フゥ……。 私は溜め息をついて、窓から夜空の星を数えていました。 本当なら……藤田さんと二人で過ごしたかったのだけれど。 「どうしたのぉ、琴音っちゃ〜ん? 元気ないよほ?」 私の横で真っ赤な顔でニコニコ笑っているのは、無理やり飲まされたワインで酔っ払った葵さん。 男の子みたいに見えますが、スカイブルーのドレスが凸凹のない体によく似合う、立派な女性です。 今日、私が参加しているのは、女の子だけのパーティ。葵さんの先輩である綾香さんの家で、 友達同士で集まっているのです。それで、全員彼氏はいないわけで……そら、ブルーになるっちゅーねん(なぜ、関西弁?)。 「ねえぇ、琴音ちゃ〜んも一緒に飲もおってばぁ」 もしかして、葵さんって、からみ酒? 葵さんは凄い力で、グイグイと私を引っ張りました。 「ちょ、ちょ、ちょっと、葵さん? わかりましたから、そんなに引っ張らないでください」 「う〜ふ〜ふ〜」 ドラ笑い? 葵さんの髪が青いことと関連があるのでしょうか? 「えいっ!」 「きゃあっ!」 葵さんは軽々と私を両手で持ち上げると、まるでお姫様をさらう山賊のような軽やかなステップで、 私をパーティ会場まで連れて行ってしまいました。 「いらっしゃい、姫川さん」 頬をやんわりと赤く染めて丸テーブルに寄りかかっているのは、紫のドレスの綾香さん。 よかった……綾香さんはお酒大丈夫なんですね。 やはり、外国で暮らしていたから慣れているのでしょうか? 「……いいえ、今日は琴音と呼ばせてもらうわ。いいわね?」 ?? もしかして、綾香さんも酔っ払っている? 「うふふ……やっぱり葵が目をかけるだけあって、かわいい顔しているわね」 綾香さんは私の顎を中指でそっと押さえて、妖しく笑っています。 嫌な予感。 「あっ……あはは、ありがとうございます」 私は愛想笑いしながら、後ろに下がって距離を取ろうとしたんですが……。 ズズズ。 綾香さんは私が下がるのに合わせて一緒に近づいてきて、離れてくれません。 「琴音……私、昔はね、『がぶり寄りの綾香』って呼ばれたことがあるの」 「どっ、どういう経緯でですか!?」 「そんなことはどうでもいいでしょう。ねえ、琴音?」 あっ、綾香さんって、もしかしてそっちの趣味の人? 確かに、『お嬢様』『優秀』『黒の長髪』『わがまま』という、女王様の要素はそろっていますが……。 ……ちょっと待ってください? 松原 葵 :『ボーイッシュ』『ショートカット』『元気』 姫川 琴音:『お嬢様』『ロングヘアー』『おとなしい』 ということは、 綾香=ナオミお姉さま 葵 =マリ 琴音=リエ ということになってしまうでのは…………………………………………………………………………………… ………………………………………………………………………………………………にょええええええええ! こっ、このままでは、『ねこっちゃ、名前の通りの展開SS』が始まってしまいます。 私は「ToHeartエス×レーション編」から逃れるために、あわてて綾香さんの家を出て行ってしまいました。 「ううっ、寒い」 上着も着ずに借りていたドレス姿のままで外に出たのは失敗でした。もう夏が近いとはいえ、 ドレス姿での夜風はとっても冷たいんです。 「あっははは……寒いんだぁ、琴音っちゃ〜ん?」 横では、なぜか楽しそうに笑っている葵さん。 左手には、半分空になっているウォッカ……ウォッカのビン!? 「ひっ、一人で飲んじゃったんですか?」 「水だから大丈夫だってば〜」 葵さんはそう言うと、平然とウォッカを飲み干していきます。 「そっ、そんな飲み方をしていたら、酔うか死ぬかの二つに一つですよ!?」 あわてて私が葵さんからビンを取り上げると、葵さんはフニャフニャとタコさんのようになって、 私に寄りかかってきました。 「わたしぃ、もうダメ。あと、よろぴく」 「あっ、葵さん?」 私は男か女かわからないような友達と一緒に、公園のベンチでガタガタと震えています。 横にいる友達は、幸せそうに寝息を立てているわけで……。 フゥ……。 私は溜め息をついて、窓から夜空の星を数えていました。 本当なら……藤田さんと二人で過ごしたかったのだけれど。 っていうか、半分泣きが入っている状態です。 「藤田さ〜ん! 迎えに来て下さ〜いっ!」 来るはずがないのに、夜空にむかって叫んでみる私。 「は〜い、迎えに来たわよ〜」 やって来たのは、嬉しそうに手を振りながら駆け寄ってくる紫のドレスの綾香さんでした。 にょ、にょええええええっ! 呼んだのは藤田さんで、綾香さんじゃありませんってばーっ! そうして、私と葵さんは綾香さんに引きずられるようにして館へと連れ戻されたのですが。 その後、なにが起こったのかは……言いたくありませんです、はい。http://www.urban.ne.jp/home/aiaus/