冬を代表する味覚、鍋。 それは柏木家においても例外ではない。 グツグツと煮える土鍋を囲んで、楽しい夕食が開かれていた。 「ふ〜ん。梓のところでは、こうやってダシを取るんだな。変わっているな」 「なんだよ、あたし達から見れば耕一のところのやり方の方がヘンだって」 梓から鍋の作り方を聞きながら、耕一はしきりに感心している。 それを横目でつまらなそうに見ているのは千鶴と楓。初音はおいしい鍋料理を食べるのに 夢中で、耕一と梓には注意が向いていないようだ。 「料理になると、梓の独壇場になるんだから」 「千鶴姉さんの独壇場になると、大変なことになるし……」 千鶴はチロリと楓を横目でにらんだが、楓は何気ない風を装って目をそらした。 「やっぱりハマグリは使うだろ、普通」 「こっちじゃ使わないけど。やっぱり、山の中だったからかな?」 「だいたい、楓だって料理作れないじゃない」 「作れないじゃなくて、作らないだけ。千鶴姉さんと違うもの」 「あら、作らない人間がどうやって上達するの?」 千鶴と楓の間には険悪な空気が漂っていた。 「たとえば、今、このお鍋に一つ味を足そうと思ったら、何を入れたらいいか、 あなたにわかるかしら?」 楓は黙って、チューブ入りの「ニラショウガ」を手に取る。 千鶴はそれをせせら笑うようにして、カップ入りの「ブルーベリージャム」を 手に取った。 「ところで、耕一。そろそろ食べないと冷めちゃうよ」 「ああ、そうだな」 「とってもおいしいよ、梓お姉ちゃんのお鍋」 千鶴と楓の行動には気付かずに、梓と耕一、初音は鍋に箸を付ける。 「ゴフッ!!」(X3) 「おかしいわね……」 「へんだよね……」 似た者姉妹、千鶴と楓は、床に倒れた三人を前にして、しきりに首を捻っていた。 ------------------------------------------------------------------------- このSSは、2月のお題「お鍋」のサンプルSSです。 感想、苦情、リクエストなどがございましたら、 aiaus@urban.ne.jp まで、お気軽にお願いします。http://www.urban.ne.jp/home/aiaus/