寒いクリスマス(イベントSS十ニ月のお題「クリスマス」サンプルSS 投稿者:AIAUS 投稿日:12月15日(土)22時36分
 急に寒くなった日の夜。
 窓の外を見ると、雪が降り始めていた。
「ホワイトクリスマスだね、和樹」
 ベッドの中に寝転んだまま、嬉しそうに言うのは瑞希。
「ああ、そうだな」
 和樹はただ、そう答えただけだった。
「もう。ロマンチックじゃないなあ。もっと他に言うことがあるんじゃないの?」
 和樹は頬を膨らませる瑞希に対して、無言で床と部屋の隅を指差した。
 一升瓶を抱えて幸せそうな顔で寝こけている由宇、由宇に無理やり飲まされて、大の字になって
潰れている詠美と玲子、大虎の三人から避難するために部屋の隅にいるうちに疲れて眠ってしまった
あさひと千紗。そして、部屋の真ん中にはモロに被害を受けて気絶している大志。
「この状況でロマンチックかませるほど、俺の神経は太くない」
「クラブの合宿の雑魚寝みたいなものだと思うけどなあ」
 体育系ではない和樹は、瑞希のニューロンの太さに感心しながら、自分が被っているタオルケット
を被り直した。今日は寒い。洒落にならないくらい寒い。
 部屋にあった布団や毛布は、全てダウンした連中に被せてしまったので、和樹を覆っているのは
夏用の薄いタオルケットだけだ。外の冷気が徐々に部屋の中へと染み込んでくる。
「やせ我慢してないで、こっちにくればいいのに」
 部屋の主人のベッドを堂々と占領している瑞希は、呆れたような顔で和樹を見ている。
 和樹はその言葉には答えず、しばらく、じっと瑞希の顔を見つめた。
「なっ、なによ」
 瑞希が言葉に詰まる。その時、和樹はぼそっと答えた。

「……エッチなことされるから嫌だ」

「しないわよっ!」
 ゲシッ!
 瑞希の投げた枕が和樹の顔に当たる。
「あっ……モロに当たっちゃった。ごめ〜ん」
 瑞希は手を合わせて和樹に謝り、ベッドから降りて和樹のところへ枕を取りに行く。

 ふみゅ!
 ふぎゅ!
 いせりなっ!

 なにか、三人分ほど誰かに踏まれたような悲鳴が聞こえたが、瑞希は気にしない。
「えへへ。ごめん。まだ、怒っている?」
 ガシっ。
 笑って誤魔化そうとしている瑞希の腕を、無言で和樹がつかんだ。
「和樹?」
 キョトンとしている瑞希の腕を引き寄せ、和樹はその体を抱き締める。
「和樹……」
 瑞希の目が潤み、声はかすれるようになったが、即座にそれは悲鳴に変わった。
「きゃああっ! つっ、冷たいっ! 和樹の頬っぺた、ものすっごく冷たいっ!」
「真冬にタオルケット一枚で部屋の中にいれば、まあ、そうなるわな」
 和樹はそう言いつつも、逃げようとする瑞希を人間カイロとして利用し、冬の寒気で冷やされた体
を存分に暖めた。瑞希は本気で悲鳴を上げている。

「あ〜、温もった。サンキュウ、瑞希」
「さっ、寒い……雪ダルマに襲われているような気分だったわ」
 そう言いながら瑞希はベッドに戻ろうとするが、手は和樹の腕をつかんでいる。
「なんだ? さっきのでアイコだろ?」
「違うわよ、馬鹿。このままでいたら、翌朝には凍死体になっちゃうでしょう。ほら、ベッドに行く
わよ」
 和樹の腕に力がこもる。
「あのぉ、高瀬さん。時と場合を考えましょう。この状況で、そういう場面を見つかったら、どんな
目に会うか、想像できますよね?」
「変な敬語使って誤魔化さないの。いいわよ、緊急避難なんだから」
 瑞希は体育会系であり、和樹は文科系である。
 引っ張り合いの勝負の結果は歴然としていた。

「あ〜、暖かい。体温って偉大だなあ」
「ほら。だから、やせ我慢するな、って言ったでしょう?」
 ベッドの中で幸せそうに目を細めている和樹の頬を、瑞希は指で突ついた。
「なんだ?」
「ほら、プレゼント。他の連中に見つかると冷やかすに決まっているから、さっさと開けちゃって」
 瑞希が手にしていたのは、小さな紙箱だった。ガサガサと音が鳴る。
「……ペン軸。高かっただろ、瑞希。このメーカーのやつって」
「前に、画材屋さんで見つめていたでしょ?」
「ありがとうな。で、お返し」
 そう言いながら、和樹は瑞希の手に同じくらいの大きさの紙箱を押し込む。
 照れ臭いのか、顔は窓の方を向いていた。
 瑞希は何も答えない。不安になった和樹は、しばらくして彼女の方を向いた。
「どうした、瑞希。もしかして、迷惑だったのか?」
「まさか。喜びを噛み締めているところなんだから」
 瑞希は満面の笑顔を浮かべていた。
「忘れられているかと思っていたわ。和樹ったら、いつも漫画に夢中なんだもの」
「それはまあ、悪いと思っているよ」
「その言葉が聞けただけでよし。今年の分は許してあげる」
 瑞希はそう言いながら、プレゼントを服のポケットに入れた。
「開けないのか?」
「これ以上、変な顔は見られたくないから。それぐらいはわかってよね、和樹」
「わかんねえって」
 冬の寒気が部屋の中を覆っていたが、和樹と瑞希は寒さを感じなかった。
 クリスマスイブの夜は過ぎていく。
 二人の夜が過ぎていく。


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 おまけ

 翌朝。
「んっ、瑞希。おはよ……げっ!?」
 目を覚ました和樹の隣りで寝ていたのは、なぜか素っ裸の大志。
「……どういうことだ、マイブラザー」
 その大志の向こうにいるのは、布団を握り締めて呆然としている瑞希。
「いっ、いやあああああっ! ポチと眼鏡男がさかってる〜!?」
 悲鳴を上げてパニックを起こしている詠美。
「さっ、さかっているって何でしょうか?」
 あさひは呆然としている。
「これは……あれやな。九品仏大志の貞操、前後、同時に散るっていうところやろうか?」
 なぜか、眼鏡をキランと光らせながら由宇が言う。
「なっ、なんとっ! それは真実なのか、マイブラザーっ!?」
「もちろん、前が千堂君よね。千堂君は受けじゃなくっちゃ」
 大志は滅多に見せないような顔で、玲子は目をキラキラさせながら和樹と瑞希に問い掛ける。
「「そんなわけあるかーっ!!」」
 聖誕祭の朝。
 二人の男女の怒声が、街の空にこだました。

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