流れ星が降る(七月のお題「天体観測」サンプルSS) 投稿者:AIAUS 投稿日:7月2日(月)22時43分
 俺と瑞希の二人は、反射望遠鏡を使って天体観測をしている。
「ねえ、和樹。これが土星なの? 輪ッカがついているやつ」
「そのとおり。今日はよく晴れているから、見つけやすいだろ?」
「うん。来てよかったぁ」
 久しぶりに一緒の時間を過ごせるのが嬉しいのか、瑞希は素直に喜んでいる。

「よくない〜。寒い〜。なんで夏なのに、こんなに寒いのよぉ〜」
「ガタガタうるさいで、詠美。夜中に気温が下がるのは当たり前やろが」
「だから、なんでこんな夜中に、川縁で天体観測なんかしなくちゃいけないのよ〜」
「そや。それはうちも思いよった。なあ、和樹。なんで、川縁で観測せなあかんのや?
夜露が体にまとわりついてきて、うっとおしいったらないで」
「そうそう。もういい加減にして帰るわよ、ポチ」
 いつも俺の部屋かこみパ会場でギャーギャー騒いでいる二人組、詠美と由宇は
不満そうだ。確かに、今日はちょっと寒いもんなぁ。

「駄目よ。流れ星を見つけるまでは帰らないんだから」

 瑞希はきっぱりと言い切ると、少し動いた土星に照準を合わせるため、再び反射望遠鏡の
調整を始めた。
 あきらめたのか、詠美と由宇は川端に設置されたテントの隅に座ってボンヤリと星空を
見上げている。俺は瑞希を置いて、二人の側へと歩いていった。
「なんで、いきなり流れ星なんや。そんなもん、いつでも見られるやろうに」
「ううぅ、寒いぃ。パンダ、もうちょっと近寄りなさいよぉ」
「うっ、うわぁ! どこ触っとんや、変態!」
 二人ともあいかわらずだ。
 パサっ。
 俺は何も言わずに、寒がっている詠美の肩に毛布を掛けた。
「あっ……ありがと、ポチ」
 照れているのか、詠美の頬は少し赤い。
「なあなあ、和樹さん。うちの毛布はないんか?」
「ないよ。瑞希は当分あきらめないだろうから、二人で仲良く使ってくれよ」
「しゃあないなあ……こら、なんで離れるねん、詠美」
 由宇の言うとおり詠美は毛布を被ったまま、器用に由宇から離れていく。
「うふふふっ。毛布が欲しかったら、「お願いします、詠美さま」って言ってもらわないと」
「なんやてえ? こら、さっきまではうちの体温が恋しい言うとったのに、そういう態度を
取るんかい?」
「さっきはさっき。今は今だもん」
「そういう面白い考えで世の中渡っていけると思うとるんか〜!」
 俺は追いかけっこを始めた二人を放っておいて、一生懸命に反射望遠鏡の調整をしている
瑞希のところへ戻ることにした。

「なあ、なんで流れ星なんだ?」
「うるさいわね。もう少しで見つかりそうなんだから、放っておいてよ」
 ファインダーを覗き込んで調節ねじをいじっている瑞希。俺は肩を引っ張って、そこから
瑞希を引き離した。
「きゃあっ! ……なっ、なにするのよ、いきなり」
「ほら、流れ星」
 瑞希の肩をつかんだまま、俺は夜空を見上げる。
 瑞希も俺に合わせて、星がまたたく夜の空を見上げた。

 星空を駆けていく光の尾。

「さっきまでいくら探しても見つからなかったのに……」
「流星は明け方の方が見えやすいんだよ。知らなかった?」
 そう。今は夜中の四時。もうすぐ日が昇る時間。
「……和樹が……ように」
 瑞希は俺の言葉には答えずに、現れては消えていく流星の群れに向かって何かをつぶやいている。
「お願い事?」
 瑞希は恥ずかしそうに小さくうなずくと、何を願っていたのかを俺に教えてくれた。
「うん。この前、和樹が応募した作品が合格しますようにって。ちゃんとお願いできたから、もう
大丈夫だと思う。きっと」
「うん。瑞希が願ったんだから、きっとかなえてくれるだろうな」
 うなずいた後、俺は瑞希の肩をつかんだままのことに気付いた。
 手を離そうとすると、瑞希は俺の腕に自分の手を添えてそれを止める。
「和樹のお願い事は私がしたんだから、和樹は私のお願い事をしてくれなくちゃね」
 そりゃそうだな。
 俺は降って来る流れ星を見上げながら、瑞希が望んでいるだろうことをそっと口にした。

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 おまけ

「ちょっとパンダ! はやく代わりなさいってばっ!」
「でかい声出すなや。瑞希はんに見つかってしまうやろが」
 草端に隠れて、双眼鏡で和樹と瑞希の様子を覗いている由宇と詠美。
 バキバキバキ。
「楽しそうね。何をやっているのかしら?」
 草叢を踏み分けて現れたのは、ニコヤカに笑いながらコメカミに血管を浮かべている瑞希だった。

「「てっ、天体観測ですっ!」」

「水平にレンズを向ける天体観測があるのかしらね?」
「「どひいいいいっ!」」 
 満天の星空の下。
 おしおきされる同人少女達の悲鳴は、まだ止まりそうにない。

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