卒業唱歌(「3月のお題:卒業」サンプルSS) 投稿者:AIAUS 投稿日:3月1日(木)00時47分
 HMX−13セリオ。
 西音寺女子学院での実働テストを優秀な成績で終えた彼女は、今日、学校を去る。
 たった一人の卒業式だ。
「……」
 校門から校舎を見つめているセリオの瞳は涙を流したりはしない。しかし、確かに
何かを感じている。そんなセリオの寂しげな背中を見て、綾香は急に彼女が可哀想になった。
 見送りもなく、卒業証書もない卒業式。
 クルっ。
「それでは綾香様。帰りましょうか」
 振り返ったセリオはいつものポーカーフェイス。しかし、綾香はセリオになにかをしてやりたかった。
「もういいの、セリオ?」
「はい。すでに記憶し終えましたから。大事な、大事な思い出です」
 セリオの顔に初めて浮かぶ、寂しげな微笑み。

「あ〜お〜げ〜ば〜、と〜お〜と〜し〜……」
「綾香様?」
「わ〜が〜し〜の〜お〜ん〜……」
「……あの、なぜ突然、歌い始めるのですか?」
「この歌は、仰げば尊し、よ」
「はい」
「卒業式には必ず歌う、大切な歌なの」
「卒業式?」
「今日はセリオの卒業式みたいなもんでしょ?」
「……はい」
「お〜し〜え〜の〜、に〜わ〜に〜も〜…」
「は〜や〜い〜く〜と〜せ〜…」
 綾香に合わせて、セリオも朗々と歌い始める。
「「「お〜も〜えば、いと〜はし、こ〜のとし〜つき〜」」」
 そして、いつの間にか、セリオと綾香の周りに集まった女生徒たちも歌っていた。
「「「「「い〜まこそ、わか〜れめ、い〜ざ〜さ〜らば〜」」」」」

「……みなさん、本当にありがとうございます」
「セリオ、みんなが見送ってくれて、よかったわね」
 深々と頭を下げるセリオの肩に、綾香はそっと触れた。

「セリオさん、卒業おめでとうございます」
「はい、沙希さん」
 綾香は優しい笑顔で、セリオに見送りの言葉をかける女生徒たちを見守っている。

「セリオちゃん、私のこと忘れちゃいやよ」
「はい、美鈴お姉さま」
「? お姉さま?」
 綾香は首をひねった。

「セリオお姉さま、ボクもたまにはかわいがってくださいっ!」
「はい、晴美ちゃん」
「? かわいがる?」
 綾香はさらに、首をひねった。頭の上にはクエスチョンマークがたくさん浮かんでいる。

「「お幸せに、セリオっ!」」」
 彼女達はそう言い残すと、セリオに花束を渡して走り去っていった。
「……あの、なんで「お幸せに」なの?」
 不思議そうに尋ねる綾香の手を、セリオはロボットとは思えないほど暖かく火照った指で、しっかりと握る。
「今夜にも、わかると思います」
「ほえ?」
 セリオは綾香の手を握って、西音寺女子学院から去っていく。
 その様子を、多くの女生徒たちがハンカチを口にくわえて見守っていた。

 合唱、じゃないや、合掌。
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※この作品は「お題:卒業」のサンプルSSです)

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