京都へ 投稿者:akia 投稿日:9月18日(月)18時38分
「なんか・・・ネタが思い浮かばないな」
九月に入ってもまだ暑いある日の事。オレは椅子に座り、天井を見上げながら呟いた。ち
ょうど次回作の幕末時代モノのネタで詰まっている最中であり、原稿は真っ白なままであ
る。まだ時間的な余裕はあるものの、大志や詠美のアタックを受けたら、時間なんか無い
に等しいのが現状だろう。
「そうなると・・・たまには取材旅行でも行ってみるか」
そう思いつき、幕末モノなら京都だろうと決め込んで、パソコンで検索をかけて情報を落
とすと、すぐさま用意をはじめる。
「こう言う時って、大抵邪魔が入るからな・・・さっさと行くに限る」
そして、オレは全部の用意を三十分で済ませると、幕末浪漫を求めて旅立ったのである。

【同日同時刻。九品仏大志の部屋・・・】

「ふむ・・・My同志和樹よ!いよいよ関西進出を決めた様だが、吾輩に告げず旅立つと
は水臭いぞ」
九品仏大志は、自身の部屋に置かれていたモニターに映る和樹の部屋の光景を見ながら呟
いた。そればかりか、別のモニターには和樹の部屋で映っているパソコンと同じモノが全
て映し出されていたのである。
「東京駅発昼の一時から三時までの時刻表と、京都駅周辺及び、伏見、東山、御所、壬生
周辺の案内か・・・泊まるところの予約はしていない所を見ると、現地のビジネスホテル
クラスを狙っているのだろう・・・せっかくの関西進出だと言うのに、何をケチ臭い事を
しているのだ。いずれ吾輩たちの軍門に下る、猪名川由宇に案内させればよかろうに」
情けないとばかりに、大志はため息をついた。
「そうだな・・・ついでに皆にも教えてやろうではないか、栄えある栄光の第一歩をな!」
高笑いをする大志。そして・・・和樹当人の何も知らない間に、何かが動き出していたの
であった。
〈 〉
「古都ね」
新幹線のプラットホームに立ち、オレはあたりを見回した。
「ビルばっか・・・それにこの巨大な駅ビルはいったい」
在来線側の大きなビルを見ながら、オレはため息をついた。なんか・・・イメージしてい
たのと違う。もっとひっそりとしていて、往来も激しくなくて、みんなのんびりとしてい
る風なのを想像していたのに・・・。
「みんなせかせかしてるし、観光客は多いし、詠美に似た子もいるし・・・?」
呟きつつ、オレはホームの階段を見た。気のせいか?今そこに詠美らしい子がいた気がし
たのは・・・それに、千紗ちゃんみたいな子もいたような・・・。
「そんなわけないよな」
オレは気のせいと決めつけ、階段を降りる。やがてただやたらと広い構内を抜け、オレは
新幹線口から在来線の出口を抜け、めちゃくちゃ広い地下街に出た。
「さて、とりあえずは・・・ホテルの手配しよ」
地下街を抜け、オレは駅の案内所に入ると、駅から近くて安いところを探してもらった。
「・・・確かに近いな」
紹介されたのは、案内所からも見える所にそびえ立つ、ある意味京都のシンボルとも言え
た、京都タワーホテルであった。実際そのろうそくみたいな形の下に、ホテルが入ってい
るとはあまり知られていないみたいな気がする。まぁビジネスホテルみたいな感覚なんだ
ろうと決めつけ、オレは宿をそこにしたのであった。
「もう五時を回った所だし・・・」
案内所から、駅ビルの中をぷらぷら歩いていたオレだが、あるものが目に入り、視線を奪
われていた。それは遥か上まで続く大階段であった。
「何階から続いてるんだ」
ただ呆然とその建築物を眺めていたとき、カードマスターピーチのテーマ曲がオレの携帯
から響く。
「ん・・・誰だよ・・・・・・もしもし」
『お、和樹か』
「ゆ、由宇・・・な、何か用か」
一番こっちで会いたくないと思っていた相手からの電話に、オレは焦りの声を洩らす。
『聞いたで、京都に来てるんやて』
「な」
誰から聞いたんだ。
「そ、そんなわけ」
『ウチの知り合いがな、明日イベントあるんや。それで・・・コピー誌のゲストぺー』
オレは由宇が言いきる前に通話を切った。そして冷や汗を拭い、一息ついた瞬間、携帯が
死へのメロディーを奏でる。
「はい、どちらさま」
『あほんだらーっ!人が話をしてる最中に切んな!』
「だってな、その話最後まで聞いたら地獄への超特急便になりそうだから・・・嫌」
『ほ、ほほーっ偉くなったな和樹・・・まぁ京都に来てるのは判ってるさかい、絶対みつ
けたるで』
「そんなの絶対むりだろ」
『そうか?少なくとも、あんたが京都駅にいることは判るで』
「どうしてそう思うんだ?」
『伊勢丹の放送がチラと聞こえたで』
「え?」
オレは横を見る。確かにJR伊勢丹と書かれた案内版が見えた。
『それにな・・・鞄から原稿用紙が見えてるで』
「え、本当か!」
慌てて鞄を見直した瞬間。
「やっぱりお前や!みつけたで和樹ーっ!」
「!」
怒声が響き、声のするほう・・・大階段の遥か上に、オフロードタイプの自転車に乗った
姿が一人。
「由宇!」
「逃がさへんでーっ!」
「ひーっ!」
由宇がその大階段を自転車で一気に下りだす。
