛躍したのであった。


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