「あわわわ」
そんな馬鹿な事あるか!オレを目指し突っ込んでくる姿に、通行人は由宇を慌てて避け、
さながらモーゼの十戒の如く、オレへの道が開いた。
「逃げ逃げ逃げろーっ!」
「またんかーっ!」
迫りくる由宇。オレは反射的に地下街への階段に走りこみ、続けて【従業員専用口】と書
かれたドアに飛び込むと、様子を伺った。
「和樹ーっどこ隠れたんや!」
由宇の声が響く。と、とにかくこのままではいけない。オレはその入り口を通り、ごちゃ
ごちゃとする通路を適当に抜け、目の前に現れたドアをくぐった。
「どこだ・・・」
案内板を見ると、どうやら入った所の一本隣の通路らしかった。
「と言う事はこのまま、京都タワーまで直行すれば」
そしてオレは地下街を走りぬけ、通行人に紛れ込みながら、ホテル下のおみやげ売り場か
ら上に行き、ホテルのフロントへ逃げ込んだのであった。
〈 〉
「中に入ってしまえば判るまい」
とりあえずカギをし、オレは荷物を下ろした。それにしても、一体なぜ行動がばれたんだ?
考えてみたものの思い当たる節は・・・。
「ある」
オレは自身の答えを裏付けるために、携帯からその番号をコールした。
『ん、和樹ではないか、どうした早速駅までお出迎えか』
「やはり貴様かーっ!」
『はて、なんの事かさっぱりだが?まぁそれより・・・和樹ーっ!無駄なこと止めて出て
きたほうが得策やで・・・だそうだ』
「なんで由宇と行動してる!」
『なに、こちらでの案内をして貰おうと思ってな、気を利かせて頼んだわけだ』
「・・・」
落ち着けオレ。この勝手さは今に始まった事ではないんだ・・・落ち着け、落ち着け。
『京都タワーホテルか、今から行くからな』
「んな!なんで知ってる!」
『先ほど走ってくものだから、声を掛けられなくてな、場所だけチェックさせて貰ったわ
けだ』
「そんな馬鹿なーっ!」
『しかしだな、偽名は良くないぞ。これでは何号室か判らないではないか』
「!」
そうだ。オレ予約した時、いつもの癖(笑)で偽名使ってたんだっけ。
「ま、まさか片っ端から部屋を開けるわけにはいかないだろ」
少なくとも、それぐらいの常識はあるに違いない・・・多分。
『安心しろ、吾輩とてそこまで非常識ではない。同志和樹が居る階ならエレベーターで確
認したし、既にその階までやって来てる』
「き、貴様って奴は」
『それにな、お前の鞄には発信機が仕掛けあるからな』
「そんなバカなーっ!」
『つまりだ。いくらなんでも発信機なんてモノはすぐばれるんだ。それよりも、中から合
図して貰えれば』
「え?」
「聞こえたで和樹」
扉の向こうから響く地獄からの声。
「しまったぁぁぁぁぁぁぁ」
「そう言うわけで開けて貰おうか、My同志和樹よ」
「誰が開けるか!」
それだけは阻止しないと・・・と思った瞬間。
「こっちは時間がないんや!そんなまどろっこしぃ事せないでもな・・・これで一発や」
由宇の声が響き、
「ハンマー○ネクトォォォォ!」
「へ!」
「ディヴァィティングゥゥゥゥゥ○ライバァァァァァァァァァァ!」
【ゴガン】と異様な音がした後、扉は無常にも開いたのである。
「和樹ぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「ゲストページ描けやぁぁぁぁぁ和樹ぃぃぃぃぃ」
目がイっている由宇が迫ってくる。
「そんなわけで時間がないそうだ。関西進出の第一歩のタメ、頑張るが良いぞMy同志和
樹よ。さて、私は寝させて貰うぞ。明日からは観光三昧だからな」
悠々とオレが寝るハズの所に陣取り、大志は寝に入る。なんて勝手なヤツばかりなんだ。
「朝四時にイ○○コーヒーで待ち合わせや。きりきり描けや和樹ぃぃぃ!」
「知るか馬鹿やろーっ!お星様なんて嫌いだーっ!」
オレの絶叫は、ただ虚しく響いたのであった。

【京都府某山中】

「ふみゅみゅ〜ん」
泣きが入る詠美。
「ここ何処ですかね。詠美さん」
達観した風の千紗。
既に日もとっぷりと暮れた某所。山中の見晴台に居る詠美と千紗の二人。
「知らないわよ。パンダに聞いたら『京都市内を見晴らせる所に居る』って言っていたか
ら、タクシーのおじさんに『市内を見渡せる高い所に行って』・・・そう頼んだだけよ。
そしたらこんな山奥まで来ちゃって・・・」
途方に暮れる詠美。
「だいたいポチが悪いのよ。パンダの軍門に下って関西進出なんてしようとするなんて、
この詠美ちゃん様にひざまずいていれば、全国制覇だって夢じゃないのに」
既にねじ曲がった情報を鵜呑みにした詠美は、膝を抱えてブツブツと呟いていた。そして、
そんな傍らの千紗は、
「ああ、そうですね。遠くに街の明かりが見えますね〜」
まったく関係無いことを呟きながら、夜景をボーッと眺めていたのであった。
そして・・・そんな二人の反対側には、琵琶湖が満面の水を蓄え、ただ二人の居る比叡山
に掛かった月を水面に写し、夜は深まっていくのであった。

“二日目へ続く・・・”

